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南充浩 オフィシャルブログ

むやみな原価率引き下げが過剰在庫を生み出すこともある

2020年6月22日 製造加工業 0

国内の衣料品製造は水平分業で、海外は一貫生産だと言われるが、一貫生産と言ったところで紡績から小売店までを一貫体制で行っている工場など知る限りでは存在しない。

せいぜい、紡績・染色・織布・整理加工くらいまでである。

いわゆるアパレルメーカーの機能、小売店の機能は持っていない。

一貫生産できるのは、糸から生地までくらいなので、実際のところアパレルメーカーに売るときにはこの工場なりのミニマムロットが必ず発生する。

この生産のミニマムロットは工場がそれぞれ、自社の売上高や抱えている人員、生産設備の大小、利益率などを鑑みて独自に決めている。

紡績だったら最低でも〇〇㎏、染色だったら最低でも〇〇メートル、織布なら最低でも〇〇反(1反=50メートル)、縫製工場なら1型〇〇枚(最近ではサイズ込み)という具合である。

このため、それぞれの上流の工程のミニマムロットと、下流の工程の要望する量は食い違う場合が多い。

 

分かりやすいようにアパレルブランドと縫製工場の関係で見てみよう。

小規模な国内アパレルブランドだと1型あたりだいたいサイズ込みで30~50枚くらいの生産を要望する場合が多い。一方、国内の縫製工場のミニマムロットは一般的に1型100枚くらいだが、最近だと1型50~80枚というところもあると聞く。

仮に、ブランド側が30枚(S、M、Lのサイズ込みで)作りたいとする。一方、縫製工場のミニマムロットは、サイズ込みで1型50枚である。

多くの場合、こんな感じになっている。

そしてミニマムロットを下回る場合、1枚当たりの料金はアップチャージされ高めになる。

 

これは別に工場が悪辣なわけではない。世の中の商品は大概がこうなっている。

例えばパソコンのソフトはどうだ?3年間契約すると1年契約よりも1年間の料金は安くなっている。

1年契約だと12000円だが、3年間契約だと合計で3万円というようなソフトは珍しくない。

 

工場のミニマムロットとアップチャージもこんな感じである。

 

なので、アパレルの在庫問題が喧しいメディアとコンサル業界だが、零細や小規模ブランドが主張するように、世の中のアパレルブランドがすべて受注生産になったとしたって、その上流の工程では常に少し多めに生産され続けている。そのため、生地や糸、副資材の過剰在庫はなくならない。逆に糸や生地、副資材までもが完全受注生産になれば、零細・小規模な受注生産ブランドが生産できなくなってしまうだろう。

 

で、ここからが本題だが、アパレルが過剰在庫を生み出す理由の一つとして、製造原価率を引き下げるために無理やりにミニマムロットに乗せようとすることも挙げられる。

しかし、その製造原価率の引き下げって本当に必要なのか?

 

例えば、1型30枚しか売れない零細ブランドがあったとして、製造原価率を引き下げるためにミニマムロットの50枚を生産したとする。

20枚前後は確実に売れ残るわけだから、この20枚は不良在庫となる可能性が高い。値引き販売すればある程度は売れるかもしれないが、何せ「零細ブランド」なので完売は難しいだろう。

大手ブランドだと知名度が高く、たくさんの消費者と接点を多く持っているため、20枚くらいなら値引き販売すればすぐに完売できる。

しかし零細ブランドは顧客数が少なく、知名度が低いから、今の顧客に20人を上積みするだけでも難しくなる。

かくして20枚は不良在庫となる。

 

今回は零細を例にしているが、実は結構な大手でもこの手のことをやりがちである。もしかすると大手の方が数字ばかりを異様に気にするのでやらかしている可能性は高いかもしれない。

原価率を下げることが仕事の目的となれば在庫は増える?

例えば、売上予算1億円。粗利率予算が50%だった場合。売上原価(仕入原価)は5,000万円となります。
MD・バイヤー等に粗利益の重要性を教育していないような組織の場合。上層部はMDに対して、粗利益のことをよく理解させずに、仕入原価予算として、5,000万円という数字だけを伝え、抽象的な意味での低い仕入原価率の設定を守ることを要求したとします。

すると、例えば上記の例で、MDが上層部の指示を頑なに守って、仕入原価率20%を達成した場合。以下のようになります。

5,000万円÷20%=2億5千万(仕入元売価金額)

となり、売上予算1億円に対して、2.5倍もの仕入元売価金額を仕入してしまうことになります。

 

ということになり、その結果、タイムセールの乱発やバーゲン時期には「70%オフからさらにレジにて30%オフ」セールを繰り返すことになる。

しかし、製造側もまるっきりのアホではないから、

 

商品供給側である商社との駆け引きでも、仕入原価率引き下げを商社に要求すれば、ミニマムロットを相手に悟られないように吹っ掛けられますから、そのことも相まって、上記した組織のように過度なセールを強いられる必要性があるということです。

 

ということになり、むやみに原価率を引き下げると、ミニマムロットを引き下げたり、手数料を上乗せしたりして防衛しようとする。極めて当たり前のことである。

さらにはマサ佐藤氏が指摘するように「じゃあ、その値段と数量でやるから生地や縫製の品質は落とすよ」という事態になる。

 

製造原価率や仕入れ原価率を引き下げようとするのは決して悪ではない。商売とは安く作って(仕入れて)高く売るのが原則である。

しかし、数値管理に異常にこだわって捌ききれない量のミニマムロットを発注し、売れ残りを値下げして投げ売りすることは逆に利益率を削ることになっている。それが今のアパレルの「バーゲン依存体質」の理由の一つでもある。

 

完全受注生産とかサステイナブルな素材wwwとかそんな付け焼刃の対応ではなく、自社・自ブランドが売り切れる数量だけをミニマムロットに達しなくても生産・仕入れすることをまず考えるべきだろう。多少、製造原価率や仕入れ原価率が高くなったとしても、バーゲン値引きが減れば、売上高は下がったとしても利益率は現状維持ないしは好転する。

安易なAI導入とかネット通販強化とかでは問題は何も解決しない。

 

 

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