「原価率が高い」ことは「高品質」と必ずしもイコールではない
2019年10月17日 産地 0
最近は「原価率高い自慢」の風潮が少し沈静化したような気がする。
単に「原価率」とだけ言った場合、仕入れ原価なのか製造原価なのかが非常にあやふやでわかりにくい。
まあ、今回は製造原価ということで話を進めようかと思う。
製造原価が高いと製品品質が高いのかというと、一概にそうではない。何らかの目安になるというだけの話である。
このところ、薄地シルク生地製造業者とお会いする機会が立て続けにあった。
薄地シルク生地を織れるくらいだから、当然、糸は細い。細く長い糸は低級品質ではないから、特級ではないにしろ、それなりに高級高額な糸だと考えられる。
個人的な感想で言わせてもらうと、薄地のシルク生地というのは、現代の大衆向けファッションには非常に活用しにくいと感じている。
品質は良いが、洗濯や保管に気を使う。また白色は経年とともに確実に黄変するから、白い製品は長く使うことは難しい。
となると、現代のマス層への普及はかなり難しい。
あのユニクロでさえ、シルクの普及には失敗しており、具体的な売上高は公表されていないが、好調だったなら、あのユニクロのことなので定番品として今でも店頭に並んでいたと考えられる。
薄地シルク生地業者の多くが、オリジナル製品開発に知恵を絞っているが、そのほとんどがスカーフかストール、ポケットチーフということになる。
当方が考えてみてもそれくらいにしか活用法が見いだせないから、そうなるのも当然だといえるが、逆に製品での差別化・独自化は難しい。
せいぜいが色柄での差別化・独自化になるが、それとても消費者の購買動機の決定打ではないような気がする。
生地製造業者が、オリジナル製品としてスカーフ、ストール、チーフを選択するのは、縫製が楽で四辺ないし二辺を縫うだけだから縫製工賃が抑えられるという理由もある。また、洋服と異なりパターンも必要ないという理由も大きい。
で、その中の1社から詳細に話を伺うことがあった。
これらの国内薄地シルクのストールはだいたい1万9000円~2万9000円くらいが中心価格帯だと感じるのだが、ある1社はこう言う。
「うちのストールの製造原価は10%台です。多く見積もっても20%未満です」
と。
仮に10%だとして1900~2900円くらいということになる。15%だとしても2850~4350円になる。
これはシルク生地製造業者ならではのコストカットと、あと、先ほども書いたように縫製工賃を抑えたりパターン不要だったりするからという理由も加味される。
さて、このストールは粗悪品だろうか?
もちろん、色柄がダサいとか好みじゃないとか、そういうことで価値を認めない人はいるだろう。色柄も価値の一つだといえるが、個人の好みに負うところが大きい。
しかし、生地の品質については、使用している糸から考えても決して低級ではない。
それこそ「モノヅクリガー」の皆さんが大好きな、昔ながらの技法で織られている。
「原価率20%程度は粗悪品だ」とは一概には言い切れない理由はお分かりだろう。
一方、先日のノゾミ イシグロの倒産でもあるように国内デザイナーズブランドの商品は概して高額である。コム・デ・ギャルソンやヨウジヤマモトのようにネームバリューがあるブランドならその価格にも納得できる人が多いのではないかと思うが、ほとんど無名のようなブランドも2万円・3万円、5万円する商品は珍しくない。
某小規模デザイナーズブランドの製造にかかわった人は
「1型あたり30枚程度の生産数量しかない。こんな枚数では使用する生地の量も知れているし、縫製工場もサンプル扱いになるから、アップチャージで生地代・縫製工賃とも高くならざるを得ない」
と言う。
ブランドがもっと売れて生産数量が1型100枚を越えるようになれば、生地代・縫製工賃ともに劇的に安くなる。小規模デザイナーズブランドは生産数量が少ないから製造工賃が高くなり、その結果商品価格も高くなってしまう。ではこれら小規模デザイナーズブランドの商品の品質は高いといえるのだろうか?場合によってはデザイナー本人がミシンで縫っている場合さえある。その場合の縫製クオリティは一概には高いとは言えない。
で、少量生産だとどうしてアップチャージになるかということはこちらのNOTEに詳しい。
ロット割れチャージアップの謎
超雑にまとめると、経済ロット単価で経済ロット分生産した時にかかる金額を、実際にオーダーした時の数量で割ったら、チャージアップ単価になります。が、合計で割返したらとんでもない単価になるので、それぞれの経済ロットをそれぞれ割返していく感じになります。
ということになる。
これを回避したければ、工場側(生地も染色も縫製も)が提示する経済ロット、ミニマムロットをクリアする必要が出てくる。
地球環境のために洋服をオーダー制に戻せという議論がある。
個人的にはまったく賛同しない。
それはかつて王侯貴族や豪商だけが服(和洋問わず)を手に入れられた時代に逆戻りすることになるし、そもそも糸作り(紡績、合繊メーカー)、生地工場、染色加工場、縫製工場とどの工程も大量生産を前提とした設備で成り立っている。対応しやすいのはミシンを人が動かす縫製段階くらいだろうか。しかし、縫製をオーダー制にしたところで、糸、生地、染色は大量生産を前提とした設備なので量産せざるを得ない。
それはさておき。
縫製工場としてはオーダー制はある程度歓迎する向きもあるが、それとても1枚5000円程度の工賃で30枚製造なんて「やってらない」というのが国内縫製工場の本音である。
もちろん、新規ブランド育成目的だとか、数ある受注の中にそういうものが混じっているとか、そういう場合は別だが、すべての受注が1枚5000円の縫製工賃で30枚生産なんていうことになると、海外工場はもとから受けてくれないだろうが、今残っている国内縫製工場さえほとんど死滅してしまうだろうと考えられる。
小売の立場でいえば、縫製工賃に5000円もかかった服は少なくとも5万円くらいの価格になる。そんな5万円の服が売れる量は知れているだろうから、小売店としても成り立たない。
それはさておき。
洋服において、原価率の高さというのはある部分で品質の目安とはなるが、すべてに通用する評価基準ではない。
少量生産によるアップチャージの連続という非効率な物作りをすれば、自然と原価率は高くなる。逆に薄地シルク生地のような高級品でも効率的にすれば原価率は下がる。だから、「原価率の高さのみ」を売り物にしているブランドは眉唾だと思って話を聞くくらいがちょうど良い。
そんなシルクのストールