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南充浩 オフィシャルブログ

呉服屋系百貨店と電鉄系百貨店

2020年5月1日 百貨店 0

コロナショックで休業や自宅勤務が多いので、明日からゴールデンウィークだと言われても何だかピンとこない。収入面はさておき、ずっと休みが続いているような気にさえなっている方も多いのではないかと思うがどうだろうか。

 

前回に引き続き「百貨店・デパート興亡史」(イースト新書)から。

 

このブログで何年か前に書いた記憶があるのだが、20年くらい前のこと、お祝いをもらった返礼で阪急百貨店うめだ本店でネクタイを買ってきたところ、母親に叱られたことがあった。

2000年頃のことである。

叱られた理由は

 

返礼なのに阪急みたいな格下の百貨店で買うなんて常識がない。返礼は髙島屋や大丸で買うべき

 

である。

どうだろうか?お若い方々はこの理由がお分かりになるだろうか?

当方もよくわからなかった。(笑)違いがあるとすると阪急は電鉄系で、髙島屋や大丸は呉服屋がルーツという点である。

母が生きていれば今年77歳になるから、今の70代以上の世代にはどうやら「電鉄系百貨店は呉服系百貨店より格下」という認識があるようだ。

そういう認識があることは把握したがイマイチ理解できない。

関西の現在の電鉄系でいえばたしかに京阪百貨店はパっとしない。阪神も地下の食品以外はモサっとした感じがある。近鉄も何だか庶民的である。

阪急は、伊勢丹新宿には何歩か譲るとしてもファッション系ではそれなりのステイタスがあり、とりわけ衣料品業界だと「腐っても鯛」みたいな印象がある。20年前の当方もそのような認識をすでに阪急に対して持っていた。

まさか阪急で買って来たネクタイをなじられるとは思いもよらなかった。(笑)

で、ここからが本題になるが、本書を読むと年配層がどうしてそういう認識を持っているのかが何となく推測することができた。

 

母親の母、要するに母方の祖母だが、一昨年100歳で亡くなった。祖母世代はそういう認識を持っていて、母親はそういう認識のもとに育てられた。

で、本書では

 

三越や高島屋、大丸など創業が古い呉服系百貨店は華族や士族などの上流階級を顧客としていた

 

というような意味のことが書かれてある。

当然、電鉄系百貨店が生まれたのは呉服系よりも新しい。なぜなら鉄道という物は明治維新以降でないと我が国には存在しないからである。

そうなると、電鉄系は比較的「新参者」ということになる。

 

で、特に阪急百貨店については

 

「大衆第一主義」の集大成として梅田駅に阪急百貨店を開業した。

(中略)

従来の高級百貨店としてではなく、より多くの人に親しまれる新しい百貨店を標榜。品ぞろえは一般雑貨や食料品、家具や玩具といった一般的な家庭で使う日用品が中心で、呉服も高級な物は取り扱わない方針だった。

 

とある。

 

要するに大衆向けの店としてスタートを切ったということである。

恐らく、祖母世代にはこの当時のイメージが色濃く残っており、その祖母に育てられた母もまたその価値観を共有していたのだろうと考えられる。

もちろん、物事というのは時代によって移り変わっていくものだが、大衆向けとして開業した阪急百貨店うめだ本店がその後、高級ファッションに強い店に変貌するとは、当時は想像もできなかっただろうから、面白いものである。

今、阪急百貨店うめだ本店を指して、「大衆向けの店」と感じる人はほとんどいないだろう。そりゃ中には誰でも買えるような低価格品もあるが、ジーユーやユニクロと同列と見なすような人は皆無だろう。

 

 

それはさておき。

こういうルーツはやっぱり知っておいて損はない。いつの時代でもそうだろうが、若い世代と年配層では物事の認識がまったく異なる場合がある。

社会生活を営む上で「そんなジジババとは交流しないぜ」なんていうわけにもいかないから、知っておくにこしたことはない。

 

で、この本を読むと今では「高級」と一括りにされて認識されている百貨店という業態だが、その出自やこれまでの変遷については各々異なるということがわかる。

特に、今では「高級」で一括りにされている百貨店にも開業当時の阪急のように「低価格」や「手の届く価格」に特化した店もあったということである。

 

今、アパレル業界では「低価格品の存在は怪しからん」みたいな主張をするグループがあるが、正直何がケシカランのかさっぱり理解できない。

なぜなら、今に限らず、いつの時代でもどこの国でも高級品があれば低価格品もある。

概して新参者や新規ブランドは、既存で知名度の高い高級品に対しては「低価格」や「良品低価格」と言った打ち出しで新規性をアピールするのは、衣料品に限らず飲食にしろ雑貨にしろ常套手段である。

それがケシカランというのなら、阪急百貨店うめだ本店のかつての開業すらもケシカランということになる。おわかりだろうか。

 

 

個人的には現在の衣料品業界が苦しんでいるのは、低価格品との差別化ができにくくなったというところだろうと思っており、それは全く解消される気配もないし、今後も解消されないだろう。

もっとも、本当に細部まで見比べれば違いは理解できる部分もあるが、果たしてその細部へのこだわりが必要なのかどうなのかという点は議論が分かれる。

ディテールにこだわるのも間違ってはいないが、こだわりが少ないのも間違いではない。

それぞれの価値観でしかないし、衣料品なんて所詮は道具に過ぎないのだから、それぞれの価値観で利用するなり楽しむなりすればよいことである。当方はそう思っている。

低価格品が登場するのは、どのジャンルにおいてもどの時代においても当たり前のことに過ぎない。

 

 

そんなわけで、百貨店のことにはあまり詳しくないという業界の若い人には入門書としてぜひご一読をお勧めしたい。

 

 

そんなわけでAmazonでこの本をどうぞ~

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