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南充浩 オフィシャルブログ

情報伝達手段をデジタル化しても繊維製造のミニマムロットは変わらない

2020年8月21日 ファッションテック 0

繊維産業もデジタル化が強化されるのは必然の流れだろう。

何事においてもメリットとデメリットはある。デジタル化のデメリットもあるだろうし、繊維産業でいまだに根強く使われているFAXのメリットもあるだろう。

だからと言って、デジタル化を全否定することもおかしいし、今時FAXの送受信のみに固執するのもおかしい。

要はその時々の状況と取引先に応じて使い分ける必要があるということでしかないと思っている。

 

販売においても、デジタル化(いわゆるネット通販)を組み込むことは必要だろう。今回の新型コロナのような騒動が起きれば、また実店舗の稼働が止まるから、それを補填できるのは対面販売ではないネット通販のみということになる。

だからと言って、全部ネット通販にしてしまえとか、ネット通販比率は高ければ高いほど優秀だとか、ブランドの立ち位置とか売り上げ規模とか顧客属性とか全然知らんけどとりあえずネット通販比率50%を目指しとけとかそんなことは問題外の暴論である。聞き入れる価値もない。

 

数年前には、ネット通販によって小売店の不振がすべて解決できる、みたいな謎の論調があった。多分、今でも「ネットで売ればバカ売れする」と考えているアホな社長は、古びたアパレルや繊維工場にはいそうだが、大勢は占めていないのではないかと感じている。

しかし、最近、増えてきたと感じるのが、「デジタル化によって大量生産システムが解決できる」みたいな謎の主張である。

個人的には、これは数年前の「ネット通販だったらアパレル製品が売れる」という謎の主張の製造加工業版ではないかと見ている。

 

例えば、この記事。

三菱商事ファッションが3DCGでサステナブルな服作り DXで大量生産、大量廃棄をなくす

 三菱商事グループのファブレス(自社工場を持たない)メーカー、三菱商事ファッションが、3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)を駆使した服作りのデジタルスキームを開発し、アパレルメーカーやセレクトショップが導入を始めている。

 

という内容だが、ここまでは理解できる。

ところで、DXってなんやねん?である。デラックスか?

我々世代にとって「DX」という表記でもっともメジャーなのは「デラックス」だろう。

デジタルトランスフォーメーションのことをDXと表記するようである。

 

理解できないのが、

 

これにより、サンプル製作のプロセスの削減、先行受注による在庫の削減、ささげ業務の削減、生産工程のリードタイムの短縮などさまざまな手間と時間を節約でき、大量生産、大量廃棄をしないサステナブルな服作り、利益改善、拡大するeコマースビジネスへの効率的な生産スキームの提供などが可能となる。

 

という部分、特に「大量生産、大量廃棄をしないサステナブルな服作り」が全く理解できない。

 

いわゆるデジタルだから、ネット通販との親和性が高いことはアホでも理解できる。またデジタルの主要な部分の何割かは情報伝達なので、そこがスピード化されるということも理解できる。

しかし、どうしてそれが「大量生産をしない」につながるのかまったくわからない。三菱商事ファッションも、この記事を書いた人も、製造のシステムをまったく理解していないのではないか。それとも理解はしているけど「とりあえず言ってみました」みたいな感じなのだろうか。

 

織機にしろ、編み機にしろ、紡績機にしろ、ミシンにしろ、大量生産を前提とした機械である。大量生産をしないためには、機械そのものを新開発しなくてはならない。

お分かりだろうか?情報の製造・情報伝達をいくらデジタル化し、スピードを速くしても、機械は同じなのだから、製造に必要な数量は同じである。

例えば、縫製工場でも生地工場でも構わないが、これまで、ファックス送信していたのをDX(笑)したとして、EメールとかLineとかスカイプとかで情報伝達しても、製造に使っている機械は同じなので、製造に必要な手間も工程もロット数も今までと何も変わらない。

受注生産的になるから大量廃棄をしないという主張は理解できる。しかし、製造に使用する機械は同じなので、製造に必要な最低限の経済的数量(ミニマムロット)は変わらない。

 

縫製工場のミニマムロットがサイズ込みで1型100枚だったとして、DX(笑)してもミニマムロットはサイズ込みで1型100枚のままである。なぜなら、ミシンも同じだし、それを踏むのは相も変わらず人間だからである。まあ、尤も、工員を解雇して人員削減すればミニマムロットは減る。DXで大量生産しないというのはそういう意味なのだろうか?(笑)

生地工場も染色工場も整理加工場も同様である。

製造加工に使用する機械は変わらないから、いくら情報伝達手段がDX(笑)化しようとミニマムロットは減らない。

 

無意味な大量生産を減らしたいのなら、各アパレル・各ブランドがマーチャンダイジングの精度を上げるほかない。分析し、推測し、必要な数量だけを発注するというマーチャンダイジングが必要になる。

 

単純に何も考えずに前年実績を踏襲する、とか

とりあえず多めに発注する、とか

上から数字を押し付けられたから発注する、とか

自分の好みの商品だから多めに発注する、とか

 

そういう安直なマーチャンダイジングこそが無意味な大量生産の原因である。

記事を読む限りにおいては、三菱商事ファッションのこのDX(笑)はそういう性質のものではなさそうで、どちらかというと洋服デザインやパターン(型紙)、そういう分野に特化したもののようである。これがどうして「脱・大量生産」の機能を有するのか。

 

デジタル化はすべての問題を解決できる「魔防の杖」では決して無い。それはネット通販だけではなく製造加工分野にも当てはまる。

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