ライトオンの苦戦の原因は「ジーンズ強化」ではないか?
2020年7月31日 企業研究 2
某luke_catさんにご指名されたので、ライトオンの苦戦について考えてみたい。プレッシャー感じるわ~。
まず、排除すべき要因は新型コロナショックによる3月~5月までの不振である。これはほぼ業界全般的である。
ライトオンは起死回生策として2019年春に「ジーンズセレクトショップ」を打ち出した。要するに、多種多様なジーンズブランドを集積して、独自化・差別化を図ろうとしたわけである。
最近、ジーンズブランド自体の数が減ってきた。いや、正確に言うと「大規模な」ジーンズブランドの数が減ったが、小規模なジーンズブランドやジーンズを含むブランドが乱立しているというところではないかと思う。
まともに国内で大手と言えるのは、エドウインとリーバイ・ストラウス・ジャパンくらいだろう。
あとは小規模なブランドである。
そのため、従来型のジーンズカジュアルショップが揃えられるジーンズブランドは減っており、どこの店も似たり寄ったりの品ぞろえにならざるを得ない。
ライトオンだろうが、ジーンズメイトだろうが、マックハウスだろうが、さして変わらないということになる。実際に店頭を見ると、ジーンズというジャンルに関してはエドウインを中心としており、大差ない。
その一方でユニクロ、無印良品、アダストリアの各ブランド、アメリカンホリック、H&M、ジーユーなどジーンズを品ぞろえの一部として扱うブランドはそれこそ無数といえるまでに増えてきた。
そうなると、独自化・差別化の一つの手段として「ジーンズブランドを集積する」という選択肢は視野に入って当然だと思う。
実際にライトオンは、エドウイン、リーバイスは当然として、ジースター、エヴィス、トミージーンズという具合に徐々にジーンズブランドの取り扱い数を増やしてきた。
しかし、問題は、この「ジーンズ」というアイテムの人気が低下していることではなかっただろうか。
需要は決してゼロではない。現に風俗店やキャバクラのキャッチやスカウトのにいちゃんたちは制服のようにピチピチのスキニージーンズを穿いている。
クラッシュ加工を施されたジーンズを穿いている女性もいるし、50歳オーバーの男女はいまだに王道のジーンズを愛用していたりする。
だが、それでも往年のジーンズ人気からすると、やっぱり需要の総数自体が低下しているのではないかと最近強く感じる。
往年というのをどこに設定するのかが問題だが、ジーンズというアイテムはこの30年間だけに限っても常に定期的にビッグヒットを飛ばしてきた。
90年代前半のレーヨンソフトジーンズブーム
90年代半ばから後半のビンテージジーンズブーム
2000年ごろからのローライズジーンズブーム
2005年ごろからの高額インポートジーンズブーム(ブーツカットメイン)
2008年からのスキニージーンズブーム
という具合だ。
完全なる統計データが存在しないが、ジーンズの国内市場はピーク時は1億本近かったと言われており、だいたいが8000万本前後で推移していた。
となると、日本国民はだいたい毎年、一人一本の割合でジーンズを買っていたことになる。ただし、これはあくまでも「平均」だし、新生児や幼児も含んでいる。もちろん、まったく買わないという人もいただろうが、反面、一人でジーンズを毎年何本も買うという人もいたということである。そうでなくてはこの販売数量は維持できない。
現在、ここまでジーンズというアイテムに需要があるだろうか?
