サンプル製作代とサンプル修正代も無料ではない
2020年6月24日 製造加工業 3
繊維・衣料品業界におけるすべての事柄に通暁している人はいない。
もちろん当方もである。
生地で言えば、織物に詳しい人は編み物には詳しくないし、その逆も然りである。
スタイリストやファッショニスタ、ファッションブロガーなどは生地や縫製、製造加工工程全般には詳しくないし、生地工場のオッサンはファッショントレンドやコーディネイトにはまったく詳しくない。
そんな具合である。
当方はどちらかというと生地は織物の方が理解がマシで、編み物になるとさっぱりわからない。
そこで、編み物、特に丸編み、カットソー類は「丸編みタリバン」の異名をほしいままにする、山本晴邦氏に教えてもらうことが多い。
さて、山本氏のブログでこんなエントリーがあった。
スワッチは無料じゃない
https://www.ulcloworks.net/posts/8573158
まあ、内容はタイトル通りである。生地スワッチというものが生地問屋や生地メーカー、生地工場から毎シーズン作られ、配られているが、あれを無料だと勘違いしているアパレルやSPAブランド、大手セレクトショップは珍しくない。
しかし、単純に考えても、生地を〇センチ四方にカットして台帳に貼り付け、その生地の組成や特徴などのキャプションを書き込むのだから、無料で製作できているはずがない。
これである。画像はブログからお借りする。
人件費もそうだし、人件費を除いても生地代、台帳代などがかかっている。
このエントリーの後半は、繊維業界あるあるの、よく分からないけど無駄に忙しそうにしていてその割には売上高が稼げない営業マンへの愚痴となっていて、生地屋に限らず、この手の営業マンは各段階に掃いて捨てるほどいる。
大手アパレルメーカーやSPA企業、PBを盛んに作りまくる大手セレクトショップなんかが見落としているコストとしてはこの生地スワッチのほかに、サンプル製作代とサンプル修正代がある。
サンプル製作代とサンプル修正代が無料だと思っている人が本当に珍しくない。そしてサンプル代を請求した場合、それを無料にすることが「コスト削減に貢献できた俺すごい」と勘違いしてしまうのはこの手の輩に共通している。
縫製に詳しい人ならご存知だが、サンプルの縫製工賃というのは非常に高い。デザインの複雑さにもよるが、だいたい平均で1着3万~4万円くらいはするだろうか。
ブランド側からするとなぜそんなに高いのかわからないというところだろうが、工場側にも言い分がちゃんとあって、量産品だと手が慣れてくるので作業効率が上がるが、1着や2着のサンプルを作るとなると非常に時間がかかるという。
まあ、フルオーダーメイドのスーツやドレスの工賃が高いことを想像してもらえば何となく感覚的にはわかるのではないかと思う。
さらに見落とされやすいのはサンプルの修正にも料金が発生するということである。
サンプルが上がってくると、ほとんどの場合、必ず修正箇所が見つかる。当たり前である。なぜなら、量産されていない商品を初めて試作したわけだから、もうちょっと丈が長い方がイイとか、もうちょっと袖が短い方がイイとか、そんな修正点が発生しない方がおかしい。
発生しない場合があるとしたら、他ブランドの商品を完全コピーした場合くらいではないかと思う。
そして当たり前だがサンプルを修正するたびに、工場には作業が発生し、修正のための工賃が発生している。
しかし、サンプル代以上に、サンプル修正代を請求した場合、露骨に嫌な顔をする大手アパレルや大手セレクトショップの担当者が多い。
サンプル製作だけで実は小規模な商売は成り立ってしまう。例えば2016年に掲載されたレオパールというサンプル工場である。
ここの営業担当の方が、以前、当方が運営チームに属するイベントに訪ねて来てくださったことがあった。その方は今でもこの会社に所属しているのかどうかはわからないが、サンプル縫製だけで年間数億円の売上高があるとのことだった。
サンプル縫製というのは本来、それくらいのビジネスが成り立つのである。
大手ブランドの担当者はサンプル製作代や修正代を踏み倒して「コスト削減やったった」と内心得意なのかもしれないが、実はその踏み倒したはずのサンプル製作代や修正代は量産品の工賃に分散して上乗せされているのである。工場やOEM業者もアホではないし、大手のサンドバックでもない。
例えば、サンプル製作代が2万円、修正が2回あってそれぞれ1万円ずつの合計2万円だったと仮定しよう。
本生産でこの商品を400枚製造することになったとする。
サンプル製作代と修正代の合計は4万円なので、本生産での縫製工賃に1枚あたり100円が上乗せされることになる。
400枚×100円アップ=4万円
である。
実際に何度もOEM業者の商談に同行したことがあるが、サンプル製作代と修正代を踏み倒された場合、業者はこうやって回収していた。
担当者が「コスト削減に成功した」と思っているのはおめでたい限りで、生産コストの総額は何も変わっていないのである。
逆にこのような値切り方をすれば、OEM業者や工場からの心証を悪くし、関係が悪化すれば即座に逃げられる可能性が高い。
工場の代わりなんていくらでもあると思うだろうが、工場が変わると同じデザイン、同じ素材でも仕上がりがまったく変わってしまう。
今までミリタリーな感じだったのに、急にギャル服っぽくなるなんてことがある。
今までの工場で商品が売れていたなら、工場が急に変わってしまうと、商品の細かいニュアンスが変わるため売れなくなってしまう。
だから、良い工場であればあるほど、逃げられて困るのはブランド側だということになる。
なかなか生産コストが下がらないブランドがあるなら、もしかするとこういう目先の端カネをケチって本生産で取り返されているのではないか。
comment
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とおりすがりのオッサン より: 2020/06/24(水) 1:12 PM
私、金属加工工場の営業で値付けやってますが、見積りだした後に毎回値切ってくる某上場企業がいます。わざわざ係長さんか課長さんかなんかから値切りメールが来るんですが、それを見越して1.2掛けで見積り金額が出るように、その会社用の見積り算出プログラムを作りましたw
ホント、世の中無駄なことが多いっすw -
イトウチュウ より: 2020/06/25(木) 12:38 PM
今回のコロナ騒動で痛感したと誰もが思うに、繊維関係は不要不急に値する。 普段着だろうが制服だろうが人間のエゴにしか成り立たないものである。だからこそ必然に値するとも言える。 世の中経費のかからないものなどないなど解りきっているし、コンビニ袋一つにおいてもお金を出して買えばOKとは論に反した問題だ。 〇〇クロが新しい切り口を打ち出してくるのを心待ちにしている自分がいる。
サンプルを作る場合 都度 下糸を変えるなどの細かな作業が増えます
最近では 仕様書もまともに書けない御仁がおり 何度もやりとりが必要になります
少しばかり 色をつけてもらっても やっていけませんね
有名ブランドかしれませんが そんなの作る方にしてみれば どうでもいいことです
あそこのブランド うちで作ってると喜ぶのは 若い学生上がりの人でしょう
もっとも 縫製はしんどい仕事ですから 最近はやりたがる学生もいないでしょう
少し前なら 外国人技能生が頑張ってお金ためて 国に持って帰ってましたが
日本人が縫製職を職業として敬遠されるようになった時間よりも
何倍ものスピードで外国人からは敬遠されるようになりましたね
きれいなオフィスで格好いい環境で「トレンド」やらを作ってる御仁には
サンプルはもちろん スワッチに 金なんてかける気持ちは無いでしょう
そういう構造が アパレルが金にある産業でなくならしたと思いますがね