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南充浩 オフィシャルブログ

「ニット」という用語を巡る混乱

2020年9月8日 メディア 7

WEB関連は専門用語が難しくてとっつきにくいと言われることが多い。専門用語というよりは正確にはカタカナが多すぎるということではないかと思う。カタカナが多いために老人層には極めてとっつきにくいと感じる人が少なくない。

WEB関連によらず、何事においても「専門用語」というのはそれなりに存在するし、仕事にするならば、ある程度はそれを理解しないと難しい。

しかし、洋服に関してはそうではない。特に販売員やプレス、スタイリスト、一部デザイナーといった業界の「川下」に生息する人々は、生地の専門用語を理解していないことが多い。(もちろん、例外的な人もいる)

人間は全裸で生活するわけにはいかないので、生まれたときから洋服を着せられる。そのため、洋服というのは非常になじみ深く、手の届きやすい存在だといえる。

新型コロナで状況が変わってしまったが、昨年末くらいまでは、アパレル実店舗の販売員は人手不足だった。そのため、アルバイトやパートで働こうと思った場合、極めてハードルが低かった。

機械類・WEB関係や調理よりは極めて手軽に始められる仕事でもあった。(突き詰めると奥は深いが)

 

そのため、洋服や繊維の「専門用語」がかなりあやふやに使われており、それが一層、業界の内外での混乱を広げていると感じる。

たとえば、ジャカードという言葉である。ジャカード織りなんていう言い方をするが、よく「ジャガード」と誤表記される。当方が愛用するアダストリアのドットエスティの商品説明でもほとんどが「ジャガード」になっている。

もともとはジャカード織機で織られた生地をジャカード織りと呼んでいた。このジャカード織機とは何かというと、フランス人のジャカールさんが開発した織機である。

そして、ジャカールさんのスペルはJacquardとなる。

フランス語は発音しないDとかXとかが多くてまったく嫌になる。フランス語で発音すれば「ジャカール」だが、表記をそのままローマ字読み?英語読み?するとジャカードとなる。

そして、スペルを見るとわかるのだが、JACQとなっており、濁音はない。だからジャカードなのであって、ジャガードではない。ジャガードならJAGとならねばおかしい。

 

まあ、カとガの違いなんて小さなことだが、キッチリと違いを認識しておくことが重要だと当方は思う。

 

この手のことで最近強く感じるのが、特にニット類・編み物類の事実誤認の多さである。

これは当方の体感的なものだが、織物類よりも編み物類の方が理解できていない人が多いと感じる。理由はさまざまあるのだろうが、織物類は経糸と緯糸を交差させることによって生地を作るのだが、その構造は平面的・二次元的である。

一方、編み物類は、糸同士を絡ませ編み上げるので、生地の構造が立体的・三次元的といえ、織物よりも素人には理解しにくいのではないかと思う。

 

業界でも織物と編み物は全く別の専門性となっており、たまに両方に詳しい人を見かけるが、大抵はどちらか一方だけに詳しいのが普通である。当方もどちらかというと織物の方が理解しやすい。

 

先日、ときどきサボりながら寄稿しているスタイルピックスにこんな記事をアップした。

https://style-picks.com/archives/7560

先日、ジーユーの売り場で今秋の新商品を見ていたら、「スウェットライクニット」という謎の商品名を与えられた新商品があった。

これが発端である。

スウェットというと、本来はスウェットシャツという名称で、日本名はトレーナーである。ちなみにトレーナーという日本名を与えたのはヴァンヂャケットの石津謙介氏だといわれる。

スウェットシャツは「裏毛」と呼ばれる生地で作られている。この裏毛とは何かというと「編み物」「編み生地」である。

編み生地を英語で言うと「ニット」だから、スウェットはニットなのである。スウェット=ニットである。大事なことなので二回言いました。

となると、ライクもクソもなく、スウェット自体はニットそのものなのである。

裏毛についての解説は、カットソータリバン山本晴邦氏のこの記事にお任せする。

「裏毛素材のスウェット」って何か変。

 

編み生地で作られた服はすべて「ニット」である。

ニットに属する服は、

 

Tシャツを含むカットソー類全般、セーター、肌着、靴下、スウェット類(パーカも含む)

 

などである。

 

そして、この混乱の原因は「ニット」という言葉の意味を多くの川下に位置する業界人が理解していないことではないかと思う。

以前に某有名ファッションブロガーが「このTシャツ、実はニットなんです」と「スウェットライクニット」と同じくらい意味不明なことを書いていたが、この原因は「ニット=セーターのみ」だと考えているからではないかと思う。

ここまで読んだ人はお分かりだろう。Tシャツ(カットソー類全般)は、編み生地で構成されているからニット製品なのである。Tシャツに使われる編み生地は大きく見て3種類あり、天竺、フライス、スムースである。

 

ニット製品の最大の共通点は「伸縮性がある」ことである。要するに着用していて伸び縮みするところにある。ポリウレタンを交編しなくても、綿100%・ウール100%でも伸び縮みする。手元にある綿100%のTシャツを引っ張ってみていただければ理解できるのではないかと思う。

 

話を戻すと、ジーユーの「スウェットライクニット」というネーミング自体が意味不明だし、その下に書かれてある解説の文言の「スウェットのような伸縮性のある」というのも意味不明で、普通のセーターは元から伸縮性があるから、別に「スウェットのような」なんて比喩は全く不要である。

 

