複合素材を作る方法は「混紡」以外にも3つあるという話 ~「ウール綿混」だからといって「混紡」とは限らない~
2020年11月5日 素材 2
今回は、生地についての超基本的なことを書いてみたいと思う。
というのは、繊維・アパレル業界は知識・認識が分断されており、共有化されづらいからである。国内はもとより、海外でも実際のところは同様なのではないかと思う。
なので、今回は製造加工業者やそれに詳しい人は読まない方が良いと思う。申し訳ないが時間の無駄になってしまう。
現在、われわれが手にする服のほとんどが、2種類以上の素材が混じった複合素材となっている。
綿100%、ウール100%という服もあるが、昔に比べるとだいぶと減っている感じがある。
その理由はさまざま考えられる。
1、機能性が重視され、機能繊維が多く使われるようになった
2、綿はともかく、ウールは近年値上がりし続けてきた(今年はコロナでの需要減で値下がりしている)
3、機能性の一つだがストレッチ素材が多用されるようになった
などである。
綿98%・ポリウレタン2%のストレッチ素材はもうすでに「複合素材」である。いかに複合素材を用いた服が多く売られているかこれでお分かりだろう。
複合素材は通常「〇〇混素材」と言われることが多い。先ほどの綿ストレッチ素材なら、綿ポリウレタン混という具合になる。
ウール80%・ナイロン20%ならウールナイロン混という具合だ。
ここまでは、販売員やスタイリスト、コーディネーターといった「川下」の人々にも普通に知られているが、問題は、複合素材の作り方には4種類あることが川下の人々にはほとんど知られていない。
今回はその4種類についてまとめる。
複合素材の4種類の作り方とは
1、混紡
2、交織(こうしょく)
3、交編(こうへん)
4、交撚(こうねん)
である。
川下の人々は、知識がないため、複合素材を全部「混紡」と言ってしまう(もしくは書いてしまう)。ネット通販の商品説明を書いている人も同様だ。
なぜ、すべての複合素材を「混紡」と言ってしまうのかという明確な分析は存在しない(多分、そんな需要がないからだろう)が、個人的には「〇〇混」という表記が「混紡」と結びつきやすいのだろうと思う。
しかし、製造する側からすれば「混紡」は複合素材作りの手段の1つでしかない上に、物性的に圧倒的に優位であるわけでもない。そして、外野から眺めている立場からすれば、「混紡」が最もめんどくさいのではないかと思える。
では、一つずつ見ていく。
1.混紡
混紡とは読んで字のごとく、混ぜて紡績するわけである。
綿やウールは原毛や原綿は繊維の塊の状態なので、これを紡いで綿糸や毛糸にするという作業が必要になる。この作業を「紡績」という。
綿花を紡績すれば100%綿糸になるし、ウールを紡績すれば100%毛糸になる。
混ぜて紡績するということは、糸にする前の段階で混ぜてしまうわけである。それを紡いで糸にするので出来上がった糸は自動的に複合糸になっている。
この複合糸を使って生地を製造すれば、その生地も自動的に複合素材になるわけである。
2、交織
織物は経糸と緯糸でできている。
綿100%、ウール100%という生地は経糸も緯糸も同じ成分の糸が使用されているわけである。
しかし、経糸か緯糸のどちらを他の成分の糸にすればどうだろうか。
経糸が綿で、緯糸にウールを打ち込めば、出来上がった生地は綿ウール混である。
綿・麻でもウール・麻でも理屈は同じだし、綿・ポリエステル、綿・ナイロン、ウール・ポリエステル、麻・ポリエステルも理屈は同様である。
3、交編
交織が織物なら、交編は編み物である。
綿とウールの糸を編み合わせれば、綿・ウール混の編地が出来上がる。他の素材でも同様である。
綿・麻混、ウール・ナイロン混、ウール・アクリル混、綿・アクリル混も同じ考え方で編むことができる。
4、交撚
川下の人々にとっては非常に地味で馴染みのない工程として「撚糸(ねんし)」という工程がある。
糸と糸を撚り合わせるという工程である。
しかし、これだけを聞いてもなぜそれが重要なのか理解できにくいのではないかと思う。
だが、ワイシャツ生地などで言われる「双糸」も撚糸工程で製造される。通常の綿糸は「単糸」だが、これを撚り合わせると双糸になる。
双糸の方が生地の表面が滑らかになり、洗濯しても斜行しにくい。そのため、高級ワイシャツ生地には双糸が使われている。
ズボンに使われるストレッチ糸も撚糸で作られる場合も多い。その場合は綿とポリウレタンを撚り合わせるわけである。
こう考えると、撚糸という工程は地味だが、重要性があることがお分かりいただけるのではないかと思う。
綿とウールとか、綿と麻、ウールと麻、と言った具合で撚り合わせて撚糸すれば、複合糸が完成する。この複合糸を使って生地を作れば、自動的に複合素材となる。
複合素材は、この4つの手法を使い分けることによって製造されている。製造コストや物性、生地になったときの表面感や機能性などを考慮しながら、4つの手法から適切な手法を選んで製造されているわけである。
外野たる当方からすれば「混紡」が一番手間がかかるのではないかと思う。とはいえ、交織、交編、交撚もそれぞれ何度も試作の必要があるから、門外漢が想像するほどお手軽に出来上がるわけではない。
まあ、そんなわけで複合素材を見ると、脊髄反射的に「混紡だ!!!」というのは、川下の人々にはちょっと慎重になってもらいたいと思う。
川下の人々は面白くもない当ブログなんて読んでいないかもしれないが(笑)。
comment
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BOCONON より: 2020/11/05(木) 7:26 PM
今回のお話,非常に興味深かったです。僕も長年洋服に関しては見たり買ったり着たり読んだり してきたけれど,こういうのは初めて聞いたので。「梳毛/紡毛」とか「綾織/平織」なんてのはおおよそ知っている人も少しはいそうな気もする。でも「混紡とは何ぞ」と言われたら「・・・混ぜてあるんだろ」くらいの事しか言えそうにない。
たとえばビエラ/ヴァイエラというのを僕は「綿の糸とウールの糸をこう,交互に織って…」などと思い込んでいたのだからお恥ずかしい話です。
全く門外漢の非服飾関係者のわたくしには面白かったっすw
この4種類の作り方だと、綿95%ポリウレタン5%とか差が大きい素材だと、大体は「混紡」になるんですかね?織ったり編んだりだと、色々割合変えられそうですが、極端な差には出来ないように、素人目には思われます。撚糸でもせいぜい3本と1本を撚るとか位だろうから75%対25%くらいでしょうし。
この前、ヤフーニュースでスタイリストさんが書いたスーツの時に履く靴下の記事を見ましたが、そのスタイリストさんは「平織りの靴下は~」とか言ってて、コメントで突っ込まれてましたw