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南充浩 オフィシャルブログ

かつての「日本製」みたいになってきた「サステナブル」というキーワード

2020年10月2日 トレンド 0

最近は少なくなったが10年くらい前は「日本製」を真っ先に打ち出すブランドやファッション製品が多かった。

デザインや機能性はさておき、とりあえずビールならぬ、とりあえず「日本製」という感じだった。もう何年間もお目にかかっていないが、某国内製造工場が「日本製」を掲げてオリジナル商品を作った。スタート当初はいろいろとポップアップショップなんかも開催されていたが、5年くらい前からさっぱり噂を聞かなくなった。

ポップアップの実績を人づてに聞いたところ、ほとんど売れていなかったということなのだが、それも当然だろうと思った。

なぜなら、商品デザインがめちゃくちゃダサかったからだ。何でも聞いたところによるとそのデザインは、デザイナーや企画会社に依頼したのではなく、社長の身内にデザインさせたという。社長の身内は製造に関してはそれなりに知見はあるだろうが、デザインはド素人である。なるほど、ド素人のデザインくさいダサさだ。

いくら「日本製」だろうが、ド素人のデザインしたモサっとした製品なんか売れるはずもない。

まあ、これは極端な例だが、2000年頃から2010年中ごろまで、打開策を「日本製」というキーワードに求めて、商品デザインや機能性を置き去りにした商品開発が珍しくなかった。

 

繊維・アパレル業界は、これまで「トレンドのキーワード」の冠をかぶせるだけで商品が売れてきた歴史があった。

例えば、「神戸エレガンス系」とか「ライフスタイル提案型」とかそういうその時々のトレンドのキーワードである。

ファッション雑誌と一体となったキーワードキャンペーンが消費者の購買意欲をそそり、そのキーワードをかぶせただけで各社がそれなりに潤った時代が長く続いた。

 

その習性が「日本製」をパワーワードだと勘違いさせたのだろう。

これに対して、当時、それなりに見識のある人たちは「日本製とつければ何でも売れるわけではない。やはり製品のデザインや機能性が重要でそれが認められて初めて『日本製』という部分が評価される」と説いた。まさにその通りだと思う。

あとはプロモーションとか売り方とか見せ方にも工夫が必要である。

結局、モサっとしたド素人デザインの「日本製」で成功した商品は無かった。

 

その甲斐もあってか、今では「とりあえず日本製」みたいな商品はほぼ駆逐された。

 

しかし、三つ子の魂百までの言葉通り、繊維・アパレル業界のこの習性は簡単には抜けない。

今、売らんがためのパワーワードと目されているのは「D2C」「サステナブル」あたりだと感じる。「とりあえずビール」ならぬ「とりあえずD2C」「とりあえずサステナブル」の連発である。

しかし、消費者は別にD2Cやサステナブルそのものが欲しいわけではない。お分かりだろうか?

 

あー、俺D2C商品が欲しくてたまらんねん

 

みたいな消費者は多分ゼロだろう。いるとしたらかなりの変態である。

サステナブルも同様である。サステナブルなファッション用品が欲しいのではない。まず、デザインなり機能なりが気に入ってそしてサステナブルではないかと思う。

サステナブルが第一義になるなら、23年くらい前にリサイクルポリエステルを使ったクワガタムシ柄のTシャツを発売した某ブランドがあったが、もっと売れていただろう。

 

この取り組みなんて、まさに「とりあえず日本製」と同じではないかと思ってしまう。

 

日鉄物産がスウェーデンのサステナブルブランドとライセンス契約 2021年春夏発売

サステナブルブランドのライセンス生産とは本来の意義とは離れるんではないかと思う。

 

日鉄物産繊維事業本部は、スウェーデンのサステナブルファッションブランド「デディケイテッド(DEDICATED)」とライセンス契約を締結した。アパレルメーカーのサンマリノと協業し、2021年春に発売する。

 

日鉄物産は「デディケイテッド」のブランドライセンスの管理と生産を行い、サンマリノは自社店舗および卸で販売する。サンマリノは実店舗3、オンライン2の計5店舗を運営しており、21年春に「デディケイテッド」のeコマースサイトもスタートさせる予定だ。

 

とのことである。本来、サステナブルなブランドというのは、その取り組みそのものがブランドコンセプトであり、商品力ではないかと思う。それをあっさりと名義を借りてまったく違う他社が作るというのはちょっと違うのではないかと思う。

もちろん、通常のブランドビジネスではライセンス生産にもメリットはある。本国が生産して輸入する場合、現地販売価格は相当に高くなる。しかし、現地企業にライセンス生産させた場合、本国と現地の店頭販売価格はほとんど同じくらいになり、消費者に広まりやすくなる。

だからその狙いはわからないではないが、通常のファッションブランドならライセンス生産に何の疑問も感じないが、サステナブルブランドをライセンス生産というのは違和感しか感じない。

当然、使用する素材やら製法やらは本体に則して行うのだろうが、それでも「何か違う」感はぬぐえない。

 

これはとりもなおさず、サステナブルが「売らんがため」のパワーワード視されているということなのではないかと思う。かつての「とりあえず日本製」みたいな感じで、変なデザインの商品にもとりあえず日本製付けという姿勢ではないかと思う。

だが、サステナブルブランドを消費者が評価する場合は、そこではないだろう。

日鉄物産という実に商社らしい物の考え方だし、サンマリノという低価格老舗カジュアルトップスメーカーらしい取り組みともいえる。

 

こうなると「とりあえずサステナブル」とか「なんちゃってサステナブル」で日本市場はこれから溢れかえるのではないかと思う。

ただ残念なことに、「サステナブル」はそういうパワーワードではないということで、国内業界の人たちは完全に読み間違えていると感じられる。

 

こういう使われ方が登場したということはそろそろ「サステナブル」という言葉も手垢にまみれてしまったということだろう。

 

 

サステナブルをどうぞ~

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