別にカットソータリバンほどの専門知識は必要ないが、織物と編み物の区別や編み物に属する製品はどれか、くらいは川下にまで普及させる必要があるのではないかと思った。

そうでないと、用語を巡って消費者がさらに混乱するだけだし、川下の人間と製造加工を担当する「川上」の人間はますます、同じ日本語を話しながら、会話は噛み合わなくなり産業としてもさらに弱ってしまう。

 

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 comment
  • 常連 より: 2020/09/08(火) 12:26 PM

    今回の記事は流石に、言葉尻を捉えた揚げ足取りというか、言いがかり近いものを感じる内容です…。

    南さんは業界人らしく「ニット」という言葉を大きな括りで捉えておられますが、一般人はもっと小さな括りで(≒セーターに近い意味で)使用することが殆どです。

    例えばフランス企業であるルイヴィトンの日本公式サイトで、メンズプレタポルテの分類を見てみると、「ニット&スウェットシャツ」「Tシャツ&ポロシャツ 」となっています。

    わざわざスウェットをニットと併記したり、Tシャツやポロシャツを別分類にしているということは、一般人はこれらを別物と捉えているということです。

    ちなみにグッチも、「ニット&カーディガン」「スウェットシャツ」「Tシャツ&ポロシャツ 」です。

    業界人と一般人の価値観、どちらに寄り添うかという話で、企業は大抵、後者に寄り添います。

    • anonymous より: 2020/09/10(木) 5:26 PM

      生産側の下流工程(川下)担当者の知識不足によって、一般の購入層がスウェットとニットが別物だと捉えてしまっている現状があるよ。というお話だと思って読んでいました。
      ラクジュアリーブランドのアイテム分類がどういった基準で設定されているのかはわかりませんが、少なくともすべての企業が「正しく知識を持っているけれども、一般人の価値観に寄り添っている」わけではないと思います。
      一般層に素材の知識は求めないですが、発注・販売側(川下)が「編地は総じてニット」ということも勉強せずお粗末な仕事をしているケースが多いのは残念ながら事実です。

  • とおりすがりのオッサン より: 2020/09/08(火) 1:06 PM

    奥さんに「ジーパンなんて言わないでよ。デニムでしょ」って言われた人を知っていますw
    でも、最近のオサレ業界だと「ニットTシャツ」って割と流行ってますよね。「ニットT」で検索すると【カットソーの中でも、セーターやカーディガンなどに使われるニット素材で編み上げられたTシャツを「ニットTシャツ」と言う。】とドヤ顔で説明されますw

    でも、服飾業界じゃなくても日本語になった外来語って変なのが多いようっすね。塗料とかでも「ラッカー」「アクリル」とかありますが、本当はどっちもラッカー塗料(溶剤の揮発によって硬化する塗料)で、正確には「ニトロセルロースラッカー(いわゆるラッカー)」と「アクリルラッカー」ということのようです。でも、アサヒペンのサイトでも【実用上の違いとしては、一般的にアクリルスプレーよりもラッカースプレーのほうが、硬くてキズがつきにくい塗膜に仕上がります。】なんて解説があったりしますw

    ちなみに、今仕事サボって書き込んでますが、見積もってる製品の素材名が「ポリカーボネード」となってました。「いや、それポリカーボネートやろ!」と突っ込んで、その図面は見積もるの止めておきましたw

  • saleparadise より: 2020/09/08(火) 6:16 PM

    広州市場生地を使って生産を請け負ってた頃 クライアントか盛んに「ニットソー」の生地バリエーション揃えて と言っていた
    セーターを企画したいがコストの関係でセーター風の製品を生地で作りたいため
    とても違和感があった

  • BOCONON より: 2020/09/09(水) 8:04 PM

    “カットソー” というのも正しくは “cut & sewn” だから,ボタンやジッパーのついたものまで「カットソー」と言って済ますのは少なからずぞろっぺえな気がしますね。ジャガードという言い方は頭悪そうな感じがするので僕もしたことがない。

    とは言え洋服に関する外国語というのはむしろほとんどが和製英語ですからね。ワイシャツ一つ取っても「シングルカフ/ダブルカフ」なんて英語はない。襟も「ラウンドカラー」「ピンホールカラー」「クレリックシャツ」「ワイドスプレッドカラー」「スタンドカラー」もそんな英語はない,と云った按配で。
    だからもう,僕はそういう言葉は自分では使わないってだけで,他人にはあまり言いません。言っても嫌われるだけだから。
    まして「略礼服なんてものは世界標準では存在しない」「オジサンたちがホテル等であのWの黒背広着て歩くと外国人が本当によくヤクザと間違える」なんてますます「言えねえ言えねえもう言えねえ」であります。

  • BOCONON より: 2020/09/09(水) 8:17 PM

    そう言や背広やワイシャツというのもなぜそういうのか分からないな。「トレーナー」とかも。
    まあ今さら「セーター」を「スウェッター」とか「フリース」を「フリースじゃ羊毛って意味になってしまうから正しくポーラテック・フリースと言え」というわけにも行きますまいしw
    さすがに生地名 “デニム” をジーパンの意で使うというのは「間違っている上にスカしてやがら」と思うので,僕は敢えてジーパンとかジャンパーとか言ったりしてますが。

  • 細野 より: 2020/09/11(金) 8:16 AM

    そういえば、大学を出てすぐ入った会社で仕事していたら、なんとかファスナーっていう会社からボルトやナットを買ったことがあります。その時先輩に、ファスナーってチャックなのに、ボルトとかも作ってるんですねと聞いたら、機械系ではファスナーといえば、ねじとか釘とかそういうのも全部ひっくるめてファスナーと言うと教わったことがあります。その話とよく似てますね。お客さんが素人ではないので、用語が曖昧になることはあんまり無いですが。

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