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南充浩 オフィシャルブログ

アダストリアが「染め直し」ブランドを収益化することができるのかに注目したい

2020年10月1日 企業研究 1

あんまり話題になっていないが、アダストリアが染め直しブランド「フロムストック」をスタートさせた。

いわゆる、リユースの一環である。

不良在庫を「黒」に染め直して新製品として再度販売するという手法である。

 

染め直しブランド(古着や中古も含む)というのは、実は結構前から様々な会社で模索されているが、未だに成功した事例はない。もちろん、小規模企業が細く長くやっている事例はあるが、大手が成功したことはない。

その代表例は無印良品の「ReMUJI」だろう。こちらは不良在庫ではなく、消費者から持ち込まれた服を回収して「紺色」に染め直して販売するというラインだったが、2010年からスタートしたが、もともと展開店舗数が少なかったうえに、いつの間にかひっそりと売り場も消滅した。

当方が定点観測していたのは、あべのハルカスウイング館の売り場だったが、正確な記憶ではないが、だいたい3年~2年半くらい前に売り場が消滅した。

ちなみにサイトを覗いてみると展開店舗数は無しになっているから、全国的に消滅したということで、端的にいえば廃止になったということだろう。

https://www.muji.com/jp/re-muji/

コスト的にはまさに理想的なモデルだったといえる。

何せ、消費者からの中古品持ち込みだから、製品の仕入れ代としては無料である。染め直しにコストが生じるが、全国の無印良品の店頭で回収しているから、数量的には何百枚~何千枚レベルになり、その上「紺色」に統一されているから、染料も1種類で済む。多色展開するとその分コストも上昇する。

それを店頭価格2990円くらいで販売していたので、販売価格としても「値ごろ感」があった。

だが、ひっそりと展開店舗が消滅したということは、それほど売れなかったのだろうと考えられる。売れたなら今でも継続しているはずである。

定期的に店頭で商品を見ていた感想でいうと、まあ、売れそうな雰囲気はまるでなかったので、当然の結果ではないかと思う。

 

今回のアダストリアも「黒」に統一しているので、このReMUJIの手法に限りなく近い。恐らくコスト構造はほぼ同じだろう。

問題はベースとなる製品の仕入れ代金である。無印は持ち込まれて回収した古着なのでタダだが、このブランドは不良在庫品を回収しているから、それをどれくらいの価格で回収しているか、である。

まるっきり無料ではないと思われる。販売価格はReMUJIよりも圧倒的に高いからである。4000~1万円台前半というところが中心価格帯のようである。

 

先ほども書いたように、「古着や不良在庫の染め直し」というアイデアは少なくとも10年前からあった。ReMUJIが2010年スタートであることもそれを証明している。

その1年か2年前、そのアイデアを提唱した染め工場もあった。それで、手始めに某小規模デザイナーズブランドを紹介し、そこの型落ち在庫品を染め直して販売するという計画も作った。

だが、コストを計算してみると、型落ちの在庫品(要は1年か2年くらい前の製品)なのに、染めるコストを乗せると、定価かそれより高くなってしまうことが分かった。

理由は簡単である。

染める枚数が少ないから、工賃を枚数で割ると1枚当たりの染め工賃が高くなるためである。

これが、ReMUJIのように大量に回収した古着なら1枚当たりの染め工賃はもっと安くなっただろう。縫製と同じで、1着染めると高いが1000着を一気に染めると安くなる。

「大量生産ガー」の人々には申し訳ないが、製品染めでさえ「大量生産システム」で稼働しているわけである。大量生産を否定して今と同じレベルの衣料品は製造できないということである。

 

色を変えたが、果たして型落ち品が定価か定価以上で売れるのか?ということになり、結局は離陸できなかった。

そしてこの染め業者は行政と組んで、一般消費者から中古衣料を回収して染め直して販売するという方向に軌道修正したが、あまり売れたとは聞いていない。いつの間にか回収プロジェクトも終わり、工場もほとんど手作業ベースにまで縮小してしまって今に至っている。

 

この10年間で、無印良品も含め、様々な業者が挑戦して失敗してきた染め直しブランドが果たして収益事業になり得るのかどうか注目である。過去の事例から鑑みて「鬼門」だと思える事業をアダストリアがどのように舵取りするのかも注目したいと思っている。これを売上高規模は小さくても収益化できれば大したものである。

 

ただ、このブランドの前置き?序文?には疑問しか感じない。というか事実認識が誤っている。

毎年、大量に生産される服の60%以上は、1年以内で焼却処分か、埋め立て処分される。新品のまま、廃棄される在庫も少なくない。

と書かれてある。これは完全なる事実誤認である。

毎年生産された60%以上も捨てていたら、アダストリアも含めてほとんどのアパレルは倒産している。

何度もこのブログで書いてきたが、「40~60%の商品は定価で売れない」のである。「定価で売れない」のと「廃棄されている」のとはまったく意味が違う。

日本語がお分かりだろうか?

定価で売れない場合はどうするかというと、アダストリア自体も頻繁に行っている値引きセールで売り切るわけである。だいたいの製品はアダストリアも含めて10%引きくらいからスタートし、その商品が滞留している時間が長ければ長いほど、どんどん値下げされ、最後は7割引きとか8割引きまで値下がりする。

それでも売れ残る場合がある。

その場合、アウトレット店で販売されるか、インターネット通販でさらに値下げされて販売される。

それでも売れ残れば、ファミリーセールで激安販売される。

最後は、今流行りのオフプライスストアに払い下げるか、在庫処分販売業者に払い下げるかのどちらかになる。

捨てるのはそれでも残った場合くらいである。

 

何度も書くように、産業廃棄物として捨てるには莫大な費用がかかる。そのため、60%もの大量の洋服(おそらく数量ベースで)をおいそれと捨てられるアパレルなど世界中を探してもほとんど存在しない。

 

そしてこのような完全なる事実誤認が大手企業から正式コメントとして出されると、業界のみならず消費者をもミスリードしてしまう。

この文章は早急に修正された方が良いと思う。

 

 

そんなアダストリアのローリーズファームの製品をどうぞ~

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 comment
  • kkk より: 2020/11/02(月) 11:20 PM

    本人達は誤認では無くマーケティングだと思ってそうですね

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