
「オフプライスストア」の乱発は「名称ロンダリング」なのでは?
2020年10月5日 トレンド 0
昔から繊維・アパレル業界はその時々の「パワーワード」に乗っかることが多い。
その昔は「パワーワード」の冠をかぶせただけで売れたのだから仕方がない。例えば、96年頃なら「ビンテージジーンズ」である。ジーンズ系ブランドは「とりあえずビンテージ」と言っておけばそれなりに売れた。もちろん、ブランド間での格差はあったが、それなりに潤った。
2010年以降も似たようなことをやっているが、その効き目はどんどんと失われていると感じる。
大衆には今も昔もミーハーな部分はあるが、そのミーハー度合いや傾向、方向性は2010年以前とはだいぶと異なっているように感じる。
2020年のアパレル業界が思い描く「パワーワード(笑)」を列挙してみようか。
・D2C
・サステナブル
・エシカル
・Eコマース
・オムニチャネル
・オフプライスストア
・インフルエンサーマーケティング
ざっとこんなところではないかと思う。
しかし、そのどれもが2010年以前のような効力は発揮されていないと感じる。
以前にこのブログで「何でもD2C」のおかしさや「とりあえずサステナブル」の面妖さはご紹介した。
前回の内容は特に「サステナブル」についてである。
サステナブルブランドのライセンス生産・販売ってちょっと意味がわからない。
で、最近もう一つ気になるのが、「オフプライスストア」というパワーワード(笑)の乱発である。
そのまま訳すと要するに安く売る店という意味だが、じゃあアウトレットとどう違うの?って話になる。
個人的には次のように区別している。
アウトレット・・・・自社製品と自社ブランドのみの型落ち商品や売れ残り在庫品を安く販売する
オフプライスストア・・・他社製品・他社ブランド品の不良在庫を仕入れて安く販売する
である。
例えば、ワールドが数多くある自社製品を集めて安く売る「ネクストドア」はアウトレット、他社製品・他社ブランド品も仕入れて売る「アンドブリッジ」はオフプライスストア、というのが一番わかりやすい区別ではないかと思う。
しかし、最近、様々な企業が「オフプライスストア」を立ち上げているが、その区分がアウトレットとわかりにくく不明瞭な場合が多い。
下手をすると単なる「名称ロンダリング」ではないかとすら感じる。
最近だと、オンワードとエストネーションがそれぞれ「オフプライスストア」を立ち上げている。
サザビーリーグが手掛けるセレクトショップのエストネーション(ESTNATION)は10月2日、銀座店1階をオフプライスストア「エストネーション セントラル(ESTNATION CENTRAL)」としてリニューアルオープンする。2~3階はエストネーション銀座店の業態を継続するが、21年2月には全フロアをオフプライスストアとしてグランドオープンする。シーズン遅れの商品を30~50%引きで販売する。利用はエストネーションの会員に限定するが、その場で入会することもできる。
とある。そして品ぞろえについては
従来のエストネーション同様の陳列と接客で、エストネーションの買い付け品やオリジナル品、サザビーリーグ傘下でアウトレットストアを持たない「サザビー(SAZABY)」「カンペール(CAMPER)」「ハウス オブ ロータス(HOUSE OF LOTUS)」「メゾン スペシャル(MAISON SPECIAL)」に加え、エストネーションの取引先ブランドなどを並べる。また、ハイブランド専門の中古通販サイト「リクロ(RECLO)」と協業で顧客からの買い取りも行い、一部を店頭に並べる。想定客単価は3万円。
とのことで、品揃えに関していえば、オフプライスを名乗る資格はあるだろうと感じる。
個人的に最も「けったい」だと感じるのは、赤字の部分である。これ、会員制でも何でもないよね?その場で入会できるんなら、実質「誰でも入店できる」ということである。
そして、これはその昔、問屋街で「赤ちゃん本舗」が採った手段と同じである。本来は仕入れ業者用という名目だった「赤ちゃん本舗」だが、実際は一般消費者向けへの販売で大成功した。その時に採ったのが「会員制入店だけど、その場で会員登録できる=実質的に誰でも入店可能」という手段だった。
エストネーションに関して言えば、そんなカモフラージュする必要あるの?と疑問でしかない。
オンワード樫山は18日、初のオフプライスストア業態「オンワード・グリーン・ストア(ONWARD GREEN STORE)」を千葉県柏市に開いた。当面は自社のブランドを販売するが、順次、他社が展開するブランドも含めて取り扱いを広げる。来年春までに東海と関西にも出店する。
とのことで、現時点では自社製品のみなので、いろいろな言葉で修飾しようが「直営アウトレット店」でしかない。
他社ブランドも扱う予定とのことだが、予定は予定でしかないし、どうも着手する時期が明言されているわけでもなさそうだから、言っているだけなのかもしれない。
話を戻すと、エストネーション銀座については、いろいろと「環境対応がなんたら」とか言っているが、要は銀座店がすごく売れてなかったということであり、銀座のど真ん中で在庫処分セールを開始したというだけの話である。
また業界の噂では、サザビーリーグの中でもエストネーションは全国的に苦戦傾向であり、従業員のボーナスもだいぶとカットされたと言われている。
銀座店のオフプライス(笑)化はそれを裏付けているのではないかと思う。
それはさておき。
この手の「パワーワード」の乱発による「名称ロンダリング」は一般消費者を混乱させるばかりでなく、業界内部の人間にすら混乱を与える。その結果、わけのわからない施策が連発されることとなり、業界自体にも悪影響が跳ね返る。
自社製品のみでやるなら、堂々と「アウトレット」と名乗れば良い。それだけのことなのだが。
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