洋服の製造加工工程は複雑怪奇で過度に多層化している
2020年2月19日 考察 1
D2Cの謳い文句として「中間業者を排除しているから割安で良品を提供できる」というものがあるが、若い人はともかくとして40代半ば以上の中高年層は、25年くらい前にも聞いたことのあるフレーズだなと感じるのではないかと思う。
そう、25年くらい前から盛り上がったSPA(製造小売り)化のときの謳い文句と同じである。
現在、国内で展開されている主なブランドのほとんどはSPA化している。SPAと一口に言っても、実際に自社が製造まである程度管理しているユニクロのようなブランドと、OEM(相手先のブランド名での製造請け負い)やODM(相手先のブランドをデザインから製造まで手掛ける)に丸投げしての調達、とに大きく分かれる。後者は厳密に言えばSPAではないといえるが、まあ、消費者から見ればどちらもSPAブランドに見える。
SPA化すれば、中間業者を排除でき、割安で良品が手に入ると25年前にも吹聴された。
で、その上、SPA化すれば粗利益率が高まるのでアパレルは高収益体質になりやすいとも吹聴された。
しかし、25年後の現在の状況はどうだろうか。確かに低価格品は手に入りやすくなった。が、いうほどの良品だろうか?決して悪品ではないと思うが。
また、アパレル各社は高収益体質になっただろうか?ワールドやオンワードなどの大手はリストラと直営店閉鎖を繰り返しているから、こちらは明らかにNOだったということが分かるだろう。
個人的にはあまたある今のD2Cブランドの多くは一部を除いて、何年か後には今のSPA事業のような状況に陥るのではないかと見ている。
SPA化熱が高まっていた当時は、問屋不要論や中間業者不要論が吹き上がっていたが、実際に問屋を排除してもアパレルは高収益体質にはならなかった。
理由は何故か?
それは製造段階が極度に多層化していたからである。この傾向は年数を経るごとにさらに進んでいて、今では製造段階に何重にも製造業者やエージェントが絡んでいて、各社のマージンが積み重なっている状態のブランドが数多くある。
今のSPAやD2Cがいくら問屋を排除しても割安にもならないし、高収益体質にもならないのは、流通段階の多層化が原因ではなく、製造加工段階の多層化が原因だといえる。
例えば一例を挙げると
河合拓さんの原稿にこのような一節がある。
https://diamond-rm.net/management/50084/
例えば200億円のアパレル企業(仕入れ額でいえば約100億円程度)でブランドは5つ、つまり一つのブランドの売上が20億円程度のアパレル企業のバリューチェーンのパターンの調査をしたことがあるが、その調達パターンは30以上におよび、そこに群がる下請け、孫請けなど、機能的価値のない企業も合わせると数千社に及んでいた。
商品を作るのに下請け、孫請けなどを合わせると数千社もあったというわけで、機能的価値のない企業というのは、恐らく、多くの会社に入り込んでいる怪しげな仲介業者や紹介業者などのことだろうと思う。
また、クレッジというアパレルの再建を手掛けらた星﨑尚彦社長も以前行ったインタビューの中で、
https://style-picks.com/archives/732
(当時のクレッジは)だいたい300業者くらいと取引をしていて、その300業者に連なる工場が1000くらいあったのです。
と述べておられる。
如何に製造加工段階が多層化しているかがわかるのではないかと思う。当たり前のことながら、階層が一つ積み重なるごとにそこにわずかながらでもマージンが発生し、それが何十・何百・何千と積み重なると何千円にもなり、商品価格を押し上げることになる。
先日、レリアンが下請け業者に不法返品していて公正取引委員会から指導されていたことが報道されたが、大口の下請け業者が反論するという珍しいことが起きた。
この10社は恐らくレリアンは大口の納入先だったのだろうと考えられ、いわゆる「直接の下請け業者」という位置づけではないかと思われる。違う言い方をすると「一次下請け」だろうか。
この下にさらに孫請け・曾孫請けの工場が多数存在する。
実際、この記事の中でも
われわれの下にさらに下請け業者があり、約800人が商品づくりにかかわっている。
と触れられている。
関係筋から当方が独自に聞いた話によると、今回訴えたのはこの「一次下請け」の10社ではなく、その下層にいる孫請け・曾孫請けの工場だったといわれている。また、公取が調査を開始したのは、最近のことではなく、2018年のことだったとのことで、公取自体は長い時間をかけて丹念に調査していたといえる。
