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南充浩 オフィシャルブログ

オーミケンシの繊維事業撤退で国産レーヨン生産に大衝撃

2020年5月15日 企業研究 1

このブログにはだいたい毎日平均すると3000人くらいのアクセスがある。

更新しない日は2000人前後、何かの拍子でバズると1万人前後になる。

バズった日はさておき、この2000~3000人というのがコアな読者層だと思うが、このうちの何割かが繊維の製造加工業者または、それに詳しい人である。

そういう人たちにとっては当たり前のことを今日はまとめるのだが、そうではない人たちも何割かがいるので、今回の内容は詳しくない人たち向けということになる。

 

先日、オーミケンシが繊維事業から撤退というニュースが流れてなんとも言えないほど驚いた。

 

オーミケンシ レーヨンなど繊維事業から撤退

https://senken.co.jp/posts/omikenshi-fiber-200513

 

オーミケンシは13日の取締役会で事業再構築策を決議し、レーヨンわた・糸の生産および関連事業、テキスタイル事業を不採算部門として撤退する。いずれも6月末から順次とりかかり、9月末をめどとする計画。

 

一方、継続する事業分野は不動産賃貸事業、環境問題に対応する研究開発、ホームファニシング・化粧品事業、食品事業、ソフトウェア開発。とりわけ環境問題に対応する研究開発には、今後3年間で総額10億円を投じる。

 

とある。オーミケンシは要するに繊維関係の事業から完全撤退するということである。

これだけならよくある不採算の繊維事業撤退で珍しくもなんともない。繊維事業が不採算になっている会社は少なくない。

しかし、オーミケンシの決算内容を見ると印象が変わるだろう。

 

2020年3月期のオーミケンシの連結決算は

売上高90億2600万円(前期比7・4%減)

営業損失2億700万円

経常損失4億7300万円

当期損失23億6700万円

となっている。これだけなら普通の減収赤字会社である。

 

しかし、売上高90億円のうち、繊維事業はいくら不採算だといっても、売上高が70億2200万円もあり、8割弱を占める基幹産業である。

この8割弱の売上高を手放そうというわけだから、凄まじい話である。

だから、繊研新聞の先ほどの記事でも今後の決算見通しで2022年3月期の売上高は28億円まで縮小しているというわけである。

 

このニュースに関して、製造に詳しいアパレル業界人は大きな驚きを表したが、どうしてだかお分かりだろうか。

念のために書いておくと、製造に詳しくないアパレル業界人を責めているのではない。多分、詳しくないアパレル業界人だとオーミケンシの繊維事業なんてあまり大したことではないと感じられるのではないかと思うからだ。

 

実は売上高の割にはオーミケンシは繊維業界において重要な役割を果たしていた。

それが端的にまとめられているのが繊維ニュースであり、こういう報道はさすがは繊維ニュースだと感じる。

 

どうなる?国産レーヨン 国際競争さらに激化か

オーミケンシは13日、2020年9月末までにレーヨン短繊維・紡績糸の生産とテキスタイル事業から撤退すると発表した。国産レーヨンの生産はこれまで同社とダイワボウレーヨンの2社体制だったが、その一角が撤退することから業界に激震が走る。国産レーヨンの供給が減少することで市場でのプレゼンスを失い、輸入わたとの国際競争が一段と激化する懸念も出てきた。

とある。

とくに刮目してもらいたいのは

国産レーヨンの生産はこれまで同社とダイワボウレーヨンの2社体制だったが、

という箇所である。

国産のレーヨンはダイワボウレーヨンとオーミケンシの2社のみが生産していたということでそのうちの1社がなくなるのだから、これは大変な衝撃だといえる。

もっとも、需要が減っているのだからこれも仕方がないという部分もあるが、効率化のみで海外品に頼りすぎる危険性は、今回の新型コロナによるマスク不足でも実証されたのではないかと思う。

国産のレーヨンが来年以降どうなるのか、注目してみたい。

 

ここからは当方の思い出話になる。

オーミケンシという会社は業界紙に入社した当時、研修で3カ月間くらい担当したことがある。3カ月くらいしか担当していないが、入社した97年、オーミケンシには「クラビオン」という機能性素材の取材で足しげく通わされた(上司の指示で)。

そのため、強く印象に残っている。

クラビオンというのは、カニやエビの甲羅の主成分であるキチンキトサンから作られたもので、肌荒れや乾燥肌に効き目があるといわれている。

で、今回、オーミケンシの会社沿革を見てみると、95年にクラビオンが開発され、97年に通産大臣賞を受賞している。当方が入社した97年当時は、クラビオンが最も盛り上がっていた時期だったということになる。

それを知ると、当時のオーミケンシ通いの指示も納得できてしまう。

 

また、オーミケンシは子会社にミカレディというレディースアパレルも持っていて、沿革によると昭和44年に分社化したとある。

中津寄りの梅田に茶屋町という地区があるが、そこにあるZARAの路面店は10何年前まではミカレディだったことを覚えている。

 

オーミケンシは、元々の社名は近江絹絲で、沿革によると昭和43年(1968年)にカタカナに変更したとある。まあ、今から思うとあんまり意味がなかったように感じるが。

繊維業ばりばりの社名なのに、今年後半以降は繊維事業がなくなってしまうというのはなんだか変な感じがするが、過去にもそういう例はある。

例えばカネボウである。元々の社名は鐘淵紡績で、れっきとした紡績だった。そのうちに新規事業として開始した化粧品や食品の方が有名になって、当方が業界紙に入社した97年にはすでに繊維事業より化粧品の方が有名だったくらいになっていた。

それでも経営破綻するまでは、繊維事業も継続しており、何度も繊維事業、とくにワイシャツ向けの綿生地の取材に出向いたことを覚えている。

経営破綻してからカネボウとして残ったのは化粧品と食品だけになってしまい今に至っている。

 

規模は違うし経営も破綻していないが、オーミケンシも十年後とか二十年後には「昔、繊維をやっていた会社」と言われるようになるのだろうと思うと、初老のジジイはやっぱり少し寂しく感じてしまう。

まあ、そんなわけで国内繊維産業の陽はまた傾いたように感じられて仕方がない。

 

 

子供向けのクラビオンのタンクトップをどうぞ~

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 comment
  • 通りすがり より: 2020/05/18(月) 10:51 AM

    細かいですが、旧カネボウを受け継いだクラシエは漢方、食品、日用品(シャンプーなど)の3事業ですね。
    化粧品は花王の傘下になったので、名前は残ってますがあそこが今もカネボウかというと微妙な気もします。

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