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南充浩 オフィシャルブログ

「衣料品」も趣味の一つに過ぎないんじゃないの?

2020年6月2日 考察 2

アパレル業界の人は、アウトドア系の趣味を持っておられる方が少なくない。

キャンプだとかサーフィンだとか自転車だとか釣りだとか。

当方はアウトドアにはまったく興味がないので、傍観しているだけである。とはいえ、個人の趣味は自由なので、それを否定するつもりはない。

ただ、個人的に全く興味がないというだけである。

キャンプに行くよりは冷房の効いた部屋でゴロゴロしている方が性に合っている。

自転車で遠出する気もない。最寄り駅へ行くのと、スーパーに行くのと、ジョーシンに行くのに使えればそれでいい。

 

当方の趣味はガンプラである。

この道も究めようと思えばキリがない。昔はホビージャパンやモデルグラフィックスといった模型雑誌を読んでいたが、最近はYouTubeでガンプラ製作をいくつか見ている。

蛇足だが、YouTubeには各種趣味の動画が多数アップされていて、ひな壇芸人で雑談しているテレビのバラエティー番組よりよほど面白いので、テレビを観る時間があるなら、YouTubeで趣味の動画を観ている。

一昨年くらいから8リットルくらいのボトルでメダカを飼っているが、YouTubeにはアクアリウムの作り方とかメダカの飼い方なんていう動画もある。

それはさておき。

ガンプラだって全く興味のない人も多いだろう。

それは当方がアウトドアに興味がないのと同じである。

 

で、以前から書いているように、ファッションも「趣味の一つ」ではないかと思う。

ただ、一般的な趣味と異なり、暑さ寒さを凌ぐとか全裸では出歩けないとか、そういう必需品の要素も半分くらいは含んでいる。

だから、ガンプラやアウトドアなどの趣味とは異なり、全員が参加している(強制的に参加させられている)ため、その販売戦略は複雑化してしまうのだろうと思う。

一般的な通常の趣味なら、それが好きな人に向けてだけ打ち出すわけだから、ターゲットは限定されている。

もちろん、新規参加者を獲得しないとそのジャンルはいずれ消滅してしまうから、新規参加者獲得はどのジャンルにおいても必要不可欠だが、それでも獲得施策は絞り込みやすいと当方は思う。

 

一般的な趣味も使う道具や入り込む深さは人それぞれで、ガンプラも究めようと思えばすさまじい設備投資がいるし、アウトドアも同様である。

その一方で、安く浅く楽しむという人もいる。当方のガンプラなんて安く浅くである。アウトドアも同様だろう。

 

当方はファッション、洋服も同様ではないかと思っている。高額な一流ブランドを身に付けることを好む人もいれば、安い服で楽しむ、安い服で十分という人もいる。ましてや他の趣味のように興味のある人たちだけの集団ではなく、必需品として全員が着用するのだから、そういう「安い服で十分」と考える人が多数になってしまうのは仕方がない。

これが98年のユニクロブーム以前なら、「そうは言っても安い服は素材もシルエットも色・柄も高いブランド服とは全く異なる」という状況だったので、身なりに少しでも気を使う人は、高いブランド服を買わざるを得なかった。

だが、2005年以降、ユニクロを始めとする低価格ブランドの商品のデザインが高いブランド服にある程度まで追いついてくると、「安いユニクロでもいいだろう」と考える人が増えるのは当然ではないかと思う。

その後、低価格ブランドが増えて今に至るが、高額ブランドへの憧れというのはこんな当方にも多少は残っているが、それよりも「安い服でもけっこう楽しめる」という部分の方が大きいというのが現状である。

 

一流の高額な道具を揃えて、深く入り込んだ達人が、初心者や浅く楽しむ人を馬鹿にするのはどのジャンルの趣味にも普通にあるが、そういう言動というのは、外部にはあまり広がらない。なぜ広がらないかというと、やっぱり興味のない人は徹底的に興味がないからマス層はそれをあまり目にしないのだろうと思う。

 

衣料品の場合は、興味のない人でも嫌でも服を着用しなくてはならないから、マス層も様々な情報を断片的に取得する。当たり前だがガンプラや釣りよりは興味を持つ人の数が多い。

 

