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南充浩 オフィシャルブログ

ファッションに「ビッグトレンド」が無くなったようにオッサンには感じられるという話

2020年3月3日 考察 1

このところ、何か月間か疎遠になっていた同年代の男性(要するにオッサン)の業界人数人とお会いした。

40代後半から50代前半という年齢である。

自分も含めて衣料品業界で25年以上働いてきた老兵たちだが、共通した見方というか感じ方があった。

それは「ファッションのビッグトレンドが見当たらない」という点で、メディアが強調するような「トレンドの移り変わりが早いというのは実感がわかない」というのが50歳前後のオッサンたちの正直な感想だった。

 

今回はそんな五十路のオッサンの感想なので、興味のない人は時間の無駄になるので読む必要はない。

 

個人的には、2015年頃から「ファッショントレンドの移り変わりが早い」という報道には疑問を感じるようになってきた。もしかすると細かいジャンルでは早い速度で移り変わっているのかもしれないが、マスにはならないので気が付きにくいのかもしれない。

2015年頃というのは、ビッグシルエット、ルーズシルエットが復活したころである。

80年代後半から90年代前半に流行したビッグシルエット、ルーズシルエットは、バブル崩壊以降急速に消えて行った。まあ、ダボダボのヒップホッパーはいたが、それ以外のジャンルでは姿を消していった。

世界的なファッショントレンドの潮流や背景は知らないが、日本だと、トラッドやドレス、ベーシックカジュアルでのビッグシルエット、ルーズシルエットは「バブルの象徴」としてそこから約30年間は忌避された。

ダボダボのヒップホッパーもいつの間にか姿を消していた。

 

で、その後、さまざまなファッショントレンドがリバイバルしたが、ビッグシルエットは復活しなかった。繰り返すが世界的なことは知らない。

だが、日本では「バブルの象徴」としてそのスタイルは忌避されていたと感じる。特に30代~50代にはその傾向が強かった。

2015年ごろ、ビッグシルエット、ルーズシルエットを取り入れたのはバブル期の記憶がない10代~20代の若い人だったのだろうと感じた。

 

2015年頃は、オッサンたる自分はビッグシルエットを再び着ようとは思わなかった。どう見ても、記憶の中にいるバブルのころのオッサンにしか見えなかったからだ。

しかし、ファッションというのは「見慣れる」という要素が大きくて、2~3年くらいするとビッグシルエットを「見慣れて」しまった。

おまけにすべてのブランドのサイズ感が少しずつ大きくなってるから、袖を通さないわけにはいかない。

ユニクロでさえ、2010年くらいと比べると1サイズか半サイズ大きくなっている。

で、見慣れた上に、必要に迫られて着用してみると、これまた「着慣れて」しまう。おまけに動きやすさというか着心地の良さという利便性があるから、「それも有りか」と思うようになってしまった。

 

またこれまで若者体型に向けて作られていたジーユーがだぼだぼになって着用できるようになったので、2017年からはジーユーでの購買比率が高まってしまった。(自分比)

さらに利便性でいえば、ネット通販で買っても「小さすぎて着られない」ということが減った。ビッグシルエットを買っておけば、大きすぎるということはあっても小さすぎて着られないということはない。

 

その一方で、依然としてスキニージーンズ、タイトトップスの人もいる。

若い人でもマスっぽい人、ファッション好きっぽい人は極端なダボダボは別としてルーズっぽいシルエットの人が多いが、繁華街でキャッチをやっているような人たちは何故かいまだに上下ともにピチピチである。

そういう人も街ではけっこう見かけるから、トレンドど真ん中ではないにせよ、「一つの着こなし」であり、かつてのビッグシルエットのように「古臭~」とは見えなくて1つのジャンルとして生息が許されている。

 

五十路のオッサンらには、今のファッションテイストは昔に比べて多様化しているように感じられる。

スポーツっぽい服装が好きな人はそれはそれで一つのジャンルとして確立されているし、繁華街のピチピチキャッチも一つのジャンルだし、ビッグシルエットはマス化している。また頑なにアメカジスタイルの人も見かけるが、それはそれで「そういう人」みたいな見え方をしている。

 

オッサンらが若い頃には「今の時代はこれしかダメ」みたいなビッグトレンドがあった。

それから外れると「すごくダサい」と感じられた。

それが今は無い。

 

そうなると、今までのような服の売れ方にはならない。

何せ、少し前の服を着ていても「古臭い」とは思われなくなるからだ。

 

先日、ビッグシルエットのコートを着た老婦人を接客した。

話を聞いてみると、30年くらい前に買ったコートだが、またビッグシルエットが流行っているからタンスから引っ張り出して着用したのだという。

すごくデカい肩パットが入っていたから、それは取り外したのだそうだが、それ以外は今っぽいシルエットなので言われてみないと30年前のコートだとはわからない。

 

こうなると、新しい服を買う必要がなくなる。

それをことさらにエシカルだ、サスティナブルだという気はない。個人的にはエシカルにもサスティナブルにも興味はないし共感も抱かない。

また「日本人の貧困ガー」とも言わない。買う必要が無ければ人間は金持ちでも買わないからだ。

 

自分も含めたオッサンら数人からすると「もう目新しい着こなしは無くなった」ように見えるのである。

今後もさまざまな着こなしがリバイバルすると思うが、それらはすべて「いつぞや見たアレ」という感じになるのだろうと思う。

 

そうなると、これまでのようにビッグトレンドに依存した洋服の売り方、作り方では通用しなくなっており、それが近年のアパレル不況の原因の一つではないかと思う。

それは活力が無くなったとかそういうことではなく、社会の成熟化ではないかと思う。

 

アパレル企業はそういう売り方、作り方を模索するほかなく、AI導入だとか、インフルエンサーとの契約だとか、ネット通販強化だとか、一足飛びに状況を好転させるような「魔法の杖」は存在しないことを強く認識すべきだろう。

 

 

ユナイテッドアスレの安いビッグシルエットTシャツをどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2020/04/03(金) 1:31 PM

    以下批判ではなく感想を少し。

    > 活力が無くなったとかそういうことではなく、社会の成熟化ではないかと思う

    成熟化もあるでしょうが・・・でもやっぱり活力はなくなっているとしか僕には思えない。全世界的に「多くの大企業は儲けが出ているのに従業員には還元せず,むしろ人件費を抑えようとしている」「利益還元されるのは株主,特に海外投資家ばかり」つまりは「もはや日本も韓国と同じ。僕ら貧乏人は当分ますます貧乏になるのが確定」みたいなものだから。
    実際特に男ものは(「それを言っちゃあおしめえよ」ですが)僕の住んでいるような地方都市では,フツーの男には事実上ユニクロやGU,あるいはライトオンしか選択肢がない。スーツも黒スーツだけみたいなもの。これでは “ファッション” も “トレンド” も何もありませんね。まことに惨憺たるものです。

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