70代・80代向けの洋服ブランドは大規模には売れにくい
2020年5月29日 考察 3
2007年ごろからアパレル各社は、シルバー向けのブランド開発に注目してきた。
理由は2つある。
1、老人世代は総じて若者よりカネを持っている確率が高い
2、老人世代は団塊を中心に人口が多い
この2点である。
カネを持ってて人口が多いなら、そこに向けて商品を提供すれば売れると考えたくなるのも無理はない。
普通ならその考え方で物はある程度売れる。
しかし、人間には寿命というものがある。
人間は誰でも絶対に必ず死ぬ。そして老齢で死ぬ何年か前、何か月か前には身体機能が必ず衰える。
自分が50歳に到達してしまうと、残りの人生が短いことを痛感する。
10年間という時間は客観的に見ると長いが、実際この年齢になるとあっという間に過ぎる。40歳からの10年間は本当にあっという間だった。体感的な時間の過ぎ方が年々早くなっていく。恐らく残り30年もあっという間に過ぎて、気が付くと死の床についていることになるだろうと思う。もしかしたら気が付いたら死んでいるかもしれない。
人生100年時代なんて戯言をさらさら信じていないし、100歳まで生きたいとも思わない。
仮に100歳まで生きたところで、身動きが不自由なくできるのは、恐らく80歳までで、長くても80代後半までだろう。
当方の父方の祖父は94歳まで生きたし、母方の祖母も100歳まで生きたが、両人とも80代後半から目に見えて身体が衰えた。もちろん頭脳も。
そうなると、80代後半以降は、外出もあまりしなく(できなく)なったし、洋服を買うことも減った。ちなみに2人とも年金額は多かった部類に入る。
カネを持っていても、確実に服は買わないようになる。
50歳の当方とて、今はまだ後30年くらいは動けるつもりでいるから、洋服を買おうという意欲はまだある。
しかし、70歳、75歳になったときに後10年、後5年と思ったときに洋服をたくさん買う気になるだろうか。自分で想像してみるが恐らくそんな意欲は薄れているだろうと思う。ましてや高額な洋服なんて後5年も着用できるかどうかわからないのにもったいなくて買う気にもならない。
以前、ある洋服メーカーの社長が「うちの顧客層は70代・80代になってさっぱり売れなくなってきた」と仰っていたことがある。
もともと年配ミセス向けのブランドだったのが、だんだん顧客が年を取ってそういう年代になったそうである。国産メーカーだったから商品価格はそれなりに高い。だいたい1万円台後半~3万円くらいである。
70代・80代になると、60代までそういう服を買っていた年配ミセスも買い控えるようになる傾向が強いといえる。
理由は先ほど書いた通りだろう。
後5年くらいだと考えると3万円のセーターなんてもったいなくて買いにくいということである。
今年で63歳になった業界の先輩と先日お会いした。
先輩はその日、ダントンのギンガムチェックボタンダウンシャツを着ておられた。トラッドベースのカジュアルがお好きで、センスの良い方だといえる。
そんな洋服好きな業界の先輩ですら「ここ10年か20年くらいはレナウンの服を買ったことがない」と仰っていた。
そうすると、レナウンという会社の主要顧客層は若くても65歳以上、下手をすると70代・80代だということになる。
統計データ上は70代・80代は若者よりカネを持っている率が高くて人口が多い。
だからレナウンの商品を含むシルバー世代ブランドが売れても不思議ではない。統計データ上は。
しかし、2007年からシニア向けのブランド開発に成功したアパレル企業は存在しない。理由は人間は必ず衰えて死ぬからである。
だから主要顧客層が70代・80代だと思われるレナウンは、いくら資本が代わろうが、外国企業に買われようが、業績がV字回復することはあり得ないし、今後も同じターゲットを狙い続けるなら、どれだけ資金が注入されようが業績が上向くことはない。
そう書いたところ、50代の業界の人が猛烈に噛みついてきたことがあった。
噛みつくのは構わない。論理的な議論であれば、こちらも拝聴する。
しかし、主観丸出しで「そんなことはないと思う」とか「老人世代には伸びしろがあると感じる」とかそんなことを言われてもまともに議論しようとは思わない。
挙句の果てに「ドゥクラッセがあるじゃないか」と言われても、ドゥクラッセの年商はどれほどあるのかという話である。
