アパレル業界は人工知能に頼る前にやれることがもっとある
2019年12月18日 ファッションテック 1
アパレル企業は基本的に流行り物に弱いから、深く考えずにすぐに飛びつく。
トレンドを商品化して売っているのだから仕方がないという側面もある。10年くらい前ならウェブとかウェブ通販だった。今は差し詰め人工知能だろうか。
ウェブ業者にもピンからキリまであって、結構偽物業者も多い。
先日、某社にウェブ業者が提出したという資料を見せてもらったが、グーグルアナリティクスの画面をスクショして貼り付けただけのお粗末なものだった。
それくらいなら実は当方でも作れてしまう。(笑)
人工知能も同様で、ピンからキリまである。個人的には「需要予測」「在庫削減」をメインに掲げている人工知能業者は現時点ではほとんどが眉唾だと見ている。
「トレンド解析」や「通行量調査」などをメインに掲げている業者はまあ、ある程度は現時点では信用に足ると思う。
今後、科学が進歩すれば、バビル2世のコンピュータや鉄腕アトムみたいな自律型人工知能が生み出されるかもしれないが、現時点であのような神にも等しい知性を持った人工知能を求めているなら、それは見当違いも甚だしい。
しかし、この手の話にコロっと騙されるのがアパレル業界である。
某赤字続きの企業はなんと人工知能業者を3社も契約しているという。3社への年間支出は合計で18億円前後に上ると言われている。
それほどの支出をして赤字が止まらないのだから、何をやっているのかわからない。
その18億円で他の施策を行った方がよほどマシな結果になる。施策ではなく、その18億円を社員に給料やボーナスとして還元した方が士気が上がって業績が上向くかもしれない。
「在庫削減」という分野においては、消化率50%を80%にまで高めるとなると、人間では無理で人工知能が必要となる。また消化率70%を80%まで高めるというのも人間業では難しい。名人・達人のみが可能だろう。
スポーツでも何でもそうだが、練習を繰り返せば一定水準まではほとんどの人が到達する。そこからプロやトップレベルにたどり着くには才能が必要になる。
練習すればフルマラソンは誰でも走れるようになるが、2時間台で走るようになれる人は一握りしかいない。
それと同じで低い消化率を少し高めることはほとんどの担当者や組織で可能だが、高い消化率をさらに高くするには普通の人間では無理である。
わかりにくいコメントを出すことで有名な某社長が「人工知能で在庫削減」と新聞で語っているが、この会社の商品は大量にバッタ屋に流されている。しかも取引するバッタ屋の数は毎年増えている。
人工知能で在庫を削減したのではなく、バッタ屋に投げ売りすることで在庫を削減している。バッタ屋との取引を増やせというのが人工知能の指示だったのだろうか?(笑)そんな指示でよければ当方だってできるのだが。(笑)
「需要予測」にしても同様で、洋服の需要の何を的確に予測できるのだろうか?
下着や靴下、パンストなどは需要予測できるのではないかと思う。毎日着けるものだし、確実に一定の期間内で傷むから需要予測しやすい。
グンゼのボクサーブリーフを買った男性は1年半後に買いなおしに来るとか、アツギのパンストを買った女性は半年に一度必ず買いなおしに来るとか、そういう具合になる。ワイシャツでも可能かもしれない。
しかし、トータルブランドやカジュアルブランドでは一体何を予測するというのだろうか?
アイテムは無数にあるし、デザインのふり幅も広い。またパターン作りによっては同じ商品でもシルエットが異なってしまって選ばれない可能性もある。使用する生地によってもシルエットや見え方が異なってしまう。
例えば、ジーユーの今秋冬アウター類は、若者のトレンドを反映してドロップショルダーのビッグシルエットばかりである。
一方、同じファストリでもユニクロはそこまでビッグシルエットではない。
同じダウンジャケット、中綿ジャケットと言っても試着してみると全然シルエットが違う。特にアームホールの大きさ、袖の太さが全然違う。
自分自身で両方を試着してみたが、ジーユーだと着ぶくれして見える。ユニクロの方がまだマシである。当方の顔がもっと小さくて首が長ければ、ジーユーの太い袖の中綿ジャケットでももう少しスラっと見えたかもしれないが、輪郭は削ることはできても首の長さは変えられないから、今秋冬のジーユーの中綿物はどんなに安くなっていてもほとんど買わない。
需要予測で「中綿」とか「ダウン」と弾き出されたところで、パターン(型紙)によって似合う似合わないが生じて、買わないという消費者も出てしまう。
お分かりだろうか。
また、マスタードのケーブル編みセーターが流行るという需要予測が出たとして、全ブランドが一斉にマスタードのケーブル編みセーターを発売すればどうなるか?
消費者個人が買うのは1枚、よくても2枚。しかし供給しているブランドは何万とあるわけだから、それこそ供給過剰で各ブランドに不良在庫が増えるだけである。
人工知能の研究は必要で、今後も進められるべきだが、現時点で、苦し紛れで人工知能に他力本願になるのは、かえって自社・自ブランドの首を絞めることにしかならない。
そして肥え太るのは、怪しげな人工知能業者ばかりということになってしまって、現にそういう兆候はすでに表れている。
今、繊維・衣料品業界に必要なことは経営者を始めとして個々のスキルを伸ばすことではないか。
30年くらい前に、自衛隊の迷彩服が新型になったんですが、その時の謳い文句は「日本の植生をコンピューターでパターン化して~」みたいなもので、それはスゲェ!とミリタリーヲタクでも評価しちゃった人がいましたが、まずどんなプログラムを誰が作ったのかも分からず、どこの植生をサンプリングしたのかも分からないのに、「コンピューターで分析」みたいな文句にコロっと騙されちゃう人が居るんだなぁと笑いました。
ま、自衛隊の迷彩服なんか効果が高くても低くても一般人には対して影響ありませんが、経営者とかは他人の人生も預かってるんだから、物事を論理的に考えてほしいものですね。