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南充浩 オフィシャルブログ

「洋服は50%以上売れ残ってすべて廃棄されている」というのは事実に反する

2020年9月9日 トレンド 0

「国内のアパレルは50%以上の売れ残り品を廃棄している」という謎の主張がSNS上では散見されるが、全く現状とは異なる。

たしかに50%以上が「定価では売れない」という実態は正しいが、「定価では売れない」と「廃棄されている」では全く意味が異なる。

「定価で売れない」のならどうするかというと値下げして販売するわけである。

 

しかし、夏冬のバーゲン末期に店を除いてもらえばわかるが、バブル期や90年代とは異なり、バーゲン最末期でも売れ残り商品が店頭に並んでいることは珍しくない。

値下げしても売れない商品が出てくるわけである。

じゃあ、これを全部廃棄するのかというとそんなことはない。

 

1、翌年に持ち越して、次年度に販売する

2、催事で投げ売り販売

3、ファミリーセールで販売

4、在庫処分業者(オフプライスストアも含む)に安値で払い下げる

 

というのが王道の在庫処分である。

 

ではどうして廃棄しないのかというと、1~4までの手段を採ると、利益額は減るが現金がいくばくかでも手元に残るからである。

しかし、廃棄するには産廃業者に「お金を支払って引き取ってもらわなくてはならない」から、支出は増える一方となる。

国内アパレル企業の営業利益率は平均すると1~5%程度と低いので、毎シーズン大量に捨てていれば、産廃への支払いだけで赤字になってしまう。

だから、欧米ラグジュアリーブランドくらい儲かっている企業か、売上高何千億円という巨大資本以外はおいそれとは気軽に捨てられないのが現状である。

 

例えば、百貨店の8階とか9階とかの催事場で「有名メーカー商品の3000円均一」みたいな催事が1週間単位で頻繁に行われている。オンワードとかワールドとかイトキンとかファイブフォックスとかそういうアパレル企業の商品が3000円均一とか5000円均一とかで投げ売られているわけだが、これは2の不良在庫の処分である。

また百貨店に限らず、ショッピングセンター内の広場でもこの手の催事が定期的に行われている。つい数日前は、あべのキューズモールの地下1階の広場でワールドが「最大70%オフセール」の催事を開催していた。

これらはいずれも不良在庫の投げ売り処分セールである。

 

で、この在庫処分の実態を比較的正確に伝えているのがこの記事である。

 

アパレルの「売れ残り」、じつは「大量廃棄」されてなかった…その意外な真実!

基本は「持ち越し」と「転売」そして…

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74552

 

見出しはちょっといただけない。全然「意外」でもなんでもない。そもそも「廃棄」が前提と考えている時点でおかしい。ただし、見出しというのは筆者が作ったとは限らない。編集者やデスクが改変することも多い。

ちなみに当方は見出しを作るのが本当に下手くそで、99%の確率で編集者に改変されてしまう。(笑)

 

とはいえ、売れ残った商品が即、廃棄処分されるわけではない。廃棄すると全額が損失になってしまうから、なるべく損失が少なくて済む処分方法が選択されるのは当然だ

 

とある。細かいことをいうと、「全額損失」どころではなく、産廃業者に支払う代金が持ち出しとなるから、捨てれば損失が拡大するわけである。

 

もっとも損失が少なくて済むのが売れ残り在庫の先送りで、来シーズンまで持ち越して販売すれば今シーズン末に値引き販売するより高く売れる可能性があり、今期の値引き損失も抑制できる。 

 

とある。これが通常、アパレルが最も採る手法である。

ユニクロでさえ、この手法を採っている。以前、老父が亡くなる前、昨年11月下旬ごろにヒートテックのタイツを買い与えた。500円に値下がりしたのを4枚買って合計2000円だった。

柄はグリーンの迷彩柄のみだったが、老父が病院かデイサービス以外でズボンを脱ぐことは考えられないから、柄なんてなんでも構わない。例えキティちゃん柄であったとしても当方は迷わずに買って穿かせていただろう。

このヒートテックタイツのバーコードには「74」と表記されているが、7が年度番号、4が季節番号である。年度番号は10年ごとに戻る。10年も商品を抱えないからそれで構わない。

 

 

 

 

この「7」は2017年である。季節番号は1が春、2が夏、3が秋、4が冬なので、2017年冬商品ということがわかる。

このヒートテックタイツを買ったのは2019年の11月だから2年間持ち越していたわけである。

 

アパレル業界では毎シーズン、一般的に行われている。シーズン中に値引きして売り切るトレンド商品では持ち越すのはわずかだが、ベーシックな商品は10%以上も持ち越すことが多く、紳士既製服では30%以上を持ち越すのが常態化している。

 

とある。まあ、これも概ね正しい。トレンド品は何としてでも売り切らねば、来年は売れない。一方、定番ジーンズや定番のTシャツなんかは来年も売れる可能性が高い。メンズスーツも同様である。

 

売れ残り品はまずは持ち越されるが、来シーズンも売れ残ればデッドストック(死蔵在庫)になってしまう。そうなると換金が難しく、倉庫代がかかるだけになるから、二次流通業者(バッタ屋)に放出するか廃棄処分するかという二択になる。

 

とあるが、実はその前に催事で投げ売り販売が行われることが抜けている。

 

どうして百貨店高層階での3000円均一・5000円均一の催事がほぼ毎週のように行われているのか、どうしてショッピングセンターの広場で定期的に1000円均一・70%オフが定期的に行われているのかというと、売れ残りの在庫を換金するためである。

かく言う当方も、昔は阪急百貨店うめだ本店の9階催事場で、売れ残り在庫品を3000円とか5000円で買っていた。

 

で、ここでも売れ残れば、在庫処分業者に二束三文で払い下げる。二束三文でも何万円かの現金収入になる。

廃棄するのはそれでも売れ残ってしまった場合で、いわば「最後の手段」である。

 

ただし、欧米高級ブランドや欧米ラグジュアリーブランドはこれまでからブランドイメージを保つために、催事での投げ売りや在庫処分業者への払い下げを行わずに廃棄していたと考えられる。

 

こうなると廃棄の費用も負担しなければならないから、そこまで持ち越す「新古衣料」は極めて限られる。おそらく、売れ残り品の数%止まりだろう。

 

というのが実態だと考えられる。

そんなわけで「半数が廃棄される」というのは、センセーショナルなだけに吹聴されやすいが実態とはあまりにも乖離しているといえる。

 

 

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