
衣料品や繊維のある程度の大量生産は必要不可欠
2020年4月22日 製造加工業 1
新型コロナの影響で、日米欧、先日までは中国でも商業施設の休業が続いているから、当然、物は売れない。
売れなくて苦しいのは小売店やブランドもそうだが、同様に縫製工場、生地工場、副資材工場、その他もろもろの工場も同様である。
物が売れないから作らない、作らないから工場やメーカーの受注はなくなる。しごく当たり前のことである。
中国の工場も随分と操業停止していたが、今は、東南アジアやバングラデシュなどの工場への受注キャンセルが続いており、そちらの方面での売上高減少も相当な額になりそうである。
で、工場側からすればキャンセルをしないでほしいということになるが、ブランド側からすれば、急なキャンセルは商道徳的にどうかと思うが、2~3カ月先のキャンセルはある意味、自衛策としては当然だろうと思う。
先日、某有名セレクトショップが、PDFの文書添付で納入業者へ一斉送信で4月の納品キャンセルを伝えてきたといわれている。そのタイミングが4月6日ごろだったので、これはいくらなんでも急すぎるということで猛反発を食らった。
その後の詳細は業者からは聞いていないが、業界内の噂だと「半額にするなら引き取る」という内容に変わったというが、半額ってどうやねん?という声も少なくない。
4月6日のタイミングで4月の納品はキャンセルというのはさすがにどうかと思うが、4月6日に6月の納品キャンセルくらいだとブランド側の立場なら自衛のためには致し方ないと外野からは見える。
周辺国工場の苦境が伝えられる中、日本のアパレル業界では、業界ではというよりSNS界隈では、と言った方が正確だろうか。
SNS界隈では「これを機会にアパレルの大量生産見直し機運が強まるだろう」とか「これを機会にアパレルの大量生産が近い将来なくなるだろう」という意見が飛び交っていて、その場合、ほとんどはその意見を「歓迎すべき意見」と見なす雰囲気なのだが、当方は個人的にはちょっと疑問を感じる。
どこの国でも構わないのだが、例えばバングラデシュでいうと、
最大の業界団体、BGMEA(バングラデシュ縫製品製造輸出業協会)によると、6日午後5時(現地時間)までに1115工場が操業を自粛。輸出オーダーのキャンセルは3億400万ドル、9億5200万ピースに上る。また219万人の労働者に影響が出ているとし、女性を中心に約400万人が就業する縫製業の停滞が社会や生活に影響を与えている。
https://senken.co.jp/posts/new-coronavirus-bangladesh-200408
とのことである。
この繊研新聞の記事は4月8日に掲載されたものだから、そこから時間の経過とともにさらに被害総額は拡大していると考えられる。
キャンセルが3億4000万ドルということは、日本円にすると370億円以上ということになる。(計算間違いをしていたのでご指摘があり修正しました)
縫製業では400万人に、その他、衣料品労働者219万人に影響が出ている。
で、この規模の数字を見た際、バングラデシュの苦境を救うには、大量生産の再開しかないと思う。
もちろん、バングラデシュも日本だけではなく、世界各国からの大量生産を引き受けていたわけだが、それら日本も含めた各国の大量生産が再開されないことには、400万人とか200万人とかの職を供給することは不可能である。
ベトナムやミャンマーなどアセアン諸国の繊維産業の苦境を伝える報道も業界新聞や経済紙では出始めていて、バングラデシュと似たり寄ったりという状況だが、それらの救済も大量生産の再開しかあり得ないだろうと個人的には思う。
高付加価値・高価格衣料を一カ月に500枚とか1000枚をちまちまと生産する程度では到底この規模の人たちに職を与えることはできない。
エシカル界隈とかサスティナブル界隈では、大量生産廃止論が主流であるように見えるが、周辺国の工場からするとそれらがなくなると何百万人が職を失うし、繊維産業の比率が高い国は経済自体が沈没してしまう。
我が国の衣料品流通総量でいえば、38億点中、半分近くが売れ残ると言われている。だから大量生産は廃止してしまえというのは疑問しか感じない。
それでも18億点くらいは値下げ販売も含めて売れているのだから、それくらいの量は作る必要があるということだし、それすら否定すればバングラデシュやアセアンなどの各国の経済を沈没させてしまう。
発展途上国は通常、軽工業化を進めて経済発展の端緒につく。軽工業の中でも繊維、食品あたりはいわば「鉄板メニュー」で、中国だってそこから発展したし、明治のころや敗戦直後の我が国も同様である。
ただし、繊維に過度に依存するのは危険だから、経済が発展すれば各国とも他の産業を育てる方針を取る。その際、ある程度見捨てられることになる繊維業界人からすれば「たまったものではない」ということになるが、繊維業界一本足打法だと何かが起きたときに今のバングラデシュのように国の存続自体が危険にさらされてしまう。
このため、ベトナムなんかは重化学工業やIT産業の育成に方針を切り替えて、補助金をそちらに多く出し始めているといわれているが、繊維業界人からすれば腹立たしいのかもしれないが、外野から見れば極めて賢明な判断だといえる。
一本足打法は良く言えば「選択と集中」だが、過度に選択と集中しすぎると、危機の時に脆いのは我が国にも例が掃いて捨てるほどある。
アホみたいに液晶テレビに選択と集中しすぎたシャープはどうなったか、百貨店に選択と集中しすぎた三陽商会は今どうなっているか、である。
国の産業も同様で、繊維に選択と集中しすぎるとどうなるかである。
そのあたりの戦略を「国策」といい、国が方向性を示すほかないし、各国ともそのように動いているし動いてきた。もちろん、確実に育成できるとは限らない博打みたいな要素もあるから外れる場合もあるが、それはそれで仕方のないことで、未知への判断がすべて的中するような超人はこの世の中には存在しない。
今の販売目標や今の生産数量の見直しは必要だろうが、大量生産の完全否定は、バングラデシュやアセアンの現状を見ると夢物語でしかないといえる。
3億4000万ドルということは、日本円にすると3500億円? 1ドル=108円で計算すると、3憶4000万ドル ×@108=367億円。