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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルのネット通販が期待されたほどには伸びていない理由

2020年5月7日 ネット通販 0

今日、5月7日からは一部の店舗で営業再開がある。

個人的には新型コロナの感染者が、自粛期間中に少ないとかゼロの地域は段階的に営業再開すべきだと思っている。

この新型コロナによる実店舗の休業によって、各ブランドの商品の販路はネット通販にほぼ限られてきた。このため、改めてネット通販への取り組みの重要性を再認識した企業やブランドも増えたのではないかと思うが、何度もこのブログでも書いていたり、各氏が主張するように、ネット通販という販路自体、とくに衣料品は、実店舗の売上高減を完全に補填できるほどの規模ではないというのが実情である。

それを上手くまとめてある記事があるのでご紹介したい。

 

「ゾゾ頼み」再燃も、ZOZOが喜べない複雑な事情

https://toyokeizai.net/articles/-/348314

 

タイトルはいつものZOZO煽りでイマイチ興味を惹かれなかったが、衣料品のネット通販の実態をまとめてある部分はかなり冷静で的確だと感じた。

 

ゾゾタウンへ出店するアパレルの多くは新型コロナウイルスの影響で、都心を中心に3分の2程度の実店舗を閉めないといけない状況に追い込まれた。本来ならば春夏商品が定価で売れる商戦期に売り場を失ったアパレルから、在庫の消化依頼が急増しているようだ。

 

とある。実際に業界内の人からも「実店舗が稼働できないからZOZOへ在庫が集まっている」との証言もある。

実店舗が使えないなら、ネット通販しか売り先はなく、自社サイトかZOZOや楽天に代表されるモールか、Amazonへ出品するくらいしか手立てはないから当然予想された結果といえる。

で、記事中には各社の声が匿名で紹介されている。

 

「休業している実店舗の損失を自社ECでカバーするなんて無理。4月以降もECは大して伸びていない」。緊急事態宣言発令後、大半の店舗を休業しているSC(ショッピングセンター)向け中堅アパレルの幹部はため息をつく。SC系や百貨店系などジャンルを問わず、複数のアパレルからは「実店舗が閉まっても、自社ECの売り上げが想定ほど取れない」といった声が漏れ伝わってくる。

 

とある。たしかに営業時短が始まった3月にはEC売上高が伸びたブランドが多かったが、好調とされるブランドでも実店舗の落ち込みを完全にカバーできなかった。

また4月に入ってからは、さまざまな企業から「アパレルECが4月から伸び悩んでいる」という声も聞こえてくるようになり、こと洋服に関していえば、世間やメディアが思っているほどネット通販が伸びているわけではない場合が多い。

それでもAmazonや楽天だと配送の人手不足に陥ったり、商品が完売するケースも出ているが、それは衣料品ではなく、日用雑貨品や玩具(当方の好きなガンプラも含む)、ゲームソフト、書籍、食料品、飲料などの商品が牽引していると考えられる。

余談になるが、ゴールデンウィーク直前に営業しているジュンク堂書店に昼間に出かけてみたが、間隔を開けてレジに並んでいることを差し引いてもこれまでちょっと見たことがないほどにレジに長蛇の列ができていた。

本でも買おうかと思ったが、その列の長さに買うのをやめてしまった。

見ていると、多くの人は連休中に外出せずに読むためだろう。1冊ではなく、3~5冊くらいの本を抱えている。

休業している書店も多いから、ネットでも書籍は同じように売れているのではないかと思った次第である。

 

衣料品はこうした「自宅で楽しめる物」に比べると、需要が伸びにくいと感じる。記事でも以下のように指摘してる。

 

もともと多くのアパレル企業の売上高に占めるEC比率は1~2割程度。大半の売り上げは実店舗で稼いでいただけに、ECが多少伸びても実店舗の売り上げ喪失分を補填することは難しい。さらに、4月以降は在宅勤務や「ステイホーム」の風潮が一層広まり、外出する機会も激減した。新しい服を着ていく場面がなくなれば、ファッションの需要自体も大幅な減少が避けられない。

 

1ヶ月前後、ひどければ2か月くらい自宅待機が続くわけで、そうなると、テレワークで仕事をすると言っても、ジャケットやコート、ブルゾンなどの単価が高い重衣料は着用する人が少ない。少ないから売れにくいということになる。

どうしても着用していて楽な、シャツ類、カットソー類、早春ならセーター、スエット類などしか着用しない人が増える。当方だって自宅で仕事をするのにスーツ上下は着用しない。また自宅内でジージャンやそれに類した「硬いブルゾン」も着用しない。

そうなると、やっぱり新規の洋服需要は起きにくいということになる。

実際に当方も4月の非常事態宣言以降、月末までいつもより多めに服とスニーカーをネット通販と営業している実店舗で買ってみた。とはいってもいつもの投げ売り品ばかりである。

正直に告白すると、恐らく、服だけで2万円分くらい買った。枚数でいうと20枚強だろうか。半袖Tシャツは1枚だけであとは長袖シャツ、春用コート、ズボンなどの春物だが、これだけ買うともう欲しいものがなくなってしまい、5月に入ってからは何も買っていない。

多分、多くの人も同様の感じなのではないかと思う。

1シーズンで着用できる服なんて枚数的に限りがあるから、それを手に入れた時点で購買意欲は薄れる。保管場所と収入が無限なら「とりあえずあれも買っておこう」と言う気になるのかもしれないが、そんな貴族は存在数が極少だろう。

だから、4月以降は衣料品のEC売上高は息切れするということになるのだろうし、5月はさらに低下するのではないかと思う。

 

そして、この記事では実店舗がないとEC売上高も伸び悩む衣料品特有の事情にも言及している。

 

また、サイズ感や着心地が重視される衣料品については、実店舗で試着や素材感のチェックをした後にECで購入する、あるいは商品情報をECで事前チェックした後に実店舗で最終確認して購入する消費者も多い。

アパレル側も消費者の購買行動に寄り添うかたちで、店舗別の在庫状況の表示や試着予約などのサイト機能を充実させてきた。実店舗の休業は、こうした店舗との連携を前提としていたアパレルが運営するECにも大打撃となった。

 

IT業界系やコンサルなんかはこの視点が欠けている場合が多いのではないかと当方には感じられる。

在庫処分場としての期待が集まっているZOZOの4月取扱高はかなり伸びるのではないかと業界では考えられているが記事では

 

ゾゾタウンの4月の商品取扱高は公表されていないが、ZOZOの広報担当者は「外出自粛によりECに追い風がある点ではポジティブだが、巣ごもりに伴うファッション需要の減退はネガティブであり、両影響が相殺し合っている」と話す。出店するアパレル企業の幹部も「ゾゾタウンでの売り上げは、それほど伸びていない」と肩を落とす。

 

とあり、過剰な期待を寄せることは却って各社の業績を悪化させるといえる。

もちろん、ネット通販への取り組みは重要であることは言うまでもない。しかし、ネット通販に詳しくないアパレル経営者ほどネット通販を「何でも解決してくれる『魔法の杖』」かのように考えているふしが話していると見受けられるが、そんな美味しい話はこの世には存在しないということである。

 

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