MENU

南充浩 オフィシャルブログ

安く調達して高く売るのがビジネスの基本

2020年2月7日 考察 0

繊維・洋服関係の国内の製造加工業者の知り合いは多い方だと思う。

発信音痴、ネット音痴な彼らも、上手いか下手かは置いておいて、ツイッターなりフェイスブックを使って発信することが増えた。

ただ、彼らの多くの論調を見ていてまったく理解できないのが

 

工賃を値下げ交渉することは許せない。安く製造しようとすることは悪

 

という論調である。

 

そりゃ、自分の仕事の報酬を値下げ交渉されれば誰だって気分が悪い。当方だってそうだ。

だが、値引き交渉そのものが悪とは思わないし、安く調達しようとする姿勢そのものが悪とも思わない。だれだって支払うカネが安いにこしたことはないからだ。

食品スーパーに毎日通っていると、だいたい食材の値段の相場がわかる。

食材の値段は毎日上下動する。キャベツ1玉が198円の日もあるし、138円の日もある。特売日だと1玉98円になることもある。特売日は洋服でいうところのバーゲンやセールに近い位置付けだろうから除外するとしても、198円で買うよりはだれだって138円で買おうとする。

これは当たり前の心理である。

 

少し前に複数の製造加工業者と話したことがあるが、その際、ある業者が全く異分野のアイデア商品を開発しており、そのサンプル品を持ってきていた。

たしかにアイデア商品であり、売り方・見せ方さえ上手ければある程度ヒットするだろうと思う。

で、これを量産する際に国内業者に見積もりを取ったところ「思ったより高い」ということで、中国の業者にも問い合わせたという。

で、

 

「中国の工賃はやっぱり安かったから、そちらでの生産を考えている」

 

という。

 

商売としては至極当然の選択だが、個人的には違和感しかなかった。

なぜなら、それは普段、自分たちがやられていることである。洋服や生地を安く作りたいと思うことは悪だとするのに、異分野の商品なら安く作りたいと思うことは悪ではないのだろうか。

これこそ、ダブルスタンダードの典型でしかない。

 

そりゃ誰だって、自分の商売は上手く行かせたいし、他人の商売なんかどうでもいい。

当方だってそうだ。

とはいえ、「自分がやるのはロマンス、他人がやるのは不倫」という姿勢はいかがなものか。

 

それは製造加工業者に限らない。「安物は悪」と公言する独立系の小規模デザイナーが「安くて美味い」食品を愛用していることも珍しくないが、これもダブルスタンダードでしかない。

安い洋服を買うことは悪だが、安い食品を買うことは悪ではないのだろうか。まったく意味不明で理解不能な考え方である。

 

異分野商品の製造を安く済ませたいという行動は、普段自分たちがやられてることでしかない。

普通の想像力があるなら、工賃を引き下げようとしたブランドやアパレルの気持ちが理解できるのではないかと思うがどうだろうか。

 

商売の基本は

 

できるだけ安く仕入れ(作って)て、できるだけ高く売る

 

である。

 

そのため、安く仕入れたり作ったりしようとする行動は当たり前でしかない。また、そのニーズをとらえるべく安値で対応する同業他社が存在や出現することも当たり前でしかない。

人がやらないことをやるのも商売の基本だからだ。

 

ヤマトや佐川の運送料を引き下げようとすることも、カード決済会社の手数料を引き下げようとすることも、工賃を安く抑えようとすることもすべて根本的には同じである。

 

「服は人が作っている」なんてことは、それほど声高に言わねばならないことだろうか?たかが服に他の商材を差し置いて至高の価値があるのだろうか?だったら宅配便の自動車も人間が運転しているし、自動車から荷物を降ろしてドアの前まで運ぶのも人間が行っている。

 

どんな商売でも価格競争は絶対に存在する。

安値を提示する業者も絶対になくならない。

逆に同業他社と最低価格を談合して取り決めるのは独占禁止法違反でしかない。

 

では、どのように対応すればよいのかというと、高値でも自社が選ばれる「何か」を確立し作り上げるほかない。

それは商品のデザインなのか、アフターケアを含めたサービスなのか、自社のブランドステイタスの向上なのか、機能性なのか。

そういう突出した「何か」を作り上げるほかない。それができない業者は買い叩かれるのみである。

 

ことさら洋服の尊さだけを大きな声でアピールするのは違和感しかない。それなら土木作業だって最終的な部分は人間が調整しないと上手く行かない。機械類だって人間が操作している。

人間が行っているから尊いというなら、土木作業だって尊いし、居酒屋だって尊い。

 

国内の製造加工業者や小規模ブランドには、変な新興宗教の教義みたいなことをアピ―ルして価格を高めるのではなく、自社・自ブランドが高くても買ってもらえる・使ってもらえるような「何か」を確立してもらいたいと切に望む。

 

「安物は悪」と叫ぶ業者だってパソコンは安く買いたいし、工作機械も安く買いたい。何なら自動車も安く買いたい。美味い酒も安く飲みたい。消費者や納入先が安値を求める心理は、自身の消費行動・企業活動を鑑みれば理解できるはずである。それを踏まえた上で高値でも選ばれる「強み」を開発し、確立してもらいたい。

 

 

2950円の安いダウンジャケットをどうぞ~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