「生産リードタイムの短縮」って具体的にどうやるつもりなの?
2020年5月12日 決算 4
株式公開をしているアパレルの決算発表に出席することが今でもたまにある。
業界紙記者をしているときは当たり前だがもっと多かった。決算発表時期というのは重なることが多いので、一人で数社の決算発表のハシゴをしている業界紙記者は珍しくない。
そんなわけで、決算発表の雰囲気というのはだいたいどこも同じで、十分に肌感覚として理解しているのだが、企業側から具体策を伴わない次期目標の発表というのがよくある。
例えば
「〇〇費を〇%削減します」
とか
「〇〇という指標を〇ポイント向上させます」
とか
そういう類である。
もちろん、その目標設定は間違っていなし、設定するのは自由だが、結局のところ「何をどうやって実現するの?」と疑問しか出てこない。
今の当方は、出席したとしてもどこの媒体に書くわけでもないし、末席に御情けで入場させてもらっているようなものだから、あえて手を挙げて質問をすることはない。
企業側も具体策はできれば隠しておきたいこともあるだろうということも理解できる。
で、よく聞いていると、それらしき具体策のアウトラインくらいを企業側が語っている場合もある。
で、後日、業界各紙に掲載されたその発表の記事を読んでみると、「〇〇費を〇%削減します」とか「〇〇という指標を〇ポイント向上させます」とか、という目標が具体策なしに掲載されている。
正直にいうとこの手の記事はまったく参考にならないと思って流し読みしている。
企業側が具体策を述べない場合は単なる目標希望に過ぎない。言うだけならタダというやつである。
一方、アウトラインだけでも企業側がボヤっと述べているのに、記事化されていないというのは媒体側の怠慢だろうと思う。
毎シーズン、そういう決算記事を定期的に見かけるが、この記事も同様である。
企業側が説明しなかったのか、媒体側が書かなかったのかはわからないが、具体策の伴わないスローガンだけ発表されても「実現できるといいですね~(棒)」という反応しかない。
https://www.wwdjapan.com/articles/1077575
3月期決算の結果だが、業績悪化は仕方がない。「コロナショックで」と説明されているが、新型コロナショックにひっかかったのは多く見積もっても2月と3月の2か月間だけなのにそこまで悪化するものなのだろうかと疑問を感じてしまうが(笑)。しかも2月はまだそこまでの休業や営業時短は発生していない。インバウンド客が目に見えて減り始めたくらいで、3月も大規模休業は発生せず、営業時短と週末休業くらいである。
それでここまで赤字になってしまうのだろうかと思わないでもないが、まあ、影響は確かにゼロではない。
秋冬の在庫削減も仕方がない。何せ4月の大規模休業で春物と夏物の一部はほとんど売れていない。売れていないから新商品を製造するわけにもいかない。だから秋冬物の在庫を圧縮するというのは当然だろうと思う。
実際に、このワールドに限らず、現時点で「秋冬物の発注がほとんどない」と言われている大手アパレルは何社もある。
当方が経営者でも秋冬の商品製造は慎重に抑えめに考える。
この記事で一番疑問を感じたのは以下の箇所である。
20-21年秋冬は在庫を圧縮する一方、消費者の需要に機敏に対応できる体制を整える。生産リードタイムの圧縮により、商品の企画から投入までのスピードを早める。
どうだろうか。極めて当たり前の対応を述べているだけに見えるが、具体策はまったくない。
ワールドが言及しなかったのか、媒体が書かなかったのかどちらかはわからないが。
で、「生産リードタイムの圧縮」って具体的にどうやるの?って話である。
どのブランドも生産のリードタイムは圧縮したくてたまらない。もちろん、個々のブランドやメーカー、工場ではそれなりの努力が続けられて今に至っているが、それでも一部の例外を除いて実現できていないのが実態である。
ワールドでいうなら90年代後半に打ち出したQR(クイックレスポンス)対応がそれであり、25年経過した今、わざわざ言及するということは、25年経過しても実現できなかったと言っているのに等しいだろう。
