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南充浩 オフィシャルブログ

消費者は色落ちにあまりこだわっていない

2013年8月19日 未分類 0

 先日、この数年のジーンズの不人気に対するこんな記事を発見した。

ショップ店員「デニムは臭そう」不人気の裏にある現場の空気
http://bucchinews.com/society/3604.html

事実誤認をしている部分と、ジーンズ業界人にとっては非常に参考になるのではないかと思われる部分とに別れる。

まず事実誤認の部分から見てみる。
いわゆるジーンズナショナルブランド(NB)と呼ばれる各社の現状を紹介しているのだが、

リーやラングラーは、エドウイン傘下に吸収され

とあるが、「リー」ブランドがエドウイン傘下のリー・ジャパンに移籍したのは何もこの数年の話ではない。
20年以上前からそうである。2007年以降のジーンズ不況とは何の関係もない。

リー・ジャパンは1983年にエドウインとアメリカのVFコーポレーションの合弁として設立されている。30年前の話だ。
その後、1985年12月にエドウインが発行済株式をすべて取得し、日本国内での企画・製造・販売を行うことになる。本格的に販売を開始したのが1986年からということになるので、27年前のことだ。

さらにいうならラングラーがリー・ジャパンに吸収されたのも2000年ごろのことであるから、これも13年前の話だ。ジーンズ不況とはあまり関係がない。どちらかというと「ラングラー」ブランドを日本で展開してきたラングラージャパン、VFジャパンの経営問題であろう。

また、今年春に経営体制が一新されたビッグジョンについても

日本初の国産ジーンズメーカーであるビックジョンは国内生産打ち切り

とあるが、これも正確ではない。
たしかに自社国内工場は閉鎖になったが、現在、協力工場などによって国内生産は継続している。

これらが事実誤認の部分だ。

一方、参考にすべきは文中に挙げられているセレクトショップ店員たちの声である。
ジーンズ業界に浸りきっている人たちと、一般大衆とのジーンズに対する認識がまったく異なることがわかる。
参考になるであろうと思われる声を文中から抜粋する。

「まず、最近の若者ってジーンズを履いてないですよね。ここんところずっと、ぜんぜん流行ってないです」(33歳、男性、某セレクトショップ勤務)

「とはいえ、デニムシャツとかデニムジャケットとかは着てるんですよ。でも、確かにジーンズは微妙ですね。まぁ、普通に、パンツの1アイテムとして使ったりはしますけど、チノパンや軍パンの方が、ずっと使い勝手がいいでしょう。僕らが高校生のころにいたような、年がら年中ジーンズを履いている人ってのは、あまり想像できない」(29歳、男性、某国内ブランド勤務)

この声は現在の若者層を代表しているといえるだろう。

また、

「あまり色の落ちてない生ジーンズを清潔に履いてるのって、格好いいんですけどね」(前出・31歳女)
「そうね。あれは確かに格好いいよ。でもさ、ノンウォッシュのジーンズって金がかかるんだよな。『ジーンズって育つズボンなんです』みたいなこと言うじゃない。それって正直、バリバリ色が落ちて劣化します』ってことじゃない」(前出・33歳男)

「ああ、判るかも。あれって小綺麗に保つのが難しいんですよね。小綺麗に履き続けるためには、すぐ買い替えなきゃいけないから金がかかる」(前出・29歳男)

「逆に、色落ちしたジーンズが似合う日本人なんてほぼ皆無なんですよ。よっぽど細くて脚が長くなきゃ無理。チャレンジする方が無謀」(前出・33歳男)

という声も参考になるのではないか。
ちなみにジーンズやズボンは「履く」ではなく「穿く」が正しい。「履く」のは靴やサンダル、草履などである。

また

「ちなみに機能性もかなり低い。梅雨の季節なんかに、ジーンズが雨で濡れると、なにより重くて張り付くし、冬は寒く、夏は熱い。日本の気候に合ってませんよ」(前出・33歳男)

も重要だと感じる。

これも誤字があるがそのまま引用する。正しくは「夏は暑く」である。「張り付く」ではなく「貼り付く」が正しい。

さて、これらの声を総合すると、

ジーンズはカジュアルカラーパンツの1種類に過ぎない。
色落ちにはこだわらない、というより色落ちしない方が良い。

ということになる。それは現在の店頭での売れ行きとピタリと附合する。

各店・各ブランドが口をそろえて言うには「ジーンズというより、濃紺のカラーパンツの1種類としてノンウォッシュ、ワンウォッシュのジーンズを購入する人が多い。ウォッシュで色を落としたジーンズは、水色のカラーパンツのバリエーションとして認識されているようだ」とのことである。

付け加えると機能性に関する声もその通りである。
従来の綿100%の14オンスデニムは水に濡れると重くなるし、乾くのも時間がかかる。
高密度に織られたヘビーオンスデニムは冬暖かいが夏は暑い。それに冬場、足を通した瞬間にヒヤっとするのは避けられない。

現在は、夏用としてクールマックスなどの吸水速乾素材混のクールジーンズ、冬用に保温ジーンズ、防風ジーンズなどが発売されているが、これらは季節商材として今後はそれなりのシェアを占めることが予測される。

先日、ジーンズ業界に身を置く方からご意見をいただいた。

「ぼくらが思っていたほど、消費者は色落ちにこだわらないということがわかりました」

とのことである。

ジーンズをカラーパンツの1種として見なす消費者が多いから、先に述べたように「色落ちはしない方が良い」のだが、色落ちを受け入れる場合でも、業界の人がいうような「このムラ糸によるタテ落ち感が云々」に関心を示す消費者は極めて少ない。

洗濯を繰り返すと色落ちするのは仕方が無い。しかしその場合、のっぺりとカッコ悪く色落ちするのは論外だとしても、「ムラ糸使いで凹凸感のある表面感によってタテ落ちすること」を重要だと考えているのはジーンズマニアに限られるということである。
それなりにカッコ良く見える程度であれば多くの消費者は、あまり疑問を感じずに受け入れている。

となると、現在、児島・福山地区には元ジーンズメーカーに所属していた人や、ジーンズ製造業に携わっている人が小規模ブランドを続々と立ち上げているが、色落ちや生地の風合いにこだわった彼らの商品はマスには受け入れられにくいということになる。
何度も書いているが、それらの新興ブランドが、「うちは3億円売れれば十分」と考えているなら今の路線でも構わないが、「売上高10億円を突破したい」と考えているなら今のままでは不可能である。もっとマスに向けた商品を開発する必要がある。

同じことは新興ブランドのみならず、かつてのナショナルブランド各社にも当てはまる。
色落ち云々、凹凸感のある表面感云々、タテ落ち感、武骨さといった要素は、2000年手前で終息したビンテージジーンズブームとともに顧みられなくなっている。
新興ブランドに比べて売上規模の大きいナショナルブランド各社が、売上規模を維持ないし成長させるのであればマス商品を手掛ける必要がある。そして、マスはジーンズメーカーが付加価値だと考えている要素に価値を見出していないのである。

今回、この記事を採り上げたのは、ショップ関係者の声として紹介されている意見が、まさしく大衆の声を反映していると感じたからだ。
それを取り込んだ商品開発、ブランド戦略がジーンズ業界には必要とされている。

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