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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品製造の中間業者は多分なくなることはない

2020年6月29日 製造加工業 0

現在のアパレル業界は、小売・流通段階よりも製造加工段階の方が多層化・多段階化している。

90年代後半のSPAブームと問屋不要論によって、随分と中間業者は流通段階では少なくなった。インポートブランドに関しては表に出ていないが不透明な中間業者が挟まっている場合もあるが。

例えば某高額ダウンジャケットブランドが、急に値上がりした要因には様々な理由があるが、その一つとして、表には出てこない1社を介在させるようになったことが挙げられる。正直、パイプ役でしかないが、このパイプにも数%程度の手数料を支払うため、その分店頭販売価格は値上がりする。

 

さて、製造加工業の方はというと、どうして多層化・多段階化するかというと、様々なアイテムや生地がある繊維・衣料品業界だが、そのすべてに精通しているという人がいないためである。

特定の分野でどれほど深い知見があっても別分野ではまったく知見がないという人が多い。まあ、それは製造加工分野に限ったことではないだろうが。

エラい戦略系・経営系のコンサル先生が業界には何人もおられるが、経営戦略に関しては素晴らしい知見があっても在庫管理やマーチャンダイジング、EC(いわゆるネット通販)に関しては今一つな場合がほとんどで、やはりそれぞれのジャンルに専門家がいて、その専門家には遠く及ばない。

製造加工業も同様で、デニム生地の生き字引みたいな人でもカットソー生地にはほとんど知見がないとか、合繊の糸に関してはすさまじい知識があったとしても、綿には知見がないとか、そんなことは日常茶飯事である。

生地のプロでもパターン(型紙)についてはほとんどわからないし、テイラーの縫製工場はTシャツの縫製ができなかったりする。

繊維・衣料品業界はそれほどに範囲が広く、かつそれぞれが奥深い。当方など何も知らないに等しい。

 

ブランド側はそんな状況さえ認識していない場合が多いから、平気で不得意分野のジャンルも注文してくる。そうすると工場はどうするかというと、その不得意分野に精通した誰かを頼る。

それがOEM業者や振り屋の場合もあるし、他の製造工場の場合もある。

いずれにせよ、自社では対応できないから、他社に頼ったり、他社を通じて紹介してもらうことになる。

 

例えば、ジーンズやそれに類する綿厚手生地のカジュアルパンツ製造を得意とするOEM業者があったとして、そこに顔なじみのブランド側から「Tシャツも作ってもらわれへんかな?」という打診があったとする。

しかし、このOEM業者の背景では対応できない場合、Tシャツ縫製工場を紹介してもらうか、Tシャツを得意とするOEM業者を紹介してもらうことになる。

大手のOEM業者や商社のOEM部門になると、それぞれの得意分野で事業部を作っているから自社内で完結できるが、零細・中小ならこういうことになる。

紹介してもらってそちらに仕事を回すことになるが、ブランドと直接やってもらおうとしても両方が嫌がる場合もある。取引口座数が増えることを嫌がったり、与信調査をすることを嫌がったり、する。

そうなると、必然的に最初のOEM業者が窓口となって、Tシャツ業者へ仕事を下ろすことになる。

 

Tシャツ業者へ仕事を下ろした場合、最初のOEM業者は数%程度は手数料をもらう。これは何も最初の業者が欲深いだけではない。Tシャツ業者への仕事分も含めた受注金額をもらってそのままTシャツ業者へ支払うと、最初の業者は帳簿上、売上高が激増しているのに営業利益は変わらないということになる。

それではやはり具合が悪いので、多少なりとも利益を得る必要があるので何%か手数料を取ることになる。

 

この辺りの仕組みを自身が中間業者でもある山本晴邦さんがブログで説明している。

 

中間業者介在理由

https://www.ulcloworks.net/posts/8396691

 

各ジャンル(シャツ、コート、カットソー、ニットなど)の糸や生地から縫製の手筈を整えていくワケなんだけど、これは結構、いや死ぬほど骨の折れる仕事。生産管理という職種はこのエキスパートなのだが、彼らも膨大な型数を抱えると、生地工場も管理して縫製工場も管理するってのは実際問題として現実的ではない。やってる会社もあるだろうけど。全部やるのは本当に大変なことだ。

そこで、OEM/ODMメーカーと呼ばれる中間業者に預けて提案及び生地から縫製一貫で依頼することでコスト管理も納期管理もクオリティ管理もやってもらうというのは非常に合理的判断だ。また、会社単位の付き合いや担当同士のウマが合ってくると中間業者依存度は上がる。ホールで商売すると、ロット割れに対するナラシが利いたり、双方にとってある程度の無理も通りやすくなる。

ということになる。

 

ただしこのOEMメーカーも服作り全てにおいて全能ではない。もちろん服作りのプロ集団(のはず)だ。受けた仕事のケツは合わせる。それが千駄ヶ谷OEMの猛者たちだ。じゃなかったら早晩仕事が干されているはずだ。が、服作り全部を熟知している訳ではないのは先にも述べた通りだ。得意不得意がある。誰だってそう。僕だってそうなんだ。(名もなき詩)

 

そのフリ屋さんも、苦手なジャンルがあったりする。そこへその苦手な部分を得意な同業さんが友達でいたりして、フリ屋がフリ屋に振ったりしてる。

 

という具合である。

一見すると無駄なサプライチェーンのようだが、実際にOEM業者の商談に同行し立ち会ってみると、一概に無駄とは言い切れない。先ほども書いたように大手商社のOEM部門や大手OEM業者なら自社内の他事業部に任せれば済むが、小規模なOEM業者だとこれしか対応策がない。

またブランド側も面識のない大手業者に任せるよりは、気心の知れた小規模OEM業者に介在してもらった方が安心だと考える場合も多い。(実際に安心安全かは別であることも多いが)

自分がもし発注する立場だったとしたら、顔見知りの業者とまったく面識のない業者と、どちらに依頼しやすいだろうか?衣料品の製造に限らず。国内外にかかわらず。

 

まあそんなわけで、製造加工段階で中間業者を撲滅するのはほとんど不可能ではないかと思う。逆にトータルブランドが増えれば増えるほど、中間業者へ依頼するケースが増えるのではないかと思う。

 

恐らく、繊維・衣料品に限らず、現代社会は何事につけてもそれほどに専門化の度合いが深く、それがゆえに細分化してしまっているといえ、他分野のことがわかりにくいのは、何も繊維・衣料品業界に限ったことではないといえる。

 

 

 

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