個人的にはこの10社の反論は、長年大口の取引先だったレリアンへの過度な忖度とポジショントークでしかないと見ている。
それはさておき。
ではどうしてこのような生産加工体制になってしまうのかというと、当方は幾分かは理解できる。
当方が実際に商談の場で見てきた実例を挙げてみる。
OEM業者と言っても、衣料品全般を得意とする企業もあれば、Tシャツやジーンズ、セーターなどの特定のアイテムを得意とする業者もある。
例えばAブランドがあったとする。
このブランドはTシャツ専門のOEMメーカーB社と長い間取引しており、Tシャツ類はほとんどB社に受注している。B社はTシャツ工場には当然のことながら精通している。
ある時、Aブランドがオリジナルでジーンズを製造したいと考えた。
しかし、Aブランドにはジーンズ製造の伝手がない。そのため、とりあえず長年親交の深いB社に相談した。
B社はTシャツの工場には精通しているが、ジーンズの工場についての知見は低い。
そこで知り合いの中から、または知り合いの知り合いの中から、いくつかジーンズのOEM業者をピックアップする。その中で最もやりやすそうな1社を選んだ。これをC社とする。
で、AブランドにそのままC社を紹介するならこのB社は非常に善良だが商売下手だといえる。
B社が商売上手なら、Aブランドに紹介せずに、Aブランドからのジーンズ生産受注を自社が受けて、C社に流す。
C社はB社に商品を納める。その納められたジーンズに自社マージンを乗せてB社はAブランドに納品する。
こういう図式は特殊ではなく、業界のあちこちで日常茶飯事に見ることができる。
Aブランド
↓
TシャツOEMのB社
↓
ジーンズOEMのC社
という構造になる。
C社が直接納品すれば、B社のマージンは発生しないが、この構造ではB社のマージンが発生する。これは非常に単純化した図式だが、この下請け構造が三層・四層・五層に重なっていることが珍しくない。その都度マージンが上乗せされていることは言うまでもない。
ではどうしてこういうことが起きるかと言うと、単にB社の既得権益という場合もあるが、逆にAブランドが未知の業者とやりとりすることを嫌う場合もある。それはAブランドの保身である場合もあるし、安全策である場合もある。
何か不具合が起きた際に自社が直接トラブルシューティングするよりもB社にやらせる方が効率的だからだ。またB社に対しての長年に渡る恩返し的な意味もあるだろう。
そして与信管理の意味合いからもポッと出の新規業者(C社)との直接取引を拒む場合もある。
これらの諸々が複雑に絡み合って、製造加工はシンプル化するどころか、年々複雑怪奇に多層化している傾向が強まっていると感じる。
だから、SPAやD2Cが掲げる中間業者排除なんて、現段階では画に描いた餅でしかなく、流通段階よりも製造加工段階の方が多層化し、コストアップの最大の原因となっている。
ここを改善しないことには、「中間業者の排除で割安な商品提供」なんていうのは掛け声倒れでしかないし、縫製工賃や生地値を過度に叩くしか利益が残らないというアパレル業界の問題も引き起こしている。
D2Cだ、インフルエンサーだ、とド素人が気軽にオリジナル商品を作れるのはこういう構造になっているためといえる。しかし、本気で「割安な良品」や「製造を泣かせない」ことを実現したいのであれば、D2Cやインフルエンサー自身が製造加工工程に詳しくなる必要がある。その知識を身に付けて製造加工の過度な多層化を排除しないことには絶対に理想には近づけない。
これが現実である。
そんなレリアンのセーターをどうぞ~
全く畑違いの金属加工業で働いてますが、右から左へ動かすだけでマージン取ってる仕事や、逆に取られてる仕事は結構ありますね。私なんかは電話とかメールのやり取り面倒だから、他の業者を紹介するだけにしたいんですが、うちの会社はやっぱりそういう良心的なことはしないでラベルだけ張り替えて納品とかしたりすることもありますね。
このブログに書いてあるように、一部上場の会社なんかだと、今まで取引していない業者と取引始めるのは手続き面倒だから逆にマージン取られても良いってこともあるようですが、日本全体の生産性を考えたら無駄なことしてるよなぁとは思います。輸送のコストだって、すべての業種で同じようなことやってるだろうから、日本全体で見たら相当になるでしょうし。他の国でも同じような感じかもっと酷いのかもしれないですけど、世の中いろいろ不合理なこと多いっすね・・・