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南充浩 オフィシャルブログ

自社に適正な売上規模を見極められない会社の共通点

2020年3月16日 企業研究 1

飲食業界のニュースだが、他の分野、もちろん繊維・衣料品にも通じると思うのでご紹介したい。

いきなり!ステーキ社長、「カンブリア」出演で”公開処刑された”と話題に すかいらーく創業者の「お客様目線」に称賛集まる

https://news.nicovideo.jp/watch/nw6820104

 

いきなり!ステーキ創業者の一瀬邦夫社長(ペッパーフードサービス)が3月12日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)に出演した。番組内では、すかいらーく創業者の横川竟(きわむ)氏も出演し、2人の経営観の違いがネット上で話題となった。

とのことである。

キモの部分は以下の2か所ではないかと思う。

まず、

 

また、一瀬社長は「自分の食べたいものをお客さんに売る。お客様が喜んでくれるに違いない」という考えが根底にある」という。一方で、横川氏は「自分が好きなものと、お客様が求めているものが同じならそれでいい」として

「僕は同じだと思っていなかったので。自分のおいしいものが相手も美味しいとは限らないという前提で、相手の口に合わせた味と素材の組み合わせをした。基本はお客が求めているものを売らない限り売れないです」
と持論を語った。

 

次いで、

 

他にも「いきなり!ステーキは意外と高い」という街の声に対し、一瀬社長は原価率から考えれば「決して高くない」と訴えたが、横川氏は
「肉以外の価値が少ないからと言っておきましょうか。要するに立って食べることに価値があるかと言うと、ない」
とこれまたバッサリ。言い方は穏やかだが、内容は厳しい。

 

とある。

最初の部分から見てみよう。

飲食物は必需品であるとともに嗜好品である。戦争や飢饉などの極限状態にある場合は別として、普段は嗜好性を基として飲み食いしている。この辺りは洋服も同じである。暑さ・寒さなどを防ぐために服を着るが、じゃあ何でもいいやというわけではなく、多くの人は嗜好性に合わせて服を選んでいる。何でもいいのなら一昔前の中国みたいに全員が人民服を着ていればよいのである。

だから、作り手側の好みと消費者の好みが必ずしも一致しない場合が多い。

洋服でいえば、ブランドにはコンセプトがありテイストがあり顧客ターゲットがある。そこに当てはまらない消費者の好みと、ブランドが提供する好みは自ずと異なる。

飲食も同様だろう。「あの店は美味い」という人もいれば、「なぜかあの店は好きではない」という人もいる。

 

では店として、ブランドとしてどちらを目指すのかということになる。

作り手側の好みと顧客の好みを一致させたいのであれば、自ずと中小規模のままで高利益を稼ぐという運営方法になる。

ユニクロやジーユーのように1ブランドだけで何千億円もの売上高を作ることは、マスに支持されなければ不可能なので、作り手側の好みに消費者が賛同してもらうという姿勢ではそれほどの売上高、売上枚数は稼げない。

当方は「いきなり!ステーキ」という店で食べたこともないし、今後食べたいとも思わないが、この店が急失速したのは運営方法と求める規模感が乖離しすぎていたのではないかと思う。

店の考え方は洋服でいうところの濃いテイストの中小ブランドなのに、規模感はユニクロ、ジーユー並みを目指した。そして昨年あたりに規模拡大の飽和点に達したというのが実態ではないか。

洋服業界でも似たようなケースを掃いて捨てるほど見る。

どう見ても少数の人間にしか支持されないデザイン、価格帯、ブランドコンセプト、テイストなのに、ユニクロ・ジーユー並みとは言わないが、数十億円とか100億円を目指してしまうブランドは本当にこれまでにも多かったし、今も多い。だから売れない。アパレル不況の原因の一つはこれではないかとさえ思う。

 

次の部分に移ろう。

これは本当に飲食店だけではなく、不振をかこっている製造加工業すべてに当てはまるのではないかと思う。

繊維・衣料品はもとより、それ以外の町工場すべてにである。

 

