割引クーポンで大幅値引きをしても「プロパー販売」とはこれ如何に?
2020年10月16日 ネット通販 0
新型コロナが起きる前から、国内のアパレル企業、特に数百億円規模の中堅以上に対しては、
売上高を伸ばすことは限界に近いから、利益率を高めるべきだ
という論調が主流となり始めていた。
新型コロナによる失速で売上高の低下はより鮮明化したため、今後、さらに利益率向上という風潮が強まることになると考えられる。
利益率の向上という取り組みについては当方もまったく異論がない。
また大手を中心に不採算店舗を撤退するため、相対的にネット通販比率は高まる傾向にある。
で、この利益重視の流れで注目されるのが「プロパー消化率」という言葉である。アパレル業界において「プロパー」とは定価ということで、要するに値引きせずに販売することを指す。
値引きせずに売れる率が高ければ高いほど利益率は高くなるということで当たり前のことである。
しかし、このプロパー消化率という指数が本当に「真のプロパー販売比率」を割り出したものかどうかは非常に疑問である。
特にネット通販に力を入れている企業やブランドの「プロパー消化率」はあまり当てにできないのではないかと考えられる。極言すれば「見せかけのプロパー消化率」といえるのではないかとさえ思う。
通常の店頭値引きの場合は、営業利益を削ることで値段を下げる。だから値段を下げなければ下げないほど営業利益は増えるというわけである。
逆に店頭のプレセールや夏冬のバーゲンが不発で、最終的に月末に大幅値引きし、投げ売りセールをすればするほど営業利益は削られる。
営業利益とは、本業の儲けを指す。これが大幅減少したり、赤字転落したりすると、要するに本業が儲かっていないということになる。
だから「プロパー消化率が重要」ということになり、それについては異論はない。少なくとも理論上は。
だが、ネット通販はどうだ?
純粋にどれほどの量が「真の定価」で売れているのか?もちろん、ネット通販でも大々的にセールを行っている時期とそうでない時期があることくらいは当方だって知っている。
セールを行ってない時期に売れた物はプロパー比率が高いのではないかと考える人がいても無理はない。
だが、セールを行ってない時期でもネット通販には「割引クーポン販売」がある。
割引クーポンで有名なのはZOZOTOWNだろう。経営が変わった今でも割引クーポンは連日連夜配布されている。
例えば、10月15日の夜時点で、56ブランドが「本日の割引クーポン」を発行している。金額は1000~3000円で、ほとんどが1000円と2000円で、3000円を発行しているのは腕時計ブランド「ティソ」だけである。しかし、この「ティソ」の販売価格は最低でも3万円台で、あとはそれ以上なので比較的高額商品であるため、この3000円割引きはそれほど大きな割引率ではない。
例え、3000円引きクーポンを使ったとしてもティソはプロパー消化率は高いといえる。
だが、他の55ブランドはそうではない。
2000円台・3000円台商品で1000円割引クーポン、6000円台・7000円台で2000円割引クーポンがざらにある。
2000円台で1000円割引クーポンを使うなら、実質4割引きくらいに相当する。
6000円台で2000円クーポンを使えば、30数%引きである。
はっきり言って、夏冬のバーゲンセールと変わらない値引き率だといえる。
だが、ネット通販の割引クーポンの問題点はここではない。これが通常のバーゲンと同様に利益を削って値引きしているのなら、何の問題もない。プロパー消化率は低下したけど、在庫消化をするためには仕方がないよねと納得できる。
問題は、恐らく、この割引クーポンで4割引き、3・5割引きの商品が「プロパー販売」としてカウントされてしまうだろうという点である。
どういうことかというと、確実にそうだと発表されているわけではないが、ネット通販を得意とする業界の人や、ネット通販の担当者だった人たちからの証言では、「クーポン割引の原資は販管費から出ている」と言われている。ついでにいうと、貯めたポイントでの値引きも販管費から出ている場合が多いと言われる。
実質的にバーゲン並みの値引きをしているのに、計上される部門が違うからプロパー販売にカウントされるというのである。4割引きや3・5割引きの商品が「プロパー販売」とはあまりにも馬鹿げている。(笑)
先ほど例示した「ティソ」の腕時計なら、まあプロパー販売と言えなくもない。3万数千円を3000円値引きしているわけだから、割引率は9%程度だ。ティソの時計は5万円台、7万円台、9万円台などが主流だから3000円割り引かれたところで、割引率は5%とか3%程度になる。
これなら、少ない割引でサービスしたと言え、プロパー販売に含めても仕方がないといえる。
だが、4割引きとか3・5割引きもしておいてそれが「プロパー消化」と言えるのだろうか?これをプロパー販売と見なすことで自社・自ブランドの販売力を大きく見誤ることになるといえる。
店頭のポイントだって同様だ。定価1万円の商品を貯まっていたポイント5000円分を使って、5000円で買われると半額での販売になる。この半額販売が「プロパー消化」というのはあまりにもおかしいだろう。
そして、問題点はこれだけにとどまらない。
ネット通販の中の人も「クーポンはプロパー販売」という考えに立脚している点も問題である。
例えばこの記事。
https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=4800
前号に引き続き、マガシークの井上直也社長に前期の総括や成長戦略などを聞いた。
――プロパー品を売るための施策は。
「クーポンもプロパー品を売る施策のひとつだ。」
と、のうのうと答えておられる。先ほども述べたように「ティソ」の割引率3%とか5%ならなるほどその通りだといえるが、割引率4割強のなにが「プロパー販売」なのか。笑わせてくれる。
個人的には、「プロパー消化率」という指標をことさら重要視し、各社の努力目標に置くと、クーポンやポイントを使っての大幅値引きが横行するようになると見ている。そしてその結果「名ばかりプロパー販売」は増えるものの、営業利益は伸び悩むことになる。
もちろん、何らかの指標を設置することは必要だと思うが、クーポンやポイントという抜け道のある状態で「プロパー消化率」を過度に押し付けると、それは形骸化してしまい、実質的にアパレル企業やブランド経営はさらに窮地に追いやられるのではないかと考えられる。
書いてる人も怪しいしタイトルも怪しい本をどうぞ~