
低価格パターンオーダースーツ市場は美味しい市場ではない
2020年1月28日 トレンド 7
当方も含めて容姿が残念な男性が一番マシに見えるファッションはスーツである。スーツが死ぬほど似合わないという男性はほぼいない。
ネクタイまでする必要はないが、カジュアルでもある程度スーツに近いアイテムでまとめると、「ひどく似合っていない」という事態は回避できる。
いわゆる「どカジュアル」は似合う似合わないが顕著に出る。特に中高年男性には厳しい。普段のスーツ姿は普通なのに、日曜日に出くわすとひどく残念な見映えになっている中高年男性は数多くいる。
とはいえ、今後、男性のスーツ需要は伸びないと考えられる。
どうしてもスーツは仕事着だし、休みの日にまで着用したいという人はほとんどいない。また定年退職してリタイアした後もスーツを着続けたいという人もほとんどいないだろう。
カジュアルは嗜好品の側面があるから、手持ちがあっても買い足してしまうことがあるが、「スーツをついつい買い足してしまった」なんて言う人はよほどのマニアだろう。そんなマニアは極少数派でしかない。
こう考えると、スーツ需要というのは着用者人口の増減に大きく左右される。
当方は、何でもかんでも人口動向が左右するとは思わないが、ことメンズスーツに関しては人口の増減がかなり直接的に需要を左右すると思う。
近年、メンズスーツ市場は縮小し続けている。需要はゼロにはならないが、大きく回復することはない。
メンズスーツ市場縮小の最大の理由は、
人口が多かった団塊世代男性のほとんどがリタイア済みとなってしまったため
だといえる。
低価格化とかカジュアル化とかの影響もゼロではないが、仕事着という性格が強いメンズスーツは着用者人口が減ると、その影響をもろに受けてしまわざるを得ない。
そんな中、低価格パターンオーダースーツ需要に活路を見出そうとする企業も少なくなかった。しかし、そんな需要は元からそれほど大きくない。
スーツ全体の需要を押し上げる作用は全くなく、2万円台~5万円弱の価格で既製スーツと同等なら、スーツはサイズ感が命だから、何割かの人がパターンオーダーに乗り換えるに過ぎない。
スーツの総需要は変わらず、何割かが既製からパターンオーダーに乗り換えただけである。
そして、その低価格パターンオーダーの市場も元からそれほど大きくない上に、今後どんどん成長し続けることは考えられない。
何度も言うが、スーツを仕事以外のデイリーカジュアルで着用したいと思う人は数少ないからである。
そんな中、AOKIが低価格パターンオーダースーツから撤退した。
まあ、ある意味で見切りが早いのがAOKIの良い部分なので、これは素直に評価したい。大企業が儲けもないのにこだわり続けなくてはならないほどの美味しい市場ではない。
AOKI、低価格のオーダースーツブランド「アオキトーキョー」わずか1年で事業終了
https://www.fashionsnap.com/article/2020-01-25/aokitokyo-close/
AOKI初のオーダースーツ専門業態「アオキトーキョー(Aoki Tokyo)」が、銀座6丁目店を2月24日に閉店するとともに、事業を終了すると発表した。同事業は昨年3月1日のデビューからわずか1年で展開を終えることになる。
「アオキ(AOKI)」と「オリヒカ(ORIHICA)」でメンズオーダースーツを拡大してきたAOKIは、オーダースーツ事業のみで年間売上高100億円達成を目指しており、アオキトーキョーはその布石となる事業として2017年から約2年の構想期間を経て立ち上がった。
(中略)
実店舗の出店計画では大都市圏のビジネス街や主要ターミナル駅を中心とし、銀座6丁目店のほかに池袋東口店と新宿東口店を加えた計3店舗を出店したが、池袋東口店と新宿東口店はすでに閉店している。
とのことである。
よほどに業績が伸びなかったのだろう。
この記事にもあるように、近年は紳士服メーカーやD2Cブランドを中心に低価格のオーダースーツ市場への参入が相次いでいるが、そもそも何千億円規模に成長するような市場ではない。
規模的にもっとも成長しているのはカシヤマ・ザ・スマートテーラーだろうが、これとてもいまだに黒字には転換できていないという情報がある。
それ以外のブランドや企業はさして大きく伸びてはいないし、赤字続きのブランドもある。
記事中にあるZOZOオーダースーツの撤退は、売れ行きもさることながら、それ以外の組み立てが間違っていたし、そもそも自社顧客層との乖離(顧客は女性が圧倒的に多い)も激しかったから、これは低価格パターンオーダー市場という問題ではなく、基本的な構想の問題だったといえる。
低価格パターンオーダー市場についてはメディアやネットが騒ぎすぎという印象しかない。
では今後、この市場はどうなるのかというと、一定の規模には達するだろうが、AOKIのような大手が満足できるほどの規模にはならないと考えられる。そのため、青山やコナカなどの大手は、「余技」「プラスアルファ」として取り組む程度で十分ではないかと思う。逆にこれらの大手がコダワリすぎると、経営を悪化させてしまうだろう。
一方、数億円~数十億円規模の中小ブランド、例えば、グローバルスタイルなどは今後、飛躍的な売り上げ拡大はできないだろうが、現状維持から微増程度はやりようによっては可能で、あとはどう利益を確保し続けるかではないかと思う。
ネットで騒がれているD2Cとか、後発ブランドなんかは離陸できずにそのまま消え去るのではないかと思う。
D2Cブランドには安心感がなさすぎて胡散臭くあるし、今更やり始めた後発ブランドはよほどの「何か」がないと、小さい市場において先行各社から客を奪うことは至難である。
当方のように、買う側の人間は、値段の安さと品質のバランスと応対の良さを見極めて、使い勝手の良いところで買うだけの話である。カジュアルと違って、ブランドロゴも入っていないから、エフワンでオーダーしようが、ツキムラでオーダーしようが何の問題もない。
低価格パターンオーダースーツなんてそんなもんだと思っている。
マルトミの9980円スーツをAmazonでどうぞ~
comment
-
-
BOCONON より: 2020/04/03(金) 2:52 PM
”とおりすがりのオッサン” さんには申し訳ないですが,結論から言えばそもそもパターン・オーダーで格好の良いスーツを作るというのは既製服が上手く選べる人でないと無理ですね。基本既製服と同じで型見本に合わせて作るものだから,その型見本が自分の体つきをキレイに見せてくれるものか否か判断できなきゃならないので。でもそれが出来るなら,最初から既製服を買えば済む話ですからね。特にビジネススーツは。
まあよほど生地にコダワリがあるなら別に止めはしませんが。-
とおりすがりのオッサン より: 2020/04/07(火) 8:23 AM
なるほど、だからショップの着例の写真でも合ってる人と合ってない人がいるんですね。我が国の大臣レベルの方々もオーダースーツなのにあんまカッコ良くないのは、そういうことなのかも?いや、フルオーダーだったら違うのかな?
