一発逆転させてくれるような「魔法の杖」は存在しない
2020年1月30日 製造加工業 0
国内の繊維の製造加工業者、アパレルメーカー、大手セレクト、SPAなどと個人的な付き合いがあり、商談や飲み会に参加することがあるが、川上(原料段階)から川下(店頭)まで含めて、広い意味での国内繊維業界の人はだいたいが「魔法の杖」を求めすぎていると感じる。
現状が厳しいからだろうし、97年ぐらいまでの「良かった時代」の成功体験が抜けきれないこともあるのだろうが、一発逆転みたいな手段を期待しすぎている。
アニメでいうと、ジオン公国に負け続けた連邦軍が、圧倒的な性能を持ったガンダムを開発するようなことを期待しすぎている感じを受ける。
一般的に、バブル崩壊とともにアパレル不振になったと思われているが、実際はそうではなく、97年ぐらいまではなんだかんだで洋服は売れていた。
バーバリーブルーレーベルのアムラーブームが起きたのは97年だし、ビンテージジーンズブームが起きたのは96年ごろである。今、あれほどの何百億円規模のアパレルブームは起きない。
で、実際に製造加工業者と話すと、「悪くなったと言っても97年頃までは1型1000枚とか500枚の受注はざらにあった」と口をそろえる。
そんな繊維業界人が夢想する「魔法の杖」はいくつかある。
1つはネット通販を含むWEBだろう
もう1つはサスティナブル、エシカルだろう
あとの1つは中国市場、中国企業だろうか
だが、どれもこれもはっきりというと一発逆転できるようなそんな「魔法の杖」などではない。
ネット通販については賢明な人ならだいたい気が付き始めている。
いまだに「ネット通販をやったらすぐさま何百万円も売れる」なんてイージーなことを考えているのは、ネットなんてやったこともないクソジジイ経営者くらいである。
すでに楽天、Amazon、Yahoo!ショッピングなどの大手が席捲していて、中小零細が急成長する余地は残されていない。ニッチを狙う小規模ならやりようによっては成立できるが、中堅が一挙に大規模に拡大できる余地は残されていない。ZOZOだってこのままYahoo!ショッピングに呑み込まれて消えてしまうと当方は見ている。
サスティナブル、エシカルは不要とは言わないが、それを前面に打ち出したからと言って、売れるわけではない。
人間が快適に文明的に生活するためには、現時点において環境負荷はゼロには絶対にならない。遠い将来はそんな夢のような技術が開発されているかもしれないが、現時点ではそんな技術は存在しない。
それを過剰に追求し、アピールしすぎるとイデオロギー化して胡散臭い新興宗教みたいだし、集まるのはカルトな信者ばかりで、マジョリティーではない。
サスティナブルが先に立った商品なんて使う側からすると意味がない。デザインがいいとか、機能性がいいとか、見た目がおしゃれになれるとか、そういう利益がないと売れない。
環境に良いけど使い道のない商品なんて誰も買わない。
ところが、国内ブランド、素材メーカー、はサスティナブル、エシカルのオンパレードである。
例えば、某ブランドは新たに国産商品を投入するが、その謳い文句が「サスティナブル」である。え?その商品にサスティナブルの冠が必要なの?
素材メーカーや生地問屋の打ち出しもサスティナブルが多いが、素材の中には「なんちゃってサスティナブル」「なんちゃってオーガニック」も数多くある。
それをまたメディアが精査せずに報道するから、なんちゃっての方が王道という世論が出来上がってしまう。
それらへの配慮は不要とは言わないが、その冠がある素材を優先的に使うなんていうブランドはほとんどない。それよりも生地の風合いとか機能性とか価格とかそこが重要で、それに付随するのがサスティナブルとかエシカルになるのが本当だろう。
中国市場、中国企業への盲信もひどい。
隣の芝生はよほど青く見えるのだろうと思う。
しかし、中国企業に買収されたところで上手く行かないこともあるし、中国市場は無限に洋服の需要が伸びているわけでもない。
山東如意集団に買収されたレナウンの業績はいまだに苦戦しているし、その山東如意集団自体が最近では苦戦に転じていて百億円単位の融資を受けたと言われている。
ある人に言わせると「デフォルトを何とか回避できた」くらいのレベルだという。
中国企業に買われたものの、まったく存在感のないスポーツウェアメーカーのフェニックスなんていう例もある。
また中国市場は活況に見えるが、こと洋服に関しては優劣の格差が激しいし、頭打ちも見えてきていると感じる。
ある非公開のグループ内で提供された情報によると、2019年11月11日のアリババのオンラインイベントでは、洋服部門だけが前年比1・6%減と前年割れになった。
当方の知り合いにも中国現地でのチェーン店のコンサルタントをしていた人がいるが、そのチェーン店は倒産してしまい、当然のことながらコンサルタント契約も終了した。
洋服なんて物は、一度買うとだいたいは3年くらいは着用できる。すぐに傷むという人もいるがよほどに保管の仕方や洗濯方法が粗雑なのだろうと思う。
洋服は買えば買うほど溜まっていき、1着当たりの着用回数や洗濯回数が減るから、耐久年数も伸びる。爆買いを続けているとどうなるかというと、手持ちの服が溢れかえり、それでいて長持ちする。そうなると、徐々に買う枚数を減らす。
これは日本人でも何国人でも同じだろう。手持ちの服が増えると中国人も買わなくなるのは当然で、今後、さらに爆発的に中国の洋服需要が伸びることは考えられない。
いずれにせよ、戦局を一気に好転逆転できるような「魔法の杖」はこの世には存在しない。できることを着実に緻密に(たまに大胆に)コツコツやるほか、打開策はない。
そんなフェニックスのスキーウェアをどうぞ~