当方の生産に関する知識は製造加工業の方々と比べて圧倒的に乏しいが、生産のリードタイム短縮で具体的に思いつく方法は二つしかない。
1、工場またはその間に立っているOEM・ODM業者に過剰な圧力をかけて急かす
2、生地や部材をあらかじめ用意して積んでおいて、受注があればすぐに縫製できるようにしておく
である。
あ、あと「縫製工場やその人員を増やす」というのも付け加えることができる。
繊維・アパレルはアナログだと評されることが多いが、生地の製造機械にせよ、ミシンにせよ、自動化できる部分はほぼ自動化されている。自動化されていない部分は、鉄腕アトムのような自律型アンドロイドでも開発されないことには解消できない。
例えば、ミシン糸がなくなったら新しいミシン糸を保管場所から取ってきて付け替えるという作業は今の機械ではできない。
織機の糸がプツンと切れたらそれをつなぐなんていうことも今の機械ではできない。
で、生産リードタイム短縮のために3つの方法が考えられるが、今のワールドが縫製工場やその人員を増やすことはコストの増大につながるので考えられない。
生地や部材をあらかじめ用意して抱えて置くとは考えにくい。商社やOEM業者、工場に抱えさせることはできるかもしれないが。
一番考えられるのは「製造関係者を急かせる」くらいである。
また「デジタルを活用し、店頭在庫の消化や商品開発過程などのモニタリングも強化する」という一節もあるのだが、これって従来からあるPOSシステムと同じではないのだろうか。
結局のところ、25年前から提唱しているQR対応とPOSシステムの活用を言いなおしているだけにしか聞こえず、まあ、それが「基本」と言われれば基本なのだが、25年かかってもQR対応もPOSの有効活用もできなかったと言っているだけにしか聞こえないのは当方だけではないと思う。
comment
-
-
キム ゴンウ より: 2020/05/12(火) 12:04 PM
SPAですか?思えば持ち上げていましたね
「お客様が着たいと思う服を作るために FAは接客の中でニーズをつかみ
デザインに反映してもらう重要な仕事です。」
と聞いたことがあります。ほんとかな?
カットソーが流行ればカットソー チュニックがはやればチュニック
タグだけ変えて作られる服ばかりですからね
OLという絶滅危惧種から支持されていたブランドは厳しいでしょうね
細川俊之の渋~い声とともに 忘却の彼方に ラララ ワールド -
商社営業 より: 2020/05/15(金) 2:05 AM
リードタイムの短縮って意外と簡単ですよ。
生地・製品の発注日の厳守。
これが出来るだけで、全然違います。
出来ないアパレルが多いだけです。 -
Micky Yoshida より: 2020/05/19(火) 10:44 AM
ファストファッションの台頭、地球温暖化、デパートの衰退、ITの発達による情報のフラット化、ネット販売の台頭、国内製造の空洞化、これに予期せぬこのコロナ禍に因る新しい日常への以降、アパレル至難の時期だと思います。
別業界(金属加工業)のうちの会社は、この10年会で最悪の決算になりそう(というか確実になりますw)ですが、5月決算なので今から『新型コロナウィルスの影響で~』と社長が言い訳するのが目に見えてますわ。実際にはすでに2月まででも過去最大の大赤字だったんですがw
リードタイム短縮なんてのも、うちのバカ社長は良くお題目に掲げてますが、全く成果は出ないっすね。現場作業員目線では、繊維加工だと違うかもしれませんが、機械の段取り作業とかには短縮する余地は結構あると思いますよ。
例えば、量産品なら図面に過去のトラブル事例とか付けておけばミスも減るし、段取りに必要な事項を明記しておけば各作業員間で差が出にくくなったりしますし。ま、うちの工場はみんなバカだから何もやらないんですがw
たぶん、服飾系なんてのは職人気質な作業員が多くて作業が属人化してるトコも多いんじゃないっすかね?とはいっても、そういう人の作業内容を変えさせるのは、これまた職人気質で言うこと聞かないから大変だと思いますがw