で、アパレル業界人や製造関係者、業界コンサルという人は、ファッションが趣味、衣料品が仕事という人ばかりである。趣味の人は当然、ガンプラや釣りの人と同じように入れ込むし、仕事と言う人は、コーディネイト云々というよりは、縫い目がどうのこのとか、素材の良し悪しがどうのこうのと口うるさくなる。

大して興味はないけど服を着ているマス層と、そういう人たちでは決定的に意見が乖離してしまうことは無理からぬことではないかと思う。

だから業界人や製造関係者の主張はマス層にはあまり届かない・響かないのではないかと思う。

 

ちょっと昔話をすると、20年くらい前はまだ結婚生活をしていて、ほぼ毎朝、子供を保育園に連れて行っていた。別に世にいうイクメンではない。世に言われるイクメンの10分の1程度しか育児はやっていない。よく夜遅くまで飲み歩くこともしていた。

で、保育園に行くと、同年配のお父さん方もいる。その時に驚いたのが、制服で勤務する仕事をするお父さんの中には「通勤・勤務は制服、自宅に帰ると寝間着代わりのスエット上下、それしか服を持っていない」という人が何人もいたということである。

その後、クールビズも始まったし、オフィスのカジュアル化も起きたし、新型コロナによるテレワークも始まり、もう少しカジュアル服の需要は増えたのかもしれない。

だが、よく考えてみると、制服勤務の人にとって、週に5日か6日は仕事なので洋服は制服と寝間着だけで十分で、1日か2日の休みのために何枚もカジュアル服をそろえる必要は全くない。せいぜい2セット、大型連休に備えて3セットあれば十分だ。

3セット以上にそろえるという人がいるなら、それはもう完全に「趣味の世界」ということになる。

 

何が言いたいのかというと、中価格~高価格帯のメンズカジュアルブランドは、売り上げ規模の拡大をむやみに追っても無駄であり、「少数の趣味集団」に向けて売って確実に利益を稼ぐという考え方で進めるべきではないか、ということである。

多くのメンズカジュアルブランドが苦しんでいるのは、そういう「趣味の商品」をマス層に広げようとしているからではないのか。

言ってみれば、ガンダムのプラモデルを、興味のないマス層にも作らせようとしているのと同じではないかと思う。興味のない人たちにヘラブナ釣りに行かせようとするのと同じではないか。

そしてこれはメンズカジュアルだけでなく、中価格~高価格のメンズドレス(平たく言うとスーツやワイシャツなど)も同様ではないかと思う。

 

マスに売りたいなら、マスに売れるような値段設定ややり方を追求するべきで、「趣味人の道楽」をマス層に広げようとするのは身の程知らずではないかと思う。

 

 

ヘラブナ釣り用の竿をどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2020/06/03(水) 7:46 PM

    百貨店ブランドは全体としてそれで失敗したものが多いように僕には思われる。
    ここ2,30年アパレル業界は米英トラッドから「イタリアものはお洒落」って方向に突き進もうとしてきた。でも今はもう百貨店にはイタリアブランドなんてほとんど残っていない。allegri も IL FARO もロロ・ピアーナもカナーリもない。池袋東武からはゼニアですらもうなくなった(アルマーニなどバブル前からあるものはまぁ別格として)。
    つまりフツーのおじさんは少なくとも百貨店で買った服で「ちょい悪オヤジ」なんてやりたかった訳ではないし,”クラシコイタリア” にも興味がない。峰竜太や武田修宏や堺正章のような格好がしたいなんて特に思っちゃいなかったのだ ...

    結果論かも知れないが,わざわざ異様なほど細く直した丈の短いインチキナポリ仕立て風ズボン穿いた販売員たちには僕はずっと「馬鹿じゃねーの」と思っていた。
    「真っ当な大人がそんな格好したがるもんかい」と。
    或いは「アズーロ・エ・マローネ/空色のスーツに茶色のネクタイなんて阿呆な格好する奴がどこにおるよ」などと。
    今となっては「言わんこっちゃない」「真似したい人は勝手にすればいい,といった程度のものを客に押しつけようなんてなあ…」と言いたい気分でいます。

  • 無印 より: 2020/06/06(土) 11:42 AM

    私は衣料品は趣味性が強ければ強いほどコスプレになると思います。

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