価格設定と販売数量目標の設定についての基本的なお話
2020年5月26日 ジーンズ 0
「ブランドを立ち上げたいんですよ」
という人とお会いすることがたまにある。当方に相談されても具体的なノウハウはナッシングである。
当方から出る言葉は「あまりお勧めしませんけど」という消極的なものがほとんどであり、何故かというと、その理由は当方が独立して成功していないため成功したイメージを伝えられないからである。
それでもブランドを立ち上げる人は初めから結論が決まっているわけだから、当方に相談する意味はあまりないと思う。
で、ブランドを立ち上げたからには売れないと話にならない。
売らないことにはお金が入ってこない。自分が生活できないことは当然だし、来シーズンの商品さえ作ることはできない。
それでも話を聞いていると、値段設定をいい加減にしている人は少なくない。
もちろん、立ち上げる前に「どれくらいの価格なら売れるのか」というのは掴みにくいから、願望が入ることは仕方がない。
とはいえ、値段設定というのは、客層やターゲット、ひいては販売数量目標をも決めてしまう重要な一つの要素であるから、願望だけで決めるのは危険である。
よく分からない願望で「5万円くらいで売れたらいいなあ」みたいな人を過去に何人かお見けしたことがあるが、5万円で売るとすると、どれくらいの数量を売るつもりだろうか?その数量によって年商規模は決まる。
売上高=購買客数×客単価
でしかない。
何か月か前からブルーモンスタークロージング(BMC)というワークカジュアルジーンズブランドのサイトで毎月1本記事を書いている。
今月はこれである。
https://www.bmc-tokyo.com/journal/6576/
いつもと雰囲気が違うと言われそうだが、一応、23年間くらいライターをやっているのでこれくらいの書き分けはできるようになる。
自分でも「まるでスタッフが書いたかのようでキモっ」と思ってしまう。
自分の記事を紹介したいわけではなく、ここのサイトで社長の青野氏がブランド立ち上げ時を振り返って連載している。
これがなかなかリアルで興味深い。
特に、価格設定と販売数量目標の組み立て方はこれからブランドを立ち上げたいという人には参考になるのではないかと思うので、ぜひ読んでみていただきたい。
現在第7回まで更新されている。【 激白!ゼロからのアパレルブランドとお金の話 】シリーズである。
全部を紹介しているとキリがないので、取り合えず重要な箇所から紹介していく。
なんやかんやで年間売上高3052万8000円が必要になるということを割り出したところから始める。
(年間販売点数)
1:販売価格 40,000円 → 卸売価格 20,000円
→→ 年間売上高 3052万8千円 ÷ 卸売価格 20,000円 = 年間販売点数 1,526本(月間販売点数 127本)2:販売価格 20,000円 → 卸売価格 10,000円
→ → 年間売上高 3052万8千円 ÷ 卸売価格 10,000円 = 年間販売点数 3,052本(月間販売点数 254本)3:販売価格 10,000円 → 卸売価格 5,000円
→ → 年間売上高 3052万8千円 ÷ 卸売価格 5,000円 = 年間販売点数 6,105本(月間販売点数 508本)4:販売価格 5,000円 → 卸売価格 2,500円
→ → 年間売上高 3052万8千円 ÷ 卸売価格 2,500円 = 年間販売点数 12,211本(月間販売点数 1017本)
とまず、こんな感じで、販売価格を4種類くらい考えてそこから販売数量を割り出す。結果的に3で模索することになるが、例えば、年間販売数量が6105本とあるが、この数字だけを見ると気が遠くなる。とくにこれからブランドを立ち上げるということは、売り先がゼロなので、いきなり6100本を売るというのは雲をつかむような話といえる。
しかし、それを12で割ると1ヶ月508本を売るということになると、何となく到達可能な感じがする。
で、まあ、その後、なんやかんやでこのターゲットは修正されて、
https://www.bmc-tokyo.com/journal/6298/
(新ターゲット数値)
*卸売価格 : 3,615円(店頭販売価格 7,000円、掛け率52%)
*年間販売点数 : 8,722本(月間販売点数 726本)
*卸売年間売上高 : 3153万円
*年間経費 : (仮)763万2千円
*年間配送料 : 100万円
*粗利率 : 27.4% = 863万2千円
に落ち着くことになる。
年間販売点数:8,722本(月間販売点数 726本)を達成するためには、ジーンズの平均的な回転率は2なので(春先と秋口によく売れる)、8722を3で割る。
年間販売点数:8,722本 ÷ 3回 = 2,907本/納品
となる。ようするに2907本を年間三回納品すれば達成できる。
で、1回に2907本納品を達成するためにはどれだけの店舗数へ卸すことが必要になるかというと、
45SKUを企画製造すると仮定すると、
2,907本 ÷ 45本 = 64.6店舗( = 65店舗 )
となり、65店舗の卸先を確保すれば実現可能だということがわかる。
取り引きをするということは、相手との関係性や提示された条件などを吟味する必要があるから、ホイホイと達成できるわけではないが、この当時はジーンズカジュアル店にターゲットを絞っていたわけで、例えば、ライトオンだけを例にとってみても全店舗数は500店くらいある。
そうすると、そのうち65店舗に卸すことは、数字上はそんなに難しくなさそうだということが分かる。マックハウスだと300店くらい。じゃあ、ライトオン40店とマックハウス25店に卸すというふうに割り振ってみると、これまたそんなに難しい数字ではないことが理解できるのではないだろうかと思う。
長々と書いてきたが、こういう感じで価格設定と販売目標数値を決めて、あとは実行するだけである。
例えば、「安い服は許せない」という小規模デザイナーブランドは珍しくないが、じゃあ、そのブランドの年間平均客単価を5万円だと仮に設定すると、1000人の顧客がいてやっと売上高は5000万円ということになる。(直販の場合)
しかし、この5000万円には製造費、各種経費が含まれているから、営業利益として手元に残るのはほとんどない。1万人の顧客がいれば年間売上高5億円ということになって、こうなると、小なりといえどいっぱしのブランドで経費コントロールさえ間違えなければそれなりの営業利益を残すことができるだろう。
ただし、1万人の顧客というのは並大抵では到達できないから、じゃあ、顧客数の目標は2000~3000人というところが妥当ではないかと思う。この顧客数なら売上高は1億~1億5000万円ということになり、自分一人+アルバイト数人ならそれなりに普通の生活ができるはずである。計算上では。
「自分でブランドやりたいんすよ~」
と言っている若い人たちはこれくらいの計算はされているのだろうか?もちろん、されている人もお見かけしたが、まったく無策だった人も少なくなかった。
しかし、このくらいの計算ができなければ、ビギナーズラックで売れたとしても長くは続かない。「それなりに著名なあのブランドが突然潰れた?」なんてことも珍しくないが、その多くは計算もなかったビギナーズラックブランドだったのではないかと思われてならない。
そんなわけでBMCの商品をAmazonでどうぞ~