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南充浩 オフィシャルブログ

製造業者が手掛ける「売れない直販品」の問題点

2020年10月29日 製造加工業 0

インターネットやSNSの完備、YouTube動画の普及で、製造業者や中間業者が、最終製品を開発して消費者直販を始めることのハードルは格段に下がった。

しかし、参入障壁が下がることと、事業として採算化することは別である。もっと直截的に言えば、参入できるということと、売れるということは別物である。

これは何も衣料品や繊維製品に限ったことではなく、食品、雑貨、機械すべてにおいて同様である。

 

先日、東洋経済オンラインにこんな記事が掲載された。

 

広島世羅「まずいワイン騒動」は何がまずいのか

「売れない特産品」を量産する地方の無責任構造

https://toyokeizai.net/articles/-/384223

 

何日か前に、広島県の世羅の特産ワインが町会議員に「まずいから売れないのではないか?」と酷評され、ニュースになった。

「まずいから」というのはなんとも直截的でもう少しマシな言い方はなかったのかと思ってしまう(笑)が、ワインは所詮は飲料なので、売れないということの原因の一つには商品そのものの「味の良し悪し」があることは間違いない。

もちろん、商品そのものは悪くなく、売り方やプロモーションの手法が悪いという場合もある。

しかし、商品そのものの出来を疑ってみることも必要不可欠な改善策だし、実際に地場の特産品というのは、商品的にイマイチな物も珍しくない。

 

この記事の筆者の感想ではこうなっている。

 

私も実際にワインを飲んだところ、決して「とんでもなくまずくて飲めない」というものではありませんでした。

 

とのことで、不味くはないが特筆するほどおいしくもないということである。記事にも書かれてあるように味覚というのはかなり個人差があるから、この筆者がイマイチだと感じても、美味しいと感じる人もいるだろうが、今まで「せらワイン」がまったく話題にならなかったのは、美味しいと感じる人が少ないか、美味しいと感じるだろうという人の手に「せらワイン」が届いていないかのどちらかである。

要するに、商品内容そのもの(ここでは「味」)を見直してみるということは「売る」ためには必要な作業ではないかと思う。

 

この「せらワイン不味い事件」で問題なのは、町議員ではなく、筆者が指摘する以下の部分である。

 

累積赤字に悩んでいる第3セクター「セラアグリパーク」の取り扱う「せらワイン」に対して「まずいから売れないのではないか?」という趣旨の発言をしたところ、地元関係団体が「不用意な発言だ」「生産者のやる気をなくす」といった声明を出し、町議会ではその町議への辞職勧告決議が可決される事態にまで紛糾したという話です。

 

おわかりだろうか?

何が不用意なのか全くわからないし、「生産者のやる気をなくす」ってのは生産者とやらは、どれだけ今まで過保護だったのかということでしかない。

 

売り上げが思ったように上がらず赤字が続き、在庫も積み上がっているような状況からすれば、商品そのものに問題がある可能性を検討するのは妥当なわけです。しかし、そのような発言に対して「生産者のやる気をなくす」などという反論をしてしまうあたりに、特産品開発の問題が透けて見えます。

普通に考えれば、なぜこのような「売れない特産品が作られ続けているのか」が問題の本質のはずであり、そこからは当然「なぜ商品や販売手法などが改善されないのか」ということが問われないといけないはずです。実はこうした話は何も世羅町に限ったことではなく、全国的な問題になっています。

 

ということであり、この論旨は、別に広島の一地方のワインだけではなく、全国各地の特産品にも通じる。もちろん、国内繊維産地にも。

この記事の筆者は、地方特産品への助成金や補助金などの公的資金投入について問題を提起している。公的資金を投入するのが悪いのではなく、受け取った業者の活かし方があまりにも下手くそに過ぎるということを問題視していて、それは繊維産地も同様だと当方は強く感じる。

 

税金を使って素人が思いついた特産品でいきなり地元が稼げるようになるなどということは、確率から言ったらほぼゼロに近いものです。

「売れない特産品」には、必ず売れない理由があります。試作品の段階、あるいは発売開始時点から何らかの問題を抱えているのは当然です。最初からヒット商品が作れるのなら誰も苦労はしません。世の中には、改善に改善を重ねて、その末にヒットを生んだ商品が多数あります。それに比べて、特産品の多くは開発され販売されたはいいが売れ残り、それで終わりになっていく商品がいかに多いことか。

 

このくだりは、国内の繊維産地業者や「背に腹は代えられない」とばかりに安直に消費者直販に走っている衣料品OEM会社の社長にも熟読してもらいたいと思う。

繊維産地で直販の成功者というと、「エアーかおる」という綿100%でありながら優れた吸水速乾性のタオルを開発した浅野撚糸だろうか。撚糸業という地味で消費者直販から最も遠い存在でありながら、スーパーゼロという撚糸を開発し、それをタオルに使うことで直販に成功した。(もちろん、タオル生産は専門業者に委託)

しかし、このタオルとて、開発が成功するまで4年間もかかっている。その間、この撚糸会社の業績は低下する一方だった。

商品開発にはそれくらいの時間と手間が必要だということである。

インフルエンサーやスタイリストや芸能人もどきの人たちのように事前に知名度が高くてファンやフォロワーが多いなら、テキトーな商品でもそれなりに売れるだろうが、製造加工業者なんて基本的には世間の知名度はゼロに等しいわけだから、商品の完成度こそが命綱である。そこを直視しないようなら売れるはずもない。「せらワイン」とやらもこのまま鳴かず飛ばずが続くのではないかと思う。

 

 

そんなエアーかおるをどうぞ~

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