くどいようだがゼロではない。何千万本単位の需要は今もあるだろう。しかし、8000万本とかそこまでではないだろう。せいぜいよくあっても3000万本くらいではないか。
ファッショントレンドだけでいうと、スキニージーンズ以降は、ジーンズにビッグヒット商品が生まれていない。代わりにボトムスでビッグヒットとなったのは、ガウチョパンツだったりジョガーパンツだったり、とジーンズ以外のパンツ類である。デニム生地のガウチョとかデニム生地のジョガーだったりもあったが、それは「ジーンズ」として作られているわけではなく、いろいろある素材の中の一つとしてデニム生地が揃えられているだけのことであり、気に入ったデニム生地がなければ、そのガウチョなりジョガーから「デニム」がなくなるだけの話で、そのほかの生地だけで展開されることだろう。
そして、ジーンズとその他ボトムスのバランスを見たければ、ユニクロを見てみればどうか。
ユニクロもジーンズの展開棚数はピーク時に比べて明らかに減っている。代わりに「非デニム」のジョガーやらチノやら、感動パンツなどの棚数・ラック数が増えている。レディースも同様だ。
どうだろうか。棚数・ラック数だけでいうと「ジーンズ」はボトムス全体の3分の1程度ではないだろうか。ざっと目視したところ。
そして「ジーンズ」の需要が低下しているのはどうも世界的な傾向のようで、イタリアのジーンズブランド「GAS」が倒産したし、ジースターロウのアメリカ法人が経営破綻している。
そうなると、この需要傾向の中で、逆に「ジーンズ比率を高めた」ライトオンが苦戦するのは当然の結果だったのではないだろうか。
何度も書いているが、セシルマクビーの消滅、ブルックスブラザーズの経営破綻などと合わせて考えてみると、その需要が低下したジャンルはいくらリニューアル策やリモデル策を打ち出したところで、劇的な効果は得られないということが分かるのではないかと思う。
セシルマクビーの消滅はいわゆる「ギャル服」の需要低下が原因だし、ブルックスブラザーズの経営破綻にトドメを刺したのは、「ビジネスシーンのカジュアル化」だった。
いくら、ECをやろうが、AIを導入しようが、消費者は「要らない物は要らない」のである。
ライトオンが縮小して展開するなら、ジーンズ集積はありだっただろう。それこそ、100億円規模くらいにまで縮小するなら、それくらいの規模を支えるだけのジーンズファンは今でも存在しているだろう。
しかし、800億円規模の維持や1000億円への回帰を目標とするのであれば、それだけの規模を維持してくれるほどにはジーンズファンはいないのではないかと思う。
ライトオンの苦戦の最大の原因は「アメカジ強化」ではなく「ジーンズの強化」にあったのではないかと思う。
そして、残念なことにライトオンには、「ジーンズをベースとしたアメカジ」を得意とする人しか残っていないのである。
先日、ライトオンの新ブランド「ノーティードッグ」が終了した。開始したときに店頭を見に行ったが、いわゆる西海岸風を狙ったと思うのだが、スエットトレーナーとスエットパーカしかなく、しかもその商品の使用素材・縫製のクオリティが著しく低く「これは長続きしないな」と感じたがその通りとなってしまった。
その前にも「フラッシュリポート」を廃止している。
ライトオンが新業態として打ち出すのはいつも「ジーンズを基調としたアメカジ」であり、本体との見分けが極めてできにくい。逆にいつも「新業態を出す意味があるのか?」と思ってしまう。
過去にはスーツ類をメインとした「ソルト&ペッパー」を開始したが、開始直後から担当部長が退職、それを支えていたスタッフも次々と退職し、早期に瓦解してしまった。
ちなみに現在、D2Cブランドの代表ともいえるオールユアーズの創業者3人もライトオンである。正確にいうと、企画担当者だけはライトオンの外注企画担当者だったというべきだが、残り2人はライトオンの社員だった。
知っている範囲だけで考えてみると、ライトオンには「ジーンズをベースとしたアメカジ」以外のジャンルをやれる人間がいたが、それらを長くつなぎとめられなかった。
その結果、「ジーンズをベースとしたアメカジ」しかできない人だけが残ったと考えられるのではないかと思う。
ライトオンの立て直し策はなかなか難しい物があるが、本体は「ジーンズをベース」としながらも、その比率を下げたアメカジにシフトし、そして「従来型アメカジ」ではないジャンルの新業態をいくつか立ち上げる必要があるのではないかと思う。そのためには、「ジーンズをベースとしたアメカジ専用」の人材ではなく、他ジャンルに強い人材を複数招聘すべきだろう。ただし、アパレル業界には「あれ俺詐欺」が跳梁跋扈しているから、真贋の見極めは大切なのだが。
こんな感じでどうだろうか。
アメリカ法人が経営破綻したジースターロウのジーンズをどうぞ~
いつも楽しく勉強させて頂いています。基本ファッション好きな本木雅弘雑貨屋の年金もらっている年齢の人間です。ライトオンの不振を見てこうすれば?と思うこと。何気に普通に世の流れに遅れていないレディース部門で何気に稼ぎ、メンズは、ジーンズを履かなくなった自分が手を出した、数年前からアパレルショップで増えたペインターパンツやオーバーサイズに代表される、今、への取り組みが少ないのでソレ、今、が必要でしょう。迷彩柄を含め、今風なジーンズ的カジュアル店はまだまだ成り立つのでは?と思います。キャンプ7?40年前の思い出ですが、今は不要です。