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南充浩 オフィシャルブログ

昔の大手ジーンズメーカーって、ある意味でエコだったかもよ

2020年1月6日 ジーンズ 0

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

昨年は国内ブランドでも「サスティナブル」とか「エシカル」とかの冠を付けるブランドが増えた。

まあ、本当にそういうものに最初から取り組んでいるブランドに関しては何もケチをつけるつもりはない。思想は自由だから自由にやればいい。

個人的にはそういうものにはほとんど興味はないからわざわざそれを買おうとは思わないというだけのことである。

 

個人的に最も疑問を感じるのが、取ってつけたような「サスティナブル」「エシカル」を売らんがために突然標榜したようなブランドである。

この手のブランドは、一昔前なら「ライフスタイル提案ガー」とか「コト販売ガー」とか言っていたのだろうと思う。5年前なら「オムニチャネルガー」だろうか?(笑)

 

それはさておき。

 

世の中には、その昔に「時代遅れ」とされていた手法が巡り巡って、時勢にドンピシャになる場合がある。

 

年末のこと。かつての大手ジーンズナショナルブランドにいた人に会った。正確にはクリスマスごろだろうか。その人は今はジーンズ業界からは離れている。

この人が「昔の大手ジーンズメーカーの企画は、ある意味でエコだった」という感想を漏らした。たしかに昔のジーンズは環境負荷の大きい薬剤を使って洗い加工を施したりしていたので、そういう面ではエコとは呼べない商品だったが、定番商品を中心に企画・生産していたので、廃棄処分は少なかった。

特に、小刻みなトレンドを追いかけて新型を次々に投入するような企画体制ではなかった。

 

国内のジーンズメーカーの多くの前身は学生服か作業服メーカーである。これは縫製する生地の厚さが似通っていたということが大きい。そこから転身してジーンズメーカーになっており、設立が古い会社はほとんどがそうで、90年代以降に設立された新しい会社はその限りではない。

学生服も作業服も小刻みなトレンドはなく、新型を何か月かに1回投入するという必要はまるでなかった。モデルチェンジするまでにだいたい5年くらいはかかる。

現在はそれよりは少しトレンド追求型になってはいるが、一般のカジュアルやファッションブランドほどの小刻みなトレンド追求は今でもない。

かつてのジーンズメーカーは体感的に言って、学生服や作業服より少しトレンド追求があるという程度だった。

 

決してファッション感度が高くないこれらの人たちが転身してジーンズで成功できたのは、物のない時代でジーンズという新商品が行き渡っていなかったという側面はあるが、それ以上に企画・生産が学生服・作業服出身の彼らに適していたということもあるのではないかと思う。

2000年頃までのジーンズメーカーは、定番を未洗いのノンウォッシュで積んでおいて、それに様々な洗い加工を施して色を変えて出荷していた。もちろん、今でもエドウインなどの残った大手はそういうこともやっているかと思うが、それ以外の旧ナショナルブランドはそんなことはやっていない。やっていたら抱えた在庫で即座に倒産してしまうだろう。

ノンウォッシュを企画・製造して積んでおけば、ジーンズ特有の洗い加工という工程で色の濃淡を付けたり、変色させたりして、別商品として出荷できるのである。

 

濃い色が流行ればノンウォッシュのままか、糊だけ落としたワンウォッシュで出荷すればいいし、淡色が流行ればブリーチ加工やストーンウォッシュを施して出荷すればいい。

どうしようもなくなれば変テコリンな加工をすれば良くて、ケミカルウォッシュもその一環で生まれたと言われている。

夏になれば、膝から下をぶった切ってショートパンツにすれば良くて、ショートパンツも色の濃淡を加工で変えて出荷できる。

 

その人は「実際、つい10数年前まで、夏場は長ズボンの膝から下をぶった切って出荷してたからね」と言っている。

ちなみに余談だが、クールビズが初めて行われた2005年夏、半袖シャツが飛ぶように売れて、各アパレルともほぼ在庫をすべて売り切った。

もう15年前のことで時効だろうから書くと、2005年夏にヤマトインターナショナルのファミリーセールに行くと、半袖シャツが一枚も売っていなかった。

顔見知りの社員を捕まえて聞くと

 

「クールビズで在庫が全部売り切れたんです」

 

ということである。凄まじいクールビズ効果。

で、立ち話はさらに続き、その社員は

 

「あまりにも在庫が足りないから、ずっと不良在庫で抱えていた長袖シャツも袖を切り落として半袖にして販売しました。それも完売です」

 

と明かしてくれた。

実際に山喜を始めとするシャツメーカー各社も同様の状態だった。

 

厳密に言えば、半袖と長袖、半ズボンと長ズボンでは型紙が異なる。そのままぶった切ったのでは本来は、形がおかしく、ファッションにうるさい人ならケチをつける。

しかし、需要が多ければそんなことも言っていられないし、買う方も大衆はそこまでこだわらない。

 

売れもしない新型を投入し続けて不良在庫を増やし、それを廃棄することがエコではないと批判を浴びている。とりわけ、かつてのファストファッションが批判されているのはその部分である。

そして、ジーンズメーカー各社はその小刻みなファッショントレンド変化に追いつくことができずに、売上高を減らし、ブランドイメージを下げ続けてきた。

だが、一転して「エコ」とか「エシカル」とか「サスティナブル」という視点から見ればどうだろうか。長い期間売り続けられる商品を様々に再加工して販売し、ほとんど廃棄しない。

これは今の流行りにドンピシャではないか。おまけに洗い加工も、レーザー光線加工やオゾン脱色など、ほぼ無公害の手法が出そろっていて、今持て囃されているブランドがそういうものを使用するよりも早く各社、各工場は取り入れており、少なくとも10年前にはすでにレーザー光線加工は実用化されていた。

 

惜しむらくは、時代とマッチしていなかったことに加え、ジーンズメーカー各社が極度に発信下手だったことで、そういう仕組みや手法がほとんど誰にも知られないままに2020年まで来てしまったことである。

様々なジーンズメーカーが経営破綻し、市場から姿を消してしまったが、今残っている大手や老舗はこういう部分をもっとクローズアップして発信してみてはどうだろうか。

苦手なトレンド分野をいくら頑張ってみたところで、本職のトレンドブランドにはかなわない。自分の得意分野で勝負するというのは兵法の鉄則でもある。

そんなことを2020年年初につらつらと考えてみた。

 

 

エドウインの定番503をどうぞ~

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