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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルの「直貿」とOEM業者のオリジナルブランドが成功しにくいと思う理由

2020年10月28日 トレンド 0

新型コロナによる休業がダメ押しして、アパレル関連の苦境が顕在化した。

利益率を高めるために、アパレルは中間マージンを排除する目的から、OEM・ODMを外して「直貿」へシフトする。外されたOEM・ODM(商社も含む)は、新たな稼ぎ口を求めて、オリジナルブランドを立ち上げて消費者直販を模索する。

こんな感じが「今」のアパレル業界のトレンドである。

しかし、これは両者共倒れになる可能性が極めて高い。

もちろん、成功する企業もあるだろうが、それは一握りで、その成功までに何年間もの長い時間が必要となる。こらえ性のない「糸ヘン」の人たちがそれに耐えられるかどうか。

また、自社の認識の誤りも直視する必要がある。直視無しでは到底成功しないだろう。

だから、成功する可能性は極めて低いのである。

 

では、その理由について考えてみよう。

まず、アパレルのOEM外しによる「直貿」だが、1品番とか2品番なら成功するだろう。しかし、年に30型とか50型、100型を展開するようなアパレルなら画餅に帰すだろう。

ハッキリ言うと、OEM・ODM(商社を含む)にやってもらった方が効率的で、もしかすると製造工賃も「直貿」よりも安く済むかもしれない。

OEM・ODMを介在させる最大のメリットとは何だろうか。

それは

素材や副資材の取り寄せから始まる生産のことを一切丸投げできること

である。

まあ、ODMになると「デザイン」まで丸投げすることになるのだが(笑)。

繊維業界の川下の人は、本当に生産工程に関する知識が乏しい場合が多い。そのため、販売員やスタイリスト、ファッションコーディネーターみたいな人ほど、生産を安易に考える傾向が強い。

例えば、Tシャツしか企画生産しないアパレルがあったとする。

これなら「直貿」は比較的簡単で成功しやすい。素材を選ぶのも多くてせいぜい数種類で済むし、形も数種類で済む。あとはプリント柄や色合いでバリエーションを増やせばよい。

いろいろと型数があるように見えて、実質的に展開している品番は5品番くらいしかない。しかも全部Tシャツであり、広い意味でいうと1種類しかない。

これなら、アパレルの人が、直接、生地を選定し、副資材を取り寄せ、染色工場や縫製工場と直接交渉して生産を進めることは比較的難しくない。

最初は多少不慣れでも数か月もあれば勘所を掴むようになるだろう。

 

しかし、実際のアパレルはどうか。特に総合アパレルになると企画生産する商品の型数が多岐にわたる。

スカートあり、セーターあり、ブラウスあり、コートあり、ジーンズあり、という具合だ。

しかもそれぞれのアイテムも何品番もあり、それぞれに使用する素材も異なる。

デニムあり、ツイルあり、天竺あり、ブロードあり、シフォンあり、横編みあり、という具合だ。

中間業者を介在させない場合、この素材選定はすべてアパレル側でやらなくてはならない。果たしてそれが可能だろうか?

そして、それが終われば副資材の選定と取り寄せである。ボタンもそれぞれの服のデザインや色柄などと合わせる必要がある。

そこから工場との折衝だが、縫製工場というのは、それぞれに得意分野がある。デニムとシフォンブラウスは同じ工場では縫えない。それぞれのアイテムに適した工場を「自分達で探して」折衝し、指示を出さなくてはならない。

そんな多数の工場を果たして今のアパレル企業が管理できるだろうか?(笑)

中間業者はこれらをすべてまとめてやってくれている。外してみて改めてありがたみがわかることになるだろう。

 

一方、中間業者の直販事業だが、これも極めて失敗する可能性が高い。

理由は、中間業者というのは基本的には「生産側」に立つ人達で、「売る」人ではない。

販売のスキルは極めて低い。

販売のためには、広告宣伝や広報といったプロモーションが絶対に必要になるが、それに対する認識がほとんどない。

極端な言い方をすると、ベテランの中間業者は、工場のオジサンとほぼニアリーな人たちも珍しくない。

どっちが工場の人かわからないような場合さえある。

 

以前にも何度も書いたが、工場の人や産地のオジサンほど、

 

「ネット通販を立ち上げればすぐに売れる」

「楽天やZOZOやYahoo!ショッピングに出店すればすぐに売れる」

「クラウドファンディングには夢がある」

「インスタグラムを始めればすぐに世界とつながる」

「インターネットは世界につながっているから、すぐに世界からアクセスがある」

 

というような寝言をよく言う。

 

インターネットはたしかに世界とつながっているが、インターネットで世界とつながっているのはそのサイトだけではない。

何千万、何億というサイトがつながっている。

当然、埋没して誰にも見られないサイトが大半ということになる。

名も知れぬ中間業者が立ち上げた知名度のないオリジナルブランドのサイトなんて確実に埋没する。

仮に、中間業者のオジサンの趣味がガンプラだったとして、ガンプラブログは何千とあるが、知名度のないモデラーのブログまでこのオジサンはわざわざチェックしているのだろうか?例えば、今日から始めましたみたいな無名のモデラーのブログをわざわざ読む人がどれだけいるのか?

無名の中間業者が始めたオリジナルブランドなんて、ガンプラの組み立てを今日から始めましたという無名モデラーと同様である。

このことを理解していない業者は絶対に失敗する。

楽天もZOZOもYahoo!ショッピングも何千という名だたるブランドが出店している。そんなブランドと並んで無名のオリジナルブランドをわざわざ選ぶ人がどれだけいるのか?当方なら確実に名だたるブランドを選ぶ。

消費者の認知を高めるためには長い時間が必要だし、広告宣伝・広報活動も必要となり、それらはいずれも無料ではない。相応の費用がかかる。

 

 

だから、どちらの場合も成功するのはほんの一握りなのである。

今回の動きは「背に腹は代えられない」ということなのだろうが、骨折り損のくたびれ儲けに終わる場合がほとんどではないかと思う。

 

 

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