「ニットフリース」という謎の商品名
2020年11月13日 ユニクロ 6
今秋の気候をおさらいしてみよう。
10月はここ3年くらいに比べると涼しかったといえる。当方は高血圧なのか更年期なのか、それとも夏場で汗腺が開いてしまったのか、10月でも汗は止まらなかったが、さすがに真夏のように「暑い」と感じることはなかった。
覚えておられないかもしれないが、昨年も一昨年も10月10日前後に30度を越える日が何日かあった。今年はそれがなかった。だから比較的涼しい10月だったといえる。
11月は逆に気温が高いといえる。
3日ほど前から冷えたが、また気温は12日午後から上昇しており、大阪では明日以降5日間くらい20度くらいの日が続く。
上旬も20度くらいだったので、例年にない暖かい11月だといえる。
当方はやっと秋向けのアウターを羽織れたり、綿セーターを着られるくらいになった。この気温でダウンジャケットや厚手のフリースを着ている人が逆に信じられない。真冬は何を着るのだろうと疑問になる。
ウールのセーターを着るのはもっと気温が下がらないと無理である。
近年、ウールのセーターに代わって、子供やオッサンに重宝されているのがフリースである。
当方は着心地や生地があまり好きではないのでフリースはほとんど着ない。ウールのセーターの方が好きである。
ユニクロが飛躍する最初の一歩となったのが、フリースである。
ユニクロのフリースブームは97年・98年で、それよりも前にフリースは存在していた。現に93年~96年のメンズクラブにはけっこうフリースの特集があった。
当時のフリースというのは、
1、アウトドアブランド向け
2、高価格
という商品だった。1着安くても1万円くらいである。
ユニクロがブームとなったのはそのフリースを1900円という破格値で販売したからだ。もちろん、当時のユニクロフリースの品質は安かろう悪かろうである。1枚買って試着してみたが気に入らなくて近所のおばちゃんにあげた。
フリースがアウトドアブランドで重宝された理由は保温性もさることながら、
1、軽い
2、洗濯してもすぐに乾く
というメリットがあったためだ。
一方のデメリットは
風を通しやすい
である。
ところが、フリースという生地の構造について解説している記事はあまりない。せいぜいが「合繊を起毛した素材」程度である。そんなものは見ればわかる。
織物なのか編み物なのかに言及した記事がほとんどない。
しかし、「風を通しやすい」という特徴を考えれば明らかに「編み物」だといえる。セーターが風を通しやすいことを想定すればわかりやすいだろう。
あと10年くらい前に改めて買ったユニクロのベーシックフリースを改めて触ってみると、ポリエステル100%なのに生地自体に伸縮性がある。明らかに同じポリエステル100%の布帛とは伸縮性がまるで異なる。
この2つから考えて、フリースの生地は起毛した編み物だと考えられる。
で、あちこちサイトを調べていたら
http://www.kijiya.com/qanda/furisu.htm
という生地屋さんのサイトに行き当たった。
で、ここでフリースについて
丸編みした生地を起毛した布です。これで作った服は ウールのセータと違い普通の洗剤で洗濯でき丈夫です。ペットボトルを再生して作った製品もあります。
ユニクロが800万枚/シーズン売った事で有名です。大変申し訳ございませんが、当店では織物でないのでフリースは販売しておりません。
とのことで、「丸編み」だと明言されている。
ついでに、テキスタイルタリバンや丸編みの鬼などの異名をほしいままにする山本晴邦氏にも意見を伺ったところ、やはり丸編みだとのことだった。
ということは、編み物なので「ニット」なのである。
ユニクロのルームウェアに「ニットフリース」という謎の名称の商品がある。
多分、推測だが、「フリースみたいなセーターっぽい服」ということが言いたいのだろうと思う。だが、そもそもフリースは編み物なので元来「ニット」なのである。
生地を見ると、この商品は、恐らくは合繊で編んだ天竺を起毛させていると考えられる。合繊起毛天竺というのが正式な生地の名称となるのではないかと思う。
以前にも取り上げたジーユーの「スエットライクニット」と同じくらい謎の商品名だといえる。
スエットも裏毛という編み生地なので「ニット」なのである。スエットのようなニットというのはちょっと意味がわからない。
で、ここで当方は「ニット」という言葉の混乱を痛切に感じてしまう。
生地には大きく見ると、基本的には織物と編み物の二つしかない。
経糸と緯糸で構成されている生地は、呼び名にどれほどの種類があってもすべて織物である。織物を布帛と呼ぶこともある。
一方、編地にも丸編み、横編み、経編と3種類あるが、すべて編み物であり、編み物の英語がknit(ニット)なのである。