1~2年前の状況で、通販と店舗の両方の売上高を合わせて200億円くらいだと報道されている。
ドゥクラッセの顧客層は恐らく、商品を見ている限りは60代中心ではないかと思うが、70代・80代の顧客もいるだろう。しかし、売上高は200億円くらいにしかならないということで、レナウンの500億円台~600億円台という売上高を支えるのは厳しいだろうし、レナウンがさらなる売上高回復を目指すことはもっと難しいだろう。
もっと言ってしまえば「ドゥクラッセがあれば十分じゃないか、同業他社は要らない」という言い方もできる。
アパレル業界の人は、外部コンサルタントも含めて、主観と自分の好みが強すぎると個人的に感じる。
「好きなことを仕事にしている」からこそ余計そうなのではないかと思う。「自分の好きな物」と「売れる物・売れそうな物」の区別をすることが苦手な人が多いと感じる。
件の50代の業界の方もそうである。なるほど、ご自分はファッションがお好きで今でも買うのだろうし、60歳になっても70歳になっても買うのだろうと思うが、世の中の老人世代はそうではない方が主流である。では、マスに売るためには何をしなくてはならないのかという思考がほとんどない。
ご自分は訳の分からんイタリア高級ブランドが好きでもまったく構わない。しかし、自社・自ブランドの顧客の好みや買える値段帯はどれほどなのかということを客観的に把握しなくてはならないし、そこに向けた適切な商品を供給しなくてはビジネスにはならない。
「5000円くらいのベーシックカジュアルでいいや」と思っている顧客層に「3万円のイタリア工場で作ったナンタラカンタラが云々でセクシーでモードな高級ジャケットはいかがですか?」と提案したところで売れるはずもない。そういう「セクシーでモードな高級イタリアンジャケット」はご自分だけが趣味で着用して満足していればいいのである。
まあ、そんなわけでシルバー世代に向けたブランドが全く売れないとは思わないが、レナウンを立て直せるほどのビッグな市場になることは難しいだろうし、レナウンに限らず、他社が参入してもビッグブランドに育てるのは難しいだろう。小規模にやるならやり方次第では採算は取れるとは思うが。
そんなわけでドゥクラッセの商品をAmazonでどうぞ~
comment
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kde より: 2020/06/03(水) 8:58 AM
そういう輩がアパレル業界の上層部を占めていて、いくら数字が下がろうと他人事で数字を上げろとしか思えない。数字の上下にどんな購買層がいて、どんな従業員がどんな意図で企画し、どんな生産背景の面々が携わった商材なのかと考えが及ばない。その世代は好きなのにものづくりを学ばず、ものを売る(売れた)人達。元からパイの小さい服を商材にして、ビジネスを選択するべきではなかったんですよね。
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BOCONON より: 2020/06/03(水) 8:18 PM
中高年向きの服を売ろうという動きは30年以上前からあった。その手の雑誌や雑誌の特集も何回となく試みられてきた。でも残念ながら成功したものはなかった。
いまだ懲りずにそういう事をやろうとしている,というのは少々オドロキですね。まあファッション誌の中には明らかにオジサン以上の年齢向きのものも本屋に行くと並んでいる。しかしああいうのは「広告で成り立っているから別に売れなくてもいい」雑誌のようにしか僕には見えませんね。
そうでもないのかな?
筆者様のご意見 ごもっともですね
どうして現実を見られないのでしょうか
確かに仕立てのいいスーツを着るのは気持ちがいい世代もいます
でも
あべのキューズモールのユニクロでは
感動シリーズの上下のセットを 夫婦で真剣に選ぶ世代が確実に増えているわけで
そういう現実を見ずに
「本物を知らない人生を送るとは…かわいそうだ」
とでも言いたいのでしょうかね 滑稽を乗り過ごして 哀れまで行ってますね
50代と言えば 初老ではあるものの 現役世代ではと思いますがけども
かつて 梅田の百貨店の社員食堂の仕事をしていたとき
売り場では着飾った人たちが 安い定食を貪り食っているのを見たとき(悪いわけではないです)
おしゃれに気を使うの大変なのね…頑張ってね と思ったものです