MENU

南充浩 オフィシャルブログ

物販で独自化するには商品自体を独自化する必要がある

2020年7月6日 百貨店 1

少し以前に何度かに分けて「百貨店・デパート興亡史」という本をご紹介した。

めちゃくちゃ細かくはないが、大まかに百貨店発祥から現在に至るまでの変遷をまとめた本である。だから例えば、伊勢丹が創業家の小菅家を退けて世襲ではなくなった話なんかは掲載されていない。

それはさておき。

三越や大丸などの古い百貨店のルーツの多くは呉服屋である。呉服屋が明治になって百貨店へと変身したわけである。阪急などの電鉄系はそれより遅く始まっており、理屈で考えてみれば容易にわかるのだが、鉄道が普及したのは明治以降のことだから、呉服系よりも歴史が新しいのは当然ということになる。

で、この本を読んでみると、百貨店はその後、屋上に遊園地を作ったり、大食堂を作ったりそこの目玉メニューとしてお子様ランチを発案したりと、常に先取的に建物設備ばかりでなく、売り方や売る物すらも変えて、それがさらに発展を呼んだ。

 

現在の百貨店勤務者や百貨店ファンを見ていると「伝統ガー」ばかりだが、過去に発展してきたときの百貨店は「表層的な伝統」をいとも簡単に捨て去り、常に新しい事柄を取り入れてきた。

前にも書いたようにエレベーター、エスカレーターの導入も百貨店はかなり早い時期に行っていた。

 

しかるに今はどうだろうか。

個人的には百貨店という流通チャネルに思い入れも親近感もゼロだから、勝手に潰れるなら潰れてしまえばいいと思っている。

当方の生活においては、百貨店なんぞなくなってもまったく困らない。必需品も嗜好品も百貨店がなくともすべてそろう。

バブル崩壊から大方30年が経過しようとしている。

 

この30年間で百貨店はほとんど変わっていないように見える。そりゃ、大丸が東急ハンズを導入したりポケモンセンターを誘致したりはしたが、本質的な部分や考え方はさほど変わっていない。

変わったとしたら、導入しているファッションブランドのラインナップくらいだろう。

何十年も前にオンワード樫山によって確立された販売員付き消化仕入れという売り方に固執し続けている。世の中の生活スタイルは30年間で大きく変わったのに、百貨店は建物とブランドラインナップ以外はそれほど変わっていない。

だからかつてほどには消費者の支持は得られない。

 

相変わらずメディアは百貨店報道が好きだが、百貨店の業績は上向かない。百貨店の打開策なんていう記事が年間に何本も掲載されるが、はっきり言って、今までの仕組みを維持したままで百貨店の業績が上向くことは絶対にあり得ない。

世の中全体がタイムスリップして35年前に戻る以外は。

 

バブル期までの百貨店ならネット通販の導入にも積極的だったのではないかと思う。以前にも書いたが、百貨店は意外なことに通信販売に一早く手を出していた。カタログがネットに変わるだけなのだから、当時の百貨店なら間違いなくネット通販も積極的に導入したのではないかと思う。

断っておくと、当方はネット通販礼賛論者ではない。ネット通販だけで何事も解決するなんてさらさら思っていない。だが、ネット通販「も」必要だとは思っている。

それがどうして、百貨店がネット通販を始めるか始めないかだけでこれほどのアホみたいな論争が必要なのかと疑問で仕方がない。儲かる可能性があるならやってみればいい。どうせ今のままでは百貨店は儲からないのだから。

 

商品にしてもそうではないか。

実際的な企業のシステムや業務内容は無視していえば、究極的な差別化・独自化というのは、売っている物を独自化するしかない。

それは取りも直さず、SPA化、自社企画化することである。

例えば、ワークマンの防水透湿ジャケット「イージス」はワークマンにしか売っていないから、ワークマンで買うのである。「イージス」がイトーヨーカドーにも並んでいたら、そちらで買う人も増えるし、イトーヨーカドーで割引セールされれば間違いなく、ほとんどの人間はイトーヨーカドーで割り引かれたイージスを買うだろう。

 

「俺はワークマンが好きだから、絶対にワークマンでイージスを定価で買う」

 

なんていうマニアは変態だし、圧倒的少数派である。

 

この基本に沿って考えれば、百貨店の洋服やファッション用品の販売が再度ある程度上向くためには、独自化が必要ではないかと思う。

今のブランド誘致のやり方だと、どうせ、何年か後には近隣の百貨店にも導入されて、同質化してしまうわけである。

ブランドを発掘・誘致する→近隣の百貨店にも導入される→また新しいブランドを発掘・導入する→近隣の・・・・

と言う具合に今のままだと無限リピートである。

 

となると、近隣の百貨店との真の意味で差別化するには、自社開発商品を投入するしかない。

もちろん、全商品をそうすることは難しいが、何%かを自社開発商品に変えるという取り組みは必要である。これまで百貨店のPBはあまり成功してこなかった。だからと言って、ブランドを見つけてきて消化仕入れするというだけではいつまで経っても独自化はできない。

商品のことだけではなく、根本的な考え方や姿勢も、業績を再浮上させるためには変える必要がある。

 

このまま縮小均衡させて細々と存続するつもりならその限りではないが。

 

どちらにしても当方の生活においては百貨店など不要だし、百貨店業界から仕事をもらっているわけでもないから、好きなようにされればいい。

どちらを選ぼうとそれは百貨店業界の自己責任だし、無くなったり店舗が閉鎖されても当方はまったく同情しないし、何の感慨もない。「伝統ガー」と心中されるのもそれはそれでありなのではないかと思う。

 

 

Amazonで「百貨店・デパート興亡史」をどうぞ~

この記事をSNSでシェア
 comment
  • マーさん より: 2020/07/06(月) 4:10 PM

    伊勢丹のBPQCや西武のリミテッドエディション、松屋オリジナルなんか記憶にありますが、どれも今一つだったのでしょうか。よほどお得感がないと独自性の訴求も受け入れられないような気がします。

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