
ウールという素材のメリットとデメリットを考えてみた
2020年2月10日 素材 2
2月に入って、今年は暖かい節分と立春だったが、その後、寒さがようやく増した。
しかし、明日からまた暖かくなり雨が続いて、週の中頃には20度前後にまで気温が上がる日もある。これはもう完全に3月下旬の春雨の気候といえる。
20年くらい前から暖冬と叫ばれているが、20年前の冬は寒かった。10年前でも12月の中頃にはクリスマス寒波と呼ばれる厳しい寒波が来て、そのまま正月に突入していた。
3~4年前からとみに冬の気温が暖かくなって、2019秋冬はその中でも稀に見る暖かさだといえる。
今後、20年前の寒さに戻ることは当分あり得ないと考えられ、2019秋冬ほどではないが、あと数年くらいは暖冬傾向で推移するのではないかと思う。
暖冬による影響でアパレルでは売れにくくなるものがあるが、
1、厚手ダウンジャケット
2、ウールセーター
3、メルトンのコート類
ではないかと考えられる。
この中で2と3の共通の原料がウール(羊毛)である。
最近、ネット通販で服を見ていると、服の説明のいい加減な商品が多い。あまりにもテキトーすぎる。こういうテキトー解説が蔓延するから消費者が謝った知識を身に付けてしまう。
半分くらいは「売らんがため」の詐欺的意図があるのではないかと思う。
例えば、「ダウンジャケット」と書いているのに「詰め物:ポリエステル」と書かれているケースは珍しくない。また「売らんがため」に紛らわしい商品名を付けていることも多く、「エアコンダウン」とか「テックダウン」とか、それ全部、中綿の原料はポリエステルやんけ。洋服の知識のない人が見ればダウンと勘違いするだろうが。
変な小細工をせずに正直にわかりやすく「中綿ジャケット」とか「パデットコート」とか書けよ。
メルトンに関しても同様である。
メルトンという商品名なのに原料がポリエステル100%とか「ポリエステル・ナイロン混」だったりする。メルトンというのは、ウールもしくはウール高混率の縮絨を指す。
合繊100%はメルトンではなく、メルトン風でしかない。
アクリル100%のセーターをカシミヤセーターと書くのと同じくらいの詐欺行為であり、だからアクリル100%セーターは「カシミヤタッチ」と書かれている。
こういう詐欺にも近いテキトー解説を放置することは、衣料品業界にかえって悪影響しか及ぼさない。
それはさておき。
個人的には、今後ウールという原料がどんどんと低~中価格帯の店頭から消えていくのではないかと思う。また消費者もウールに関しては消えても構わないと思っているのではないかと思う。
恐らく、消費者の多くは「ウールが消えても困らない」と答えるのではないかと思う。当方はウールのセーターが好きなのだが。特にメルトン(本来の意味での)コート類は本当に姿を消すのではないかと思う。
ウールは機能性がある反面、メンテナンスに手間がかかるので20年前から敬遠される傾向にはあった。
ウールの機能性を思いつくままに挙げてみる。
1、保温性
2、消臭性
3、皮脂汚れが付きにくい
4、速乾性
などがある。
保温性を挙げたがサマーウールなどは逆に清涼感があるとされており、原毛をどのような糸にするか、どのような生地にするかによって効能が変わる。
で、ウールはキツイ香水を振りかければ別だが、綿や合繊に比べると体臭が付きにくい。これはウールには天然の抗菌性があるからだという。
またウールは動物性の脂分を含んでいるので(動物から採るから当たり前)、綿や合繊に比べると皮脂汚れが付きにくい。
ただし、まったく皮脂汚れが付かないわけではないし、消臭効果が完璧であるわけでもない。綿や合繊に比べれば優れているという感じである。
さらに速乾性もある。薄手のウールのセーターを水で濡らしても乾きは早い。
その一方で、メンテナンスのめんどくささもある。
1、洗濯すると縮みやすい
2、虫食いで穴が開きやすい
この2点ではないかと思う。
洗濯するとどうして縮みやすいのかというと、ウールの表面にあるスケイル(人間の髪の毛のキューティクルみたいなもの)が開き、それが隣同士で絡み合ってしまうためである。
別のサイトでまとめてみた。
https://style-picks.com/archives/6738
しかし、今はウォッシャブルウールがある。
これはウールの表面に後加工を施し、スケイルを開きにくくしたものである。出始めたころは、コーティングで固められたようになってウール独特の表面感がなくなってしまっていたが、今では技術が改良されたのか、ほとんど気にならないくらいの表面感になっている。
洗濯して縮むというデメリットはある程度克服されたといえる。
一方、未だに克服されていないのが「虫食い」である。
ウールとシルク、カシミヤは虫食いに合いやすい。いつも防虫剤をタンスに入れて予防しているつもりだが、何年かに一度はウールのセーターに穴をあけられてしまう。
気を付けていずに粗雑に収納すると必ず穴が開く。
業界でも未だに「防虫加工」セーターは見たことがない。アウトドア用に蚊を寄せ付けない防虫加工の服は出回っているが、虫食いの原因となるヒメカツオブシムシを防ぐ加工を施したウールは見たことがない。
虫食いの恐れの高さが克服されない限りは、消費者のウール回帰は起きないだろうと思う。
今後は、メンテナンスの容易さとウールの原料高騰によって、残念ではあるがメルトンコートは消え、合繊100%のメルトン風コートに置き換わって行くのではないかと思うがどうだろうか。
ポリエステル製の安い「メルトン風」コートをどうぞ~
comment
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通りすがり より: 2020/04/11(土) 9:55 AM
業界人ではありませんが、参考になりました。
素朴な疑問ですが、ウールは遅乾性ではなかったかと思いました。
たしか乾くのは遅いけど、濡れてても体を冷やさない性質があったと記憶しています。
ウールは虫食い以外は機能的な素材ですが、虫喰いは凹みますよね…
最近若い人は襟つきのシャツやセーターなんてものはあんまり着なくなったようでありますね。第一柄物セーターなどはそんなに売り場にないし。僕も冬テイラードジャケット着た時のヴェストでもなきゃ本物のウールのニットはあまり着なくなった。おっしゃる通り,虫食い対策しなきゃならないのが面倒なので。洋服箪笥の大きいものだけでも4棹あると,防虫剤が非常に高くつくし。
良いニットの風合いはほかのものには代えがたい魅力がありますが,合成繊維の冬物に慣れてしまうとねえ。部屋着となるともっぱらフリースですしね。
Pコートもメルトンじゃなくて化繊の軽いものが欲しいのですが,今どき短丈でない正しいPコート買う人は,コダワリがあるらしくメルトンでないと売れない・・・とマッキントッシュ フィロソフィーの販売員女子が言ってました。