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南充浩 オフィシャルブログ

洋服の値段が上がらないのは供給が需要を上回っているから

2020年4月21日 考察 1

繊維・アパレル業界では20年くらい「服の値段が安すぎる」という嘆きが続いているのだが、嘆いているだけではどうしようもないし、変なムードを煽っての雰囲気作りもはっきり言って無駄である。

物の値段というのは、需要が供給を上回らないと値上がりしない。

供給が需要を下回れば物の値段は下がる。

 

バツイチになって6年半が経過したが、ほぼ毎日駅前のスーパーで買い物をしてから帰宅する。

6年半とは言わず、半年くらい毎日スーパーマーケットに通っていれば、ほとんどの食材の値段の相場や値段の上下動が飲み込める。

洪水や台風、地震などの天災があれば、何週間か何か月か後に食材の値段に跳ね返る。

それらが原因で不作になれば値上がりする。

今年は4月の2週目くらいから何故かキャベツの値段が跳ね上がっている。新型コロナの影響なのかどうかはわからないが、ちょうど非常事態宣言のあたりからキャベツの値段がいつもより50~80円くらいも値上がりしている。

逆に豊作になれば値段は下がる。

一方、キノコ類(松茸以外)やモヤシなど、完全に管理された施設で栽培されている食材はあまり値段が上下動しない。

 

一方、新型コロナ以降、マスクの値段は跳ね上がっている。

心斎橋筋商店街の各ドラッグストアでは50枚入りのパックが3500~3980円の値段で売られている。通常は600円前後なので約6倍に跳ね上がっているということになる。

これは別に高付加価値マスクが開発されたわけではないし、高機能マスクが開発されたわけでもなく、単なる需要過多によるものである。

また、マスクでいえば、個人経営的な某小規模なバッタ屋さんは、マスクの卸売りだけで2500万円もの売上高を稼いだというし、ネット通販を行っている個人業者はマスクのネット通販だけで8000万円も売上高を稼いだという。

粗利益が4割くらいあるとしてもこの人たちはもう今年、仕事をしなくてもいいんじゃないかと思う。

どうしてここまで売れたかというと、需要が供給をはるかに上回っているためで、別に彼らの売り方が巧みだったわけでもなく、ディスプレイが美しかったわけでもない。

彼らはマスク御殿でも建てるのだろうか。

 

他方で、供給過多になれば、どんなに必需品であっても価格は値下がりする。

例えば、原油価格である。

世界各国の活動がほぼ停止しているため、エネルギーの需要が減っており、原油が供給過多となって値崩れしている。

 

NY原油先物、史上初のマイナス コロナで供給過剰に

https://www.asahi.com/articles/ASN4P1T6PN4PUHBI002.html

 

週明け20日の米ニューヨーク商業取引所で、原油価格の指標となる米国産WTI原油の先物価格(5月物)が1バレル=マイナス37・63ドルと、史上初めてマイナス価格で取引を終えた。新型コロナウイルスを抑え込む対策で世界経済が停滞。エネルギー需要の急減で原油供給が過剰になっており、原油を貯蔵するスペースが限界に達しつつある。

 

とのことである。

外出自粛で各国とも家庭での電力使用量は上がっているだろうが、工場や施設などが止まっているため、エネルギーの総需要量は減っているというわけで、家庭での電力使用量なんていうのはたかが知れているということにもなる。

 

また、アパレル製品が世界的に売れていないから綿花相場も値崩れしていると、繊維ニュースの報道にもある。

 

洋服の値段だって、基本的にはこれらと同じだといえる。

需要より供給が多い、もしくは供給に比べて需要が少ないことが原因で洋服は値崩れする一方だということである。

 

当方はモヤシやブナシメジの銘柄やメーカー名にはまったくこだわらない。しかしこだわる人は食材にこだわる。

当方にはよく理解できないが「某社のモヤシは美味しいが某社は不味い」だとか「〇〇店のシメジは美味しいが、××店のシメジは不味い」という人も時々お見掛けする。

それは嗜好の部分なので、当方に押し付けること以外はどんな嗜好を持とうが個人の自由なので好きにすればいい。

 

個人的には洋服もこれと同じなのではないかと思っている。

例えば、紺×白のボーダー柄の長袖Tシャツで、奇抜すぎないアレンジでなければ、粗悪すぎる品質でなければ、「どこのブランドでも構わない」と考える人の方が、今はマス層だと感じる。

「××店のシメジ」と同様に「××ブランドのボーダー柄Tシャツ」にこだわる人の方が少数派だろう。だから、洋服の価格は上がらない。いくら業界のイシキタカイ系が煽ろうとも。

 

ユニクロの出現で洋服の値段が下がったというのは事実だが、ユニクロとて、欲しい人にとっては定価以上の値段で取引される。

メルカリでユニクロの人気品番は高い値段で取引される。特に廃版品や売り切れ品は定価を上回る値段で取引されることも珍しくない。

当方からすれば「ユニクロに定価以上支払うのはアホらしい」としか思えないのだが、欲しい人からすれば定価よりも上積みする価値があるということである。

 

とすると、洋服の値段を上げるには、どれだけの多くの人に「欲しい」と思わせられるかである。

商品デザインもそうだし、売り方、見せ方、宣伝の仕方にも工夫が必要だということになる。そこの工夫なくして、単に「物が安いことはおかしい」とアジテートしたところで何の意味もないし、そういう人たちだって、スーパーマーケットで値下げ処分された食材は喜んで買っているのである。値下げされた食材はOKで、値下げされた洋服は怪しからんという理屈はまったく理解不能である。どちらも同じ「商品」・「商材」に過ぎない。

洋服の値段を全般的に上げることは世界的にも不可能だから、個々のブランドがどれだけそういう需要を生み出すかしか自衛策はない。

 

とはいえ、逆に値段を釣り上げすぎても売るのは難しくなる。

あるフリーランサーの人が有名になるにつれてドンドンとギャラを値上げしていったが、ある限界金額を越えると、今度は「そこまで支払うゆとりが会社にはない」として仕事の依頼が減って行ったという。

値上げしすぎるのも問題があるということで、高ければ高いほどいいというわけではない。

 

各工場、各社、各ブランドは価格戦略を厳密に検討すべきで、売りたい価格で売るための方策を真剣に考えるべきだろう。ムードを煽るような販促だけでは実現は不可能である。

 

 

50枚入り2640円のマスクをAmazonでどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2020/04/21(火) 6:20 PM

    > 繊維・アパレル業界では20年くらい「服の値段が安すぎる」という嘆きが続いている

    こういう気持ちの人が普通にいるとするなら,アパレル業界というのは随分と浮世離れしているものですね。
    百貨店について言えば,バブルが弾けて以後「デパートの洋服って安くなってんの?」と聞いてきた人はいても「高くなったかも?」なんてヘンな事を言うシロウトは僕は見たことがない。当然の話で「”不景気な時にわざわざ値上げする” なんて奇怪な商売をする業界がどこにあるんじゃ?」と普通なら思いますよ,そりゃねw
    僕は「洋服というのは同じ型紙と同じ生地使って作れば誰でも同じものが出来る,というようなものではないから良いものが安くならないのは(中国製でもなんでも)致し方あるまい」と思っていますが,そういう価値観をフツーの客に求めても無理と云うもんである。量販店やツープラやSPAがはやるのもむべなるかな,であります。

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