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南充浩 オフィシャルブログ

ニットの方が布帛(織物)よりも毛玉ができやすい理由

2020年2月5日 素材 2

生地に詳しい人なら当たり前のように知っていることなので今回は読まなくても構わない。

一般的に「毛玉」ができるのは、安物の生地だからと思われているが、実はそうとも限らない。生地を構成している糸の強度が高ければ高いほど毛玉ができやすい。

糸の強度が弱いと毛玉になる前に、繊維の表面から剥がれ落ちてしまう。要するに繊維が、毛玉をつなぎとめていられないからだ。

カシミヤの生地は毛玉になりにくいのは、カシミヤの繊維は弱いので、毛玉をつなぎとめていられないためである。

 

また、布帛(織物)とニット(編み物)を比べると生地の組成やら使われている糸の撚りやらによって左右されるが、一般的にニットの方が毛玉になりやすい。

まあ、たまに冬用のコートやジャケットで布帛でできているのによく擦れる腋の下に細かい毛玉ができるものがあるが、強度の高いポリエステルやナイロンなどが配合されているためだといえる。

 

さて、ではどうしてニットの方が毛玉になりやすいのか、自分の言葉でまとめようかと思ったがめんどくさいので、カットソーの男、山本晴邦さんがちょうどまとめてくれているのでそちらを引用しつつ紹介したい。

 

編み物は毛玉になりやすい

https://www.ulcloworks.net/posts/7642007

 

答えはシンプルなんだけど、編み物用の短繊維の糸は、織物用に比べて、撚りが甘い。
撚りが甘いと、繊維を抑えつける力が少なく、表面に出てきやすくなる。

 

とのことで、糸の撚りが甘い(緩い)と糸の表面に毛羽が出てきやすくなる。強く撚ると(これを強撚という)毛羽が少なくなる。だから強く撚った糸(強撚糸)で織ったり編んだりした生地は、表面がツルっとして滑らかになるというわけである。

反対に撚りが甘い(緩い)糸で織ったり編んだりした生地は糸自体が毛羽立っているから、ふわふわ感がある。

業界では甘撚りと呼んだりする。もっと極端に撚りが甘い糸を「無撚糸(むねんし)」と呼ぶ。

 

で、ここからがカットソーの原理主義者の異名をほしいままにする山本さんの説明の真骨頂である。

 

というか、そもそも、織物と編み物で糸の作り方が違うのか?っていうツッコミが入りそうだが、厳密に言えば違う。織糸係数という言葉がある。織物は縦横にかなりテンションをかけて製布していくから強度がないとすぐ切れてしまう。強い糸とは引っ張っても抜けにくいとか、繊維密度が高いとか、そういう要素が必要になってくる。そう考えれば、撚り回数が多い方が強い糸になる。

 

とのことで、まず、織物用と編み物用では糸の撚りが違う。織物用の方が一般的に強く撚る。

 

逆に、丸編は撚り強いと、糸の巻から、編針に糸が引き込まれる手前のアイロと呼ばれる糸の送りを調整する装置までの間はテンションフリーなので、ぐちゃぐちゃっと撚り固まってしまったりする。(ビリって言う)
ビリが出ると編み針にビリが引っかかって糸を切ったり、針の頭を飛ばしたりしてしまう。

 

強撚でも甘撚りでもどちらにもメリットとデメリットがあり、強撚糸で編むとビリが出て編み針が折れたりするというデメリットがある。

 

もちろんそれぞれの不具合を解消させた糸の作り方もある。MVSだの、コンパクトスピンだの、だのだの。

 

とのことで、生地に詳しくない業界人のために少し細くしておくと、それほどは強く撚らないのに毛羽の少ない糸を作る技術がすでに開発されており、それがMVSであり、コンパクトスピンである。すでに20年くらい前に開発されている技法である。MVSとはモビルスーツバリエーション(MSV)ではなく、村田機械が開発したボルテックスという精紡機を使った糸で、ムラタ・ボルテックス・スピナーの頭文字を3文字合わせた名称である。

それにしてもボルテックスという名称はテッカマンの破壊光線である「ボルテッカ」をいつも思い出させてくれる。

 

コンパクトスピンやMVSを使うと、それほど強く撚られていない糸なのに、生地にすると表面はなめらかで光沢が出るというわけである。

 

だけど、やっぱり編み地が柔らかいと感じる多くの要素は、細い繊維の優しい毛羽が生地の表面に出ていて、その柔毛を撫でた時に感じるソフトネスが、ソレだろう。
したがって、撚りを甘くして、繊維が表面に出ているから、柔らかいのだけれど、その繊維が何かと擦り合わされることで毛玉になりやすいということだ。

 

ニットの編み生地を構成している糸は毛羽がいっぱいあるから、そこに付着して毛玉ができやすいというわけである。

 

つまり、撚りが織物より甘い、編み物用の糸を使っているから、編み物は毛玉になりやすいと。もちろん、生地密度も同じ理由で毛玉の出来やすさに寄与する。密度が高ければ繊維が出にくく、密度が粗ければ繊維は出やすい。

 

また密度が高ければ毛羽が表面に出にくくなるからファインゲージニットよりも、編みの密度が荒いローゲージニットの方が毛玉になりやすいということになる。

 

そしてこれ以外に糸の組成によっての糸の強度の高低も毛玉のできやすさを左右するのは、冒頭でっも書いた通りである。

 

山本さん流にまとめると

 

この特性がわかった上で、甘撚りの織物とか、強撚の編み物が、それ相当の製布テクニックを要するということがイメージできると思う。

とりあえず糸買って機械に突っ込めば何でも生地になるってわけじゃないってこと。

 

ということになり、山本さんほど生地のメカニズムには詳しくないが、当方もこの業界に20年以上いるので、生地を触ったり組成を見たりすると、何となくではあるが、毛玉ができやすいかできにくいかが、ぼやーっと朧気ながらわかるようになった。

まあ、当方くらいの無能でも長く無駄に業界にいると、それくらいのことはボンヤリとではあるが見分けられるようになる。石の上にも20年というところだろうか。まったく金儲けの役には立っていないが。(笑)

 

 

両肩からボルテッカを発射するテッカマンブレードをどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/02/05(水) 9:07 AM

    やっぱテッカマンは旧のほうが萌えるんですよね~オッサンには。特に変身シーンとかw
    MSVは水陸両用のが胡散臭くて好きですw

    っていうか、服飾ド素人には毛玉の理論が分かって面白いお話でした。でも、業界人でも分かってない人多そうですよね、こういう話は。

  • 名無し より: 2020/02/05(水) 4:43 PM

    業界では毛玉のことをピリングといいますが、これを抑えるのはとても難しいとされています。
    でもユニクロなんかは毛玉防止加工をしているようなんですよね。チラシによるとですが。
    でも風合いはかなり良いので、どのようにやっているのか不思議なんですよねぇ。
    基本的に毛玉の防止は、樹脂で固めて毛を出さない加工が一般的だと思うんですが、固くなるんですよねぇ・・・

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