-
BOCONON より: 2020/04/07(火) 8:57 PM
当てずっぽう,あるいは冗談半分で少し書いてみます。題して「なんで日本の政治家は大臣クラスでも,フルオーダーでもスーツ姿がカッコ良くないのか?」。
・銀座の老舗テーラーには老人客が多いので「とにかく着ていて楽」なスーツを作る場合がある。小泉純一郎氏のスーツはどうやらこれ。なんだかでれっとしてサイズ感ゆる過ぎでどうもいけませんね。
・スーツ自体の造りは悪くないが,センスや着こなしが良くない場合もある。
安倍首相なら「(紺ではなく)くすんだ青」のスーツ着たり,なぜか黄色いネクタイ好きなところ。麻生太郎氏なら国際会議に白いスーツやマフィアのボス的着こなしで行ってしまうところ。-
とおりすがりのオッサン より: 2020/04/08(水) 8:58 AM
なるほど、格好よりも安楽さを求めてるってのはありそうっすね。
マフィア大臣氏の白スーツとかは、アームホールデカ過ぎじゃね?と素人目に思いましたが、あれも着てる時に楽なようにということなのかも?
イージーオーダーで身体にピッタリするとカッコ悪くなるというのもあるんですね。スーツ好きの人がオーダースーツを着た写真を挙げてるブログを見てると、どうにもカッコ良くなくて、でも店のサンプル写真はカッコ良いというのも見ましたが、あれもそういうことなのかも?
素人は青山で吊るしのスーツ買っておけ、ということですかねw-
BOCONON より: 2020/04/08(水) 2:44 PM
左様,「オーダー」という言葉に幻想を持たない方が良いと思います。フルオーダーでもなかなか最初から気に入ったものは出来ないものなので。
しかし(個人的な意見と思ってもらって結構ですが)既製服の方が無難と言っても,スーツの場合 “最低いくら” というのがあります。「百貨店で売っているものとしては比較的安い方」と云った程度,つまり6万円前後ですね。
偉そうな言い方を敢えてすれば「男の体つきに沿いつつもその人の体つきを立派に or 美しく見せてくれるスーツを作る,なんて事は一種の職人芸,美術工芸品に近いのでそうそうお安くは出来ません」ということです。
もっとも最近の若い人たちの着ているような「一年中夏物みたいな生地のぴっちり細身短丈の黒スーツ」なんてものならお金かけてもしょうがあるまいと僕も思いますが。
-
-
-
-
-
BOCONON より: 2020/04/07(火) 9:13 PM
ところで,誤解があっては困るので一言。
「低価格オーダースーツ」にはパターン・オーダーではなくイージーオーダーの場合もある。こちらはPOよりもっとおすすめできません。なぜかと言うと,大雑把に言えば「機械的に,あるいは馬鹿正直に客の体つきに合わせて作るから」すなわち「体にピッタリなスーツが出来てしまうから」。
よほど美しい体つきの人でなければ,体にぴったりなスーツが出来ては困るのです。それはその人の体つきの欠点がそのまんまスーツに出てしまう,という事なので。
「王様の仕立て屋」っていう、もう16年も続いてる凄腕仕立て屋さんのマンガを最近読み始めて、スーツとかも面白いんだね、とか思い始めたファッションセンスゼロのオッサンです。このブログでも格安オーダースーツの記事とか読んで気になって色々調べてみると、結構有名店でも不満のレビューとか多くて、大手がやる気になれば改善出来る所は多いんじゃないかと思いました。ま、ZOZOスーツ的なのは問題外でしょうけど。
あと、前述のマンガなんかでは、仕事用のスーツも仕立てるんですが、それ以外のオシャレ用のスーツの話も多くて、日本じゃスーツは仕事用という認識の人が大半でしょうけど、そういうオシャレ用スーツの需要だって掘り起こせるんじゃないっすかね?昔はDCブランドのスーツが結構売れたりしたんですし。ま、値段次第ってとこも大きいでしょうけど。