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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販とSPAブランドの成長で「バーゲンセール後ろ倒し」は成立しなくなった

2020年10月6日 ネット通販 0

アパレル業界が苦境にあるのは、新型コロナ以前からで、特に2009年以降は苦境が続いていると感じる。もちろん、各社の状況には格差があって、全体的には苦境だが成長している企業やブランドもある。

しかし、2010年以降、それまでのアパレル業界の経験則が通用しない事象も増えており、アパレル業界へ様々な提言がなされている。

個人的に違和感を感じるのは、少なくともここ20年間くらい、アパレル業界やファッション業界の中心にいた年配の人たちが突如として「だからダメなんだ」というスタンスで提言することである。

幕末の討幕の志士は数多くいたが、中心に立っていた人もいれば、端っこの方で活動して無名のまま人生を終えた人もいる。いつの世の中もそんなものである。

無名のまま終えた人が「俺たちの目指した新政府はこんなはずではなかった」と悔やんだり、批判したりすることは理解できる。現役当時にはその意見をいう機会すらなかっただろうし、意見を述べたところで採択はされなかっただろう。

だが、仮に木戸孝允とか岩倉具視とか、中心にいた人が、新政府が苦境に陥ったとたんに「前々から間違っていると思っていたんですよね~」とか言い出したら、それは明らかにおかしいだろう。そもそも中心にいたのはあんたらじゃないかと無名の者たちは憤慨するだろう。

当方と同年代から年配にかけて、90年代から業界の中心にいたり業界にそれなりの影響力を持っていた人たちが、最近になって業界の在り方を批判するのは、これと同じくらい疑問しか感じない。

まっとうな提言ならまだしも、批判のための批判を見せられたりすると、いや、今更何をとしか思えない。15年くらい前に声高になぜ叫ばなかったのかと思う。

例えばこの記事なんてその最たる例だと感じる。

 

「アパレル業界はなぜ「セール前倒し」をやめられない?」

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00359/00003/

 

そんな中、打開策を探る動きもあった。12年、三越伊勢丹ホールディングスとルミネが声を上げ、セール時期を2週間ほど先送りしたことがあったのだ。影響力のある小売りが痛みを伴った変化を選んだわけだから何らかの波紋が起きると期待したのだが、追随するところは皆無だった。賛同する百貨店が一部にはあったが、自店だけセールを遅らせても、他の店舗では同じ商品をセール価格で買えることになり、劣勢になってしまうからだ。

 さらに、この動きに伴う思わぬ余波も起きた。他店でセールになっている商品を引き上げて正価で売れる他の商品を投入したり、セール時期に専用の商品をつくったりするところが出てきたのだ。結局、業界の足並みはそろわず、この試みも18年には元の状態に戻ってしまった。

 

伊藤忠ファッション研究所の有名なあの人が書いておられるが、当方のように無名な存在ではなく、2000年ごろからすでにそれなりに知名度があり、業界に影響力を及ぼしてきた立場なのに、どうして2005年にこれを指摘しなかったのだろうか。今、2020年にこれをその立場で指摘して何の益があるのだろうかと思ってしまう。

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当方は洋服自体は好きだが、洋服も食品もガンダムのプラモデルも等しく「単なる商材」としてしか見ていない。近所のジョーシンに行けば、なぜか何年間か売れ残り続けたガンダムのプラモデルが半額になっていることもある(不定期で)。スーパーマーケットでも百貨店の地下でも、今ではコンビニでも「消費期限間近」の食品は値下げして売り切られる。

不良在庫を値引きしてでも売り切るのは極めて当たり前の売り方で、なぜ、服だけは「怪しからん」という論調になるのかまったく理解できない。

むろん、営業利益率を高めるためにはなるべく値引き販売しないことが望ましいのは言うまでもないが、それでも売れ残ったなら、叩き売るしかないし、叩き売ればいい。

売れ残りを極力出したくないなら、マーチャンダイジングの精度を高めるために研鑽すべきであり、それしか方法はない。

 

当方は無料会員登録しているので最後まで記事を読んだが、個人的には全く参考にならなかった。

この提言や、伊勢丹のセール後倒しは2005年頃なら成立していたかもしれないと当方は思う。理由は、実店舗しかほぼ売り場がなかったからである。

2005年当時と、伊勢丹が後倒しを提唱しルミネが追随した2012年と何が違うのかというと、ネット通販の台頭である。この記事にはなぜかネット通販の台頭が全く触れられていない。

 

いくら実店舗で値引きセールを禁止したところで、楽天市場、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWNといった大型モールでは毎日のように割引クーポンが発行されている。また楽天スーパーセールのような定期的な大セールも行われる。

モール型ではない大手のAmazonだってタイムセールや日常的な値引きがある。

これらに出店・出品している時点で、恒常的に値引きセールされているということになる。実店舗で定価で売られていてもネットを検索すれば値引き販売されていれば、当然、ほとんどの消費者は実店舗では買わない。そうなると、ネットと実店舗で値引きのタイミングは歩調を合わせることになる。

これらの「庶民的大型サイト」に出店・出品していないような高級ブランドがメインの伊勢丹は後倒しできても、これらのサイトと同じブランドが出店しているルミネは後倒しできなくても当然だろう。ルミネで値下がりしてなければZOZOTOWNで値引きクーポンを使って買うだけの話である。サイズが合わないと嫌だから、ルミネの実店舗で試着だけしてサイズを確認してからZOZOTOWNで値引きクーポンを使って買うことになる。

だからルミネのセール後倒しが成功するはずもない。

 

一大勢力となったネット通販を無視して「値引きセール悪玉論」を唱えてみても実態に沿っておらず何の効果もない。

 

またユニクロやアダストリア、ZARAのようなSPA業態が主流となっていることから、一定期間売れ残った商品は随時値下げ販売されることが常態となっており、消費者もすでにその売り方に慣れている。旧アパレル勢力が「夏と冬のセール以外は怪しからん」とか「セールは後倒しすべき」と主張したところで、随時値下げされた商品をSPAブランドで買うだけの話である。そして、このSPAブランドが登場してからすでに20年以上が経過していることを忘れてはならない。もうすでに多くの消費者にとって、「SPA方式の随時値下げ販売」は決して珍しいものではなくなっており、習慣づいてしまっている。

 

 

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