はっきり言えば「肉の原価率なんか知らんがな」である。洋服ブランドでもブランドコンセプトか免罪符かのように「原価率50%」とか口走る不振ブランドがあるが、そんなものはほとんど意味はない。

消費者は洋服も肉も原価率なんて知らない。もちろん、原価率が高いというのは「良い商品を割安で売っている可能性があるということはわかるが、それとても「可能性」でしかない。

もっと仕入れや製造を精査すればコストは下がるかもしれない。肉の原価の構造はわからないが、衣料品に関しては流通段階よりも製造加工段階に無駄が含まれていることが多い。

無駄が多いということは自然と原価率は高くなる。もしかして「原価率50%」を自慢しているブランドはそういう作り方をしている場合が多いのではないか。

 

そして、同じことを製造工場は自社ファクトリーブランドの立ち上げでやらかしてしまう。製造コストから積み上げて行ってン十万円とか数万円とかいう製品を市場にリリースしてしまう。

結果的にほとんど売れずに終わる。

そりゃそうである。ン十万円という価格なら有名ブランドと同等の価格だが、有名ブランドと無名の工場ブランドが同じ値段ならどちらを買うかと言われると、99・9%までが有名ブランドを買うというだろう。

ン十万円とか数万円の商品を発売した場合、競合はラグジュアリーも含めた有名ブランドになるということを理解していない工場が多すぎる。

15万円の気仙沼ニッティングがあるじゃないかと言われそうだが、あれはその価格で売るためにまずブランド確立を行った。そして、販売枚数は少ない。

ブランドを確立して高額商品を少数に売って利益率を高めるという方針なので、理に適っている。さらにいえば、あの価格帯ではマスには売れないから、当初からそれが分かっていて組み立てられた戦略方針だといえる。

良い物は高くても売れる、と工場の親爺連中は口をそろえるが、高くては売れにくいし、売れるとするなら、機能性も含め、使ってみて圧倒的に何かが違うということが体感できねばならない。その場合は口コミでジワジワと売れたり、買った人がリピーターになったりする。

それがなくて「この部分の処理が綺麗だから」とか「ここを曲げて加工するために一手間加えたから」とかそんな理由だけでは「高くて無名な商品」は売れない。

いきなり!ステーキも多分に工場の親爺気質を持ち合わせており、その姿勢のままで業態をマス化させるのは、端から構想自体が間違っていたのではないかと思う。

 

ついでにいうと、メディアが「いきなり!ステーキ」と「串カツ田中」を過剰に採りあげるのは、個人的には違和感がある。なぜなら、どちらも利用したことがない店だからだ。いきなりの方は、当方がそこまでステーキや焼き肉の類を食べたいと思わない人間なので、今後も利用することはない。

「串カツ田中」は「大阪伝統の味」とあるが、49年間関西で暮らしてきて、これまで「串カツ田中」なんて店を大阪で見たことがなかった。1度だけ2年前に入ったことがあるが、可もなく不可もなくという印象で、それなら大阪の地場にあるダルマなどの種々の串カツ屋に入った方がマシだと思う。そちらの方がよほど馴染みが深いし。

 

まあ、そんなわけで繊維・洋服業界も参考にできる部分が多いのではないかと思う。

 

 

そんな「いきなり!ステーキ」のオニオンソースをどうぞ~。ご興味があれば

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/03/16(月) 11:53 AM

    メルセデス・ベンツも90年代入るくらいまでは、「最高のモノを造る」ってな理念で、最高の設計で最高の材料で最高の製造、という感じで原価積み上げてって、最終的に利益乗せて販売価格決めてたらしいんですが、1995年のEクラス以降はそういう殿様商売は止めて他の車メーカーと同じになったようです。某車評論家は、そのEクラスを「地の底どころか海底まで沈んだ」とか評しましたが、結局ブランドが確立されてるベンツだと、少しくらい品質落ちても売れちゃうんですよね。さすがに10年くらいで品質は復活はして来たようですけど。

    「値決めは経営」とか京セラの稲盛和夫は言ってるようですが、ホント値段決めるのは難しいっす。うちの工場は凄いテキトーでダメダメです。ま、私も値段決めたりしてるんですが(笑

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