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南充浩 オフィシャルブログ

アパレル業界と業界メディアが「営業利益」よりも「売上高」を重視してしまう理由

2020年7月29日 メディア 1

近年、洋服のトレンド変化は非常に緩やかだと感じる。

バブル期の洋服トレンドの変化というのを体感したことがないからその頃のことは分からないが、バブル崩壊以降も2000年頃までは結構、トレンドは急激に変化していたと感じ、少なくとも今よりはトレンドの変化が急だったと感じる。もしかしたらジジイ特有の「昔は良かった」論かもしれないが。

トレンド変化が緩やかになるとどうなるかというと、洋服を買う枚数が減る。なぜなら、以前の物をそのまま着用することができるからで、せいぜいトレンド品を数点買い足せば上手くトレンドの波に乗ることができる。

トレンド変化が急だと、極端な話、タンスの中身を総入れ替えせねばならなくなるから、必然的に一人当たりが買う枚数は増える。

そして、2000年以降は洋服の単価は下落しているから、枚数が減って単価が下落すれば、売上高は伸びない。

売上高は枚数×単価でしかない。

 

そうなると、多くのアパレル企業が売上高を伸ばすことが難しくなった。これが2010年以降の状況ではないかと思う。

それゆえに、最近では「売上高の増減ではなく、営業利益の増減を重視せよ」という主張が増えており、当方もその通りだと思う。

先日、久しぶりに有名コンサルタントの河合拓さんから連絡があった。河合拓さんとは思想的にも主張的にもすべて同方向ベクトルではないが、「売上高の増減より営業利益重視」という点では一致している。

先日、WWDにこんなコラムが掲載された。

 

脱・売上高至上主義の誓い

「誓い」とはえらく大げさな表現だが、まあ、外連味たっぷりで「現代版スーパー歌舞伎」みたいなセリフまわしの半沢直樹のドラマがそれなりに支持されているので、今風といえば今風なのだろう。

 

日頃、われわれメディアは「ファッション業界はモノを作り過ぎ」などと声高に語っている。しかし、売上高偏重型の報道で、そうしたゆがんだ構造を加速させてきたのは他でもないあなたたちメディアじゃないか、そんなふうに言われた気がして恐縮した。

 

とある。

しかし、アパレル業界が売り上げ至上主義なのは、別段メディアだけのせいではない。またメディアが売上高偏重の報道をせざるを得ない状況も無理からぬものがある。

今回はそのあたりについて考えてみたい。

 

先述した河合拓さんも指摘されているが、売上高偏重報道にならざるを得ない理由の一つとして、

 

上場しているアパレル企業が少ない

 

ということがある。

要するに株式公開をしていないアパレル企業の方が大半で、株式公開しているアパレル企業の方が少ない。

かつての大手アパレルでも現在はもちろんのこと、ピーク時ですら株式公開をしていないアパレルは珍しくなかった。

例えば、ファイブフォックス、イトキンなどがそうだ。

ピーク時には売上高1000数百億円があった両社だが、株式公開をしていなかった。もちろん今でもしていない。

株式公開をしていなければ決算を公開する義務もない。必然的にその会社の決算内容はわからないということになる。もちろん、調べればわかる部分もあるが、それでもすべてがわかるわけではない。

当方も記者時代、株式公開をしていないアパレル企業へ決算内容を取材したことがあるが、売上高くらいは教えてくれるが営業利益となると口をつぐんでしまうことが多かった。その売上高も下駄を履かせている場合も珍しくないのだが。

そうなると、売上高ベースで記事を書かなければならなくなる。

メディアで売上高ベースの記事が多い最大の理由はこれである。

 

あと、業界メディアの記者は当方も含めて、決算や財務にあまり興味を持っていない人が多いというのも理由に挙げられるだろう。

今はそうではないかもしれないが、20年前はそうだった。そして当方もそういう記者の一人だった。どのメディアの社内にもそれなりに決算記事の上手い人がいたが、それは少数派といえた。

そして、そういう記者が記事を書くとなると、売上高の増減くらいが精一杯ということになってしまう。

 

次に、メディアだけの責任ではなく、アパレル企業の大半以上も同罪だということにも触れておこう。

売上高を偏重しているのは何も業界メディアに限ったことではなく、アパレル企業側も同様である。すべての企業がそうだとは言わないが、売上高の増減しか目が行っていないアパレル経営者、管理職、現場スタッフははっきり言って珍しくない。当方からするとアパレルあるあるだ。

今はそうではない経営者も増えてきた印象があるが、20年くらい前は売上高の増減しか見ていないアパレルの経営者も少なくはなかった。2000年ぐらいまでのトレンド総入れ替えみたいな購買行動だと、それでも企業を経営してこれたのだろう。前時代の化石みたいなものである。

経営者がそうなら、役員も管理職も現場スタッフもそうなるのは当たり前だ。

また、アパレル企業に入ってくる若者がこの手の計数管理や算数を極端に苦手にしている人が多いこともそれに拍車をかけているといえる。

専門学校でも講義をすることがあるが、「割合」「百分率」の計算ができない生徒が半数くらいは毎年いる。「70%オフのレジにて30%オフ」を真顔で「無料になるんですか?」と言うレベルである。

こういう人が現場スタッフとなり、管理職となり、はては役員になるのだから、営業利益とか粗利益なんて考えられないのもわからないではない。

 

先日、某ネット通販専門アパレルの方とお会いした。

その企業はコロナ禍においても業績は堅調で、ピーク時よりも売上高は落ちたが、営業利益は逆に1億円くらい増えたそうで、経営者と一部の管理職は非常に喜んでいる。

にもかかわらず、中間管理職と現場スタッフは「売上高が減ってるから大変だ」と騒いでいるそうで、彼らの脳内には「利益」とか「粗利益」とか「営業利益」という概念は存在していない。

幸いこの企業は経営層がしっかりしていて「利益重視」だから舵取りを間違えることはないだろうが、現場スタッフの意識の低さとの乖離が大きな問題である。

営業利益までは現場スタッフにも公開して、教育するべきではないかと思う。

 

とはいえ、この企業の現場スタッフのような方々はアパレル業界においてまったく珍しくない。そしてそういう人たちで構成されているアパレル業界が「売上高重視」になるのは極めて当然のことだといえる。

 

売上高偏重はメディアだけの責任ではなく、むしろその根本原因はアパレル業界の方にあったのではないかと思う。

 

 

マサ佐藤さんから勧められて読んだ初心者でもわかりやすい決算の本をどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/07/29(水) 11:50 AM

    本来、株式会社だったら上場してなくても貸借対照表は決算公告しなきゃいけないから、一応の業績は他人も見られるはずだけど、公告してない企業も多いっつーかむしろ公告してるほうが少なかったりするようっすねw
    上場してなくても大企業だと貸借対照表と損益計算書も公告する義務あるようなんで、ちゃんと公告してる会社なら調べればどっかで見つかるはずですが、公告をしていない場合の罰則あっても罰せられた企業は無いらしいのでやってない企業が多いようでw

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