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南充浩 オフィシャルブログ

企業規模が違えば求められる手段も異なる

2019年10月31日 ネット通販 0

今回も個人的な話から進めようと思う。

無気力と四六時中の飲酒に拍車がかかって、ちょっと扱いかねている老父は75歳で、ガラケーのメールすら打てない。新しい物事を一切覚える気がない。本人にやる気がなければどうしようもない。

しかし、世間の70代は意外にデジタル対応が進んできていると感じる。

先日、そんな老父を連れて母方の祖母の法事に出かけたのだが、叔父もその同年配もみな70代となっていた。そりゃそうだ。当方だって来年は50歳というジジイになるのだから、叔父世代はもっとジジイになっている。

デジタルの仕事をしていたわけでもないし、SNSに熱心なわけでもないが、それでも70代の叔父たちでさえ、スマホは使っているし、インターネットでニュースを読んでいる。孫たちとLineもやっている。

そりゃ、使い込んでいる若い層よりは手慣れていないが、それなりにネットを活用している。

 

あと、10年すれば当方は60歳になる。当然、今の70代は80代になるわけだが、老人も普通にネットを使う時代になる。

今の時点では、高齢者はネットに弱いと言われていてネット通販は市場がないと言われているが、意外にそうでもない人も増えているし、10年後はもっとネットを使いこなしているだろう。

どんなに健康に留意しても人間の身体は衰えていくから足腰は絶対に弱る。公共交通機関が整備されていない地方では自動車を老人も運転せざるを得ないが、老人の交通事故のニュースが増え、免許返納というムードもある。そうなると買い物に不自由になる老人も多いと推測されるが、ネット通販の浸透が早まるのではないかとも思う。

 

売上高数百億円以上の大手アパレルは、既存の販路である百貨店、量販店の失速も相まって、苦戦を強いられている企業が多い。とくに「老舗」といわれるところは時代の流れにもついてこれていないので厳しい業績が続いている。

かと言って、安易にSPA型の路面店を増やしても簡単に売上高は伸びない。

そういう状況だから比較的新しい販路であるEC、平たくいうとネット通販への期待が高まっているが、大手の老舗アパレル経営陣はネットへの認識が甘く、逆に夢想しすぎではないかと感じられることも多い。

また、逆にネット通販はおろか、Eメールの導入さえ手付かずという老舗もある。

 

ネット通販を上手く活用した小規模ブランドがあちこちに生まれている状況を見て、ネット通販さえやればすぐに売上高が稼げると考えている経営陣も少なくない。

これは大手に限らずそうで、中小企業でもそうだし、中高年ではなく若い現場の人でも同様である。

 

しかし、俗にD2Cと呼ばれるブランドたちはそんなに儲かってはいないし、儲かっていたとしてもその規模は小さい。小さいからこそのD2Cである。

売上高500億円のブランドとは置かれている状況がまったく違うし、必要となる売上高もケタが違う。

 

 

先日、foufouという小規模ブランドの大阪試着受注会にもぐりこんで試着だけして受注せずに帰ってきた。(笑)

foufouのコートを試着してみた。デニムシャツは1990円に値下がりしたGAP、ズボンは590円に値下がりしたジーユー、靴はAmazonで9880円でポチったナイキエアマックスフレア50

 

 

 

SNSでファンを作って、各地で展示受注会を開催して、それなりに売上高を確保している。とはいえ、売上高でいうと小規模零細だが、少人数運営で採算が取れているからそれはそれとしてありだ。

いわゆる、堅調なD2Cブランドと言っても良いだろう。

大阪試着受注会は2日間の開催だったが、180人の予約があったという。なかなかスゴイと思う。当方が呼びかけたって2日間で180人は集まってくれないだろう。(笑)

当方とは異なり、SNSによるファンづくりの上手さに定評がある。

 

しかし、仮にこれを「隣の芝生は青い」とばかりに500億円のアパレルが真似をしたとして、業績が上向くだろうか。はっきり言って焼け石に水でしかない。

ちょっとひどく大雑把に試算してみる。

foufouの商品を180人が全員受注したとする。(当方除く)

49000円のコートを180人が全員受注したとすると、882万円の売上高となる。

この形式の受注会を東京含めて札幌や名古屋、大阪、神戸、九州などの大都市で開催したとして、全都市で同じくらいの売上高があったとすると、6都市で5300万円、7都市で6170万円となる。

年に2回なら1億~1億3000万円となる。

これが年商ということになる。

 

500億円規模のアパレルが1億3000万円をネットで売り上げて何かの足しになるのだろうか?まあ、何かの足しにはなるかもしれないが、業績に与える影響は極めて軽微である。

500億円のアパレルが求める規模というのは最低でも10億円は必要だろうから、この10倍が最低条件ということになる。

理想を言えば25億~50億円程度は欲しいだろう。

 

となると、小規模ブランドがオーナーや主宰者の個人的魅力で行う集客とは別次元での施策が必要となり、最低でも個人技集客の10倍以上の集客が求められることになる。

そこまでの集客をしようと思うと、個人技や個人的魅力では不可能で、広告やらなんやらという資金投入を伴った販促が必要となる。

 

大手の再建に携わったことのあるコンサルタント氏は、「かつて、一人の顧客を獲得するのに1万円のコストがかかった。今なら一人当たりのコストは15000円になっているだろう」と指摘する。

仮に15000円のコストが必要として、1万人の顧客を獲得するためには単純計算で1億5000万円のコストがかかることになる。

獲得したところで何もしなければ、他社のサイトに乗り換えられてしまうので、囲い込むコストも必要になる。例えばメンバーズ割引だとかメンバーだけのポイント加算制度だとか。

そうすると囲い込むコストにもまた何億円も必要となる。

 

すでにAmazonや楽天、Yahoo!ショッピングなどという大手ネット通販が乱立する中で、これらに伍してネット通販をやるのであれば何十億円というカネが必要になる。

D2Cブランドがほぼ個人技で小ぢんまりと集客して、小規模年商で採算を取るのとは、同じ「ネット通販」とは言いながら別世界の話となる。

まあ、そんなわけで、500億円規模のアパレルがネット通販に乗り出すならそれなりの覚悟と資金が必要になる。小ぢんまりとしたD2Cブランドの活況を見ても、それはネット通販という見かけは同じでも、内容はボクシングとレスリングほど異なるということになる。

 

ネット通販の強化はある程度必須だとは思うが、中規模・大手は、くれぐれも小ぢんまりとしたD2Cブランドの活況を見て、同一種目だとは思わないことが肝要で、覚悟と資金が必要だということを忘れるべきではない。

 

 

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