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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルのネット通販売上高は現時点では実店舗の落ち込みを完全に補完できない

2020年6月4日 トレンド 1

世の中のミーハーに属する人たちは、アパレルのネット通販事業に対して過剰に期待しすぎ、成長を過信しすぎなんじゃないかと思う。

上場アパレルの4月度・5月度の月次売上速報は惨憺たる結果だった。

別に個々の企業がサボってだらしなかったわけではない。最大の理由は、新型コロナによる全国的な店舗休業である。店をオープンしていれば、1日に1000円くらいは売上高が稼げるが、閉店したままでは売上高はゼロである。

営業時間短縮が始まった3月度、休業が始まった4月度、休業が続いた5月度の売上高が大幅に前年割れすることは当然である。

前年対比何十%減という数字が出るのは当たり前だった。

 

今回ばかりは誰が悪いわけでもない。新型コロナが悪いのである。

 

いろいろな方が月次売上速報をツイートしておられたが、そうするとそのツイートに対して「ここにはEC売上高が含まれていない」と主張する業界外の人が見受けられた。

いやいや、EC売上高が含まれてその数字なんですよ。

EC売上高が含まれていなかったらもっと低い数字なんですよ。

ということを理解していない人が少なくない印象を受けた。

 

例えば、先日発表された国内ユニクロの5月度売上高速報だが、既存店売上高が18・1%減と発表されている。

過剰なEC信者には残念なお知らせだが、EC売上高を含めてこの数字なのである。それはどこででも明言されている。

一例として流通ニュースから引用しようか。

ユニクロ/5月の既存店売上は休業・販促中止響き18.1%減、ECは好調

既存店(711店)とEコマースの売上高18.1%減、客数31.3%減、客単価19.1%増となった。

とある。

Eコマースと合わせても売上高は18%減なのである。

 

一方で

 

また、Eコマースの販売は前年を大幅に上回り好調に推移している。

 

とあるから、EC売上高は伸びているが、実店舗の減収を完全にはカバーできなかったというのが実態であると、普通の知能がある人なら理解できる。

ちなみに、国内アパレルブランドで最大のEC売上高を誇るのがこのユニクロで、コロナがなければ2020年8月期の見通しではEC売上高は1000億円を越える予定だった。

単一ブランドでしかも自社サイトだけでこのEC売上高というのはすさまじい。

 

以前にも書いているが、オンワードやユナイテッドアローズもEC成功組みと言われているが、あの売上高は全ブランド合計されたものであり、単一ブランドでは売上高100億円に遠く及ばない。組曲も23区もICBもその他有象無象も合わせて300億円規模である。

ユニクロ規模のEC売上高があっても実店舗の休業を完全に穴埋めすることはできないのだから、それ以下のアパレルはEC売上高がいくら伸びていようが、実店舗休業を穴埋めすることなど到底不可能なのである。今のところは。

例えば、ワールドの5月月次速報を見てみようか。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3612/tdnet/1843671/00.pdf

5月度は国内既存店売上高は71・8%減である。一方、EC売上高は39・2%増である。ECが4割も伸びたにもかかわらず、国内小売売上高は61・5%減に終わっている。

ECがどれほど大幅に伸びようが、現時点では焼け石に水だということがわかる。

 

シャレオツなアパレル業界人やコンサルのエラい先生方がお好きなユナイテッドアローズの5月度を見てみよう。

https://www.united-arrows.co.jp/ir/monthly/index.html

ネット通販既存店は前年比48・4%増である。ほぼ1・5倍に増えたということである。

にもかかわらず、小売既存店(ネット通販既存店含む)売上高は46・2%減に終わった。

ということは、実店舗の比重が如何に大きいかということである。

とはいえ、ユナイテッドアローズは都心店、都心商業施設、郊外大型ショッピングセンターへの出店が中心だったため、4月末にはアウトレット1店舗だけしか稼働できていなかった。ECがなければもっとひどい落ち込みだったといえる。

 

しかし、ECの成功組みだと持て囃されているユナイテッドアローズでさえ、好調なECを含めても既存店売上高は前年より半減しているという点をネット通販信者は真剣に考えるべきである。

 

それにしても、アパレルのネット通販信者はどうしてネット通販なら「洋服がもっと売れる」「洋服の売れ行きが幾分か回復する」と過剰に信じているのだろう。不思議でならない。

仮にTシャツを3枚くらい買おうと思っていたとして、実店舗なら3枚だけを買うが、ネット通販なら6枚買うなんて言う人はほとんどいない。

破格値に値下げされているのをウェブで見つけたから1枚買い足すとか、廃版品がネットにはあったから1枚追加するとか言う人はいるだろうが、「ネットだから2倍の数量を買うぞ」なんて考える人はいないだろう。いるとしたらごく少数のネット好きド変態である。

売上高というのは、客単価×購買数量だから、売上高を増やすためには、購買数量が増えなければ客単価を伸ばせばよいということに理論上はなる。

その場合、「ネット通販だから高額な服を買っちゃうよ」なんて言う人はほとんどいないだろう。高額な服こそ試着をしてから決めたいと思う人の方がマジョリティで、ネットで高額な服が売れるとするなら、

・実店舗で売り切れている

・実店舗では取り扱わない(ネット販売オンリー)

・実店舗が行ける距離にない、行きにくい場所にある

という場合だけだろう。

 

理論的に考えると、アパレルのネット通販は今後伸びる余地はあるが、実店舗は完全に駆逐されてネット通販のみになるとは思えない。せいぜい、実店舗とネットの売上比率が半々程度になるくらいではないかと思う。

ネッツ通販がそこまで成長すれば、その分実店舗売上高は減る。ネットで買った物をわざわざもう一度実店舗で買う人はほとんどいないからだ。

結局、仮にネット通販が大幅に伸びてもその分、実店舗売上高は減るから、全体の売上高はトントンが関の山だろう。

 

 

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 comment
  • ☆☆☆ より: 2020/06/07(日) 3:38 PM

    小売り屋のオヤジです。
    ユニクロだってアローズだって、実店舗が閉鎖中だからネットで買うしか方法が無いんだから、ネット部門の売上は増えて当然ですよね?ましてこの季節は季節はずれの高気温。コロナ渦がなけりゃ、店頭売上は結構順調だったでしょうね。おまけに各アパレルのネットでは、この時期にしては通常あまり見られないセールを行っていた。とにかく在庫を減らしたいのだから仕方ないと思うけど…
    逆に実店舗が閉鎖中なのに、ネットの売上が大きく伸びないアパレルは、今後も期待できないかもしれませんね。

    ところでSSや百貨店に入店しているアパレルの大半は、メーカー直営と言ってもたいがい地元の小売店が代行で販売を請け負っているところが多いと聞きます。2か月も店が休みになって経費面で頭を抱えている代行オーナーが多いと思いますよ。せめて販売手数料が最低保証を結んでいる事を祈ります。

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