しかし、いつのころからかセーターをニットと呼ぶようになって、混乱が生じたと感じる。さらにいうなら、セーター関係者の中には「我々は丸編みは同じ編み物だとは考えていない」というような変なプライドを持った人もいて、混乱にますます拍車をかけてしまっている。
当方が危惧するのはこういう混乱した商品名に親しんだ人たちが店頭などの「川下」に入ってくることである。この人たちがメーカーや「川上」に対して意味の分からない指示をしてくることになる。
また、最近は川下の人もリストラが多くなっており、店頭が分かっているというところを買われて、川中や川上に転職してくることもある。そういった場合、この川下出身が謙虚に新しい業界に馴染めば問題はないが、そうではなく今までの使い方を押し通そうとして混乱が生じる場合もあると聞く。
製造の現場がますます疲弊するだけになるので「ニット」のような素材名での混乱はこれ以上拡大しない方が望ましいと思う。
それだけに「スエットライクニット」「ニットフリース」という商品名は個人的にはまったく評価できない。言ってみれば「ニットセーター」と同様のおかしな呼び名である。
テキスタイル用語辞典をどうぞ~
comment
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BOCONON より: 2020/11/14(土) 12:49 PM
昔タモリと関根勤が《いいとも増刊号》で「TV局のプロデューサーってみんなニットのセーター首に巻いててやだね,キザで」といったような話をしていて,僕は「何言ってんだろ,この人たち? セーターはニットに決まってるじゃないか」と思ったことがあった。どうやらこれ,「綿ニットのセーター」と言いたかったとおぼしい。
こういう混乱が起きる原因の一つに “デニム” 同様,”ニット” という言葉をセーターの意で用いる(カッコいいつもりで)というアホらしい風潮がある気もする。だいたいニットと言えば,シャツだってヴェストだって・・・いや,これはニットヴェストとか言えばいいのか。ああややこし。 -
BOCONON より: 2020/11/14(土) 1:10 PM
最近のお若い人たちは,と言うより中年男もあんまりセーターというものを着ないように見える。着ててもウールじゃなく化繊100%とか。まあ防虫剤も結構高くつくし,ケアが面倒だしなぁ。
と言っても,化繊だからダサいとも限らないし,だいいちひとの勝手ではある。けれども GU のスエットライクニットが「高見え」なんてCMで言っているのは少々なさけないね。実物は色もものすごく安っぽいし,始めから毛玉出来かけみたいな生地でびっくらしてしまうので(触った感触は僕は重視しないので知りません)。
今の子は,女子も本気であれが高く見えると思っているのだろうか? 「アンゴラみたい」とか。だとしたら(呼び方もさる事ながら)皆洋服見る目を失くしつつあるのだからこれはまことにゆゆしき事態である,と僕は思ったことであった。 -
BOCONON より: 2020/11/14(土) 1:16 PM
考えてみたら「ニットフリース」というのも「ニットだけどフリースだからお安く,イージーケアでかつフツーのセーターと違ってダサくないですよ」と言外にアピールしている気もするな。だとしたらこれまたまことにけしからぬことである。
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ns11 より: 2020/12/01(火) 2:54 PM
でもフリースって言葉も元々はウールを指すのでは? その場合はウールの織物を指すわけで・・・なんか混乱してきました。
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BOCONON より: 2020/12/02(水) 6:05 PM
「めんどくせえ奴だ」と言われるのをおそれずに言えば ...
・フリース・・・羊毛のこと。
・ウール・・・本当は羊に限らず獣毛を使った生地一般を指す。
・いわゆる “フリース” ・・・正しくは「ポーラテックフリース」。ポリエステル繊維で作ったウールに似た生地の意。という事であります。
もう完全に一般消費者と業界川下の方々は「ニット=セーター、またはセーターっぽい服地」って認識になってしまってますね(と、このブログ読むまで、ニットってセータのことだろ?布帛って美味いの?というレベルだった服飾ド素人が上から目線w)。
全く関係ないですが、わたしの専門分野の銃器関係だと、日本では「ライフル銃」って普通に表記しますが、本来はライフルというのは銃身内に刻まれた螺旋状の溝、または螺旋状の溝が刻まれた銃身を装備する銃のことなので、ライフル銃というのは銃が余計なんです。前にも書きましたが、ラッカー塗装はニトロセルロースラッカー塗料の略で、アクリル塗料はアクリルラッカー塗料の略だったりしますし、日本人って外来語の意味を理解せずに変な日本語を作るのが伝統のようですw