服作りが好きな人は「儲けること」を考える必要がある
2020年6月26日 デザイナー 0
先日、タイトルが表示されたが、クリックせずに華麗にスルーした記事がある。
アパレル苦境下で200%伸びたブランドの正体
https://toyokeizai.net/articles/-/357339
タイトルがいかにも胡散臭い。経済系メディアでよくありがちな見出しである。この手の記事はだいたい、大手とは比較対象にならないくらいの小規模零細企業・ブランドをクローズアップして「すごい成長率」と煽ることがほとんどである。
あとアパレル関連でありがちなのは
「第二のユニクロ」(第二のユニクロはこの世に一体いくつあるねん?)
「ユニクロを追撃」(ブランド規模が違い過ぎて追撃でけへんやろ?追撃したら殿軍に返り討ちにされるで)
というやつである。
で、話を戻すと、小規模零細企業・ブランドの「200%伸びた」とか「3倍増」とかは概して経営者や看板となる人の個性やキャラクターが牽引していたり、特異な手法が取り入れられていたりして、中規模・大手には参考にならないケースがほとんどである。
そんなわけで華麗にスルーしていたのだが、知人たちのSNSを眺めていると、どうやらfoufouというブランドに焦点を当てられているようなので、読んでみた。
ちょっとはっきり言って、出だしから個人的には苦手である。(笑)当初の予想通りの書き出しである。
新型コロナウイルスの影響で、苦境に立たされているアパレル業界。昨年末から年明けにかけての暖冬で苦戦していたところに、外出自粛が直撃した。
5月15日には、「ダーバン」「アクアスキュータム」などのブランドを展開する老舗・レナウンが民事再生手続きを開始した。業界大手オンワードホールディングスは、国内外の約700店舗の閉店を決定。2021年2月期までの間に、さらに約700店舗を追加で閉店することを発表した。
サンエー・インターナショナルは、1991年から続いた人気ブランド「ナチュラルビューティー」を終了。ストライプインターナショナルも、長年10〜20代前半の女性向けの主力ブランド「イーハイフンワールドギャラリー」を終了する。
これらはその通りの状態だが、foufouのことが書かれてあると知って読むとなおさら、個人的には違和感を感じる。
なぜなら、失礼ながらfoufouは零細ブランドである。業界大手の苦戦と対比させる必要性はまったく感じない。
そうした中、2020年2〜5月、4カ月連続前年同月比で200%以上の売り上げ成長を遂げたブランドがある。20代女性を中心に、幅広い層から支持されているブランド「foufou(フーフー)」だ。
とあるが、まあたしかにコロナ禍において売上高を倍増させているのはすごいが、それは実店舗なしのEC販売のみという利点もあったといえる。
それとあと、年商規模の小ささも伸び率の高さを誘発しやすくなっている。とはいっても、零細個人ブランドでも伸びないところは何十年やったって伸びない。
それには、売り方、商品のテイストがターゲットと大きくズレている、価格設定がターゲットと合致していない、あまりにも独りよがりである、などなど様々な要因がある。
30年間くらいこの業界にいて、97年頃にデビューした個人デザイナーズブランドが山ほどあったが、ビジネスとしてある程度確立できたのは知っている範囲では10未満だろう。あとは鳴かず飛ばずだったり廃業して異業種に成ったりしている。
その傾向はそれ以降の時代でも概ね変わらない。
そういう点で考えれば
2019年末時点での年商は2億円、2020年は4億円を超える見込みで、業界でもD2Cの成功例の1つとして注目されている。
現在年商2億円で、今年度は4億円への成長が見込めるというfoufouはやはり出色の存在であるといえる。ただし、企業規模が小さい方が年商を伸ばしやすいということは変わらない。
年商1億円が1億1000万円になることは、1000億円の会社が1100億円になることより容易だろう。100億円の増収はなかなかむずかしい。
で、まあ、あとはつらつらとfoufouの手法が紹介されているわけだが、特徴はSNSを使ってのファン作りと双方向性である。
「売り上げへのコロナの影響は、いまのところはまったくありません」と言い切る同社。いったいその強みはどこにあるのか。コロナでも揺るがないビジネスモデルはいかにしてできているのか。
とあるが、実店舗なしのEC特化がその最大の理由だろう。
逆にコロナが無かったとしても、売上高は今と同じペースだったと考えられる。
もっとも、デザイナーのマール・コウサカ氏は急激な売上高拡大を全く考えていないし、今後も実店舗出店はしないだろう。恐らく、今後も今の規模感を維持していくと考えられる。
今回の記事掲載に関して次のようにツイートしておられる。
東洋経済の記事で、頭の良い人達に分析、解釈されるの面白い。もっと純粋に服屋をやろうよ。純粋に作りたいもの作って生きていくには商売しなきゃいけないからできるだけ「ちゃんと」やってるだけなんだね。「こっちのが儲かるぞ!」で決めたことなんて1人で部屋で縫ってたときから考えたことない。
— foufouのマール・コウサカ (@foufou_marl) June 24, 2020
アパレルビジネスの方向性は決して画一的でなくてはならないということはない。何千億円規模のマス販売を狙っても良いだろうし、自分と仲間たちが食えてそこそこに裕福な生活ができる規模感で抑えても良い。
その目的に合った売り方、合ったターゲット設定、合った販促手法があるだけなのだが、往々にしてアパレル業界の人は自分のスタンスを見失う。
明らかに零細ビジネスなのに、そのまま何も変えずにマスに売ろうとしたり、明らかに大手の量産ブランドなのに、こだわり分野に進出しようとしたりする。そしてそのほとんどが失敗に終わり、彼らは一様に「景気が悪い」「社会が悪い」と言う。悪いのは自分たちの考え違いなのに。
話を戻すと、マール氏の現在までのやり方は、決してマス向きではない。本人がそれを自覚していて、さらにその上で
純粋に作りたいもの作って生きていくには商売しなきゃいけないからできるだけ「ちゃんと」やってるだけなんだね。
というところに帰結する。
いくら、花畑なユートピアに憧れたって、世の中はカネで動いている。カネが尽きれば新商品を製造することさえできなくなる。資本主義を否定した社会主義の中国が、経済では困窮し、資本主義を導入して経済成長を遂げたことを見れば花畑ユートピアなんて脳内でしか存在不可能なことは、普通なら理解できる。
作りたいものを作って生きていくにはそれなりに儲けなくてはならないから、それなりに儲かるようにしているというマール氏の姿勢は、SNSで言われるところの「エモい人(江本孟紀っぽい人ではない)」が基本的に大嫌いな当方でも深く賛同する。
記事では大手ブランドにも参考にできる部分はあるのではないかと結ばれているが、SNSを活用して頻繁に発信し双方向で絡むというめんどくさい手法は大手ブランドには向かないし、労力がかかりすぎる。逆にマール氏は今の手法のままで大手ブランドになることはほとんど不可能である。(なりたいとも思っておられないだろうが)
まあ、そんなわけで冷静で在り続ける限り、foufouはそれなりに儲かり続けるだろう。
なにはともあれ、大手メディアに掲載されたということはめでたいことである。
明日からAmazonのタイムセール祭り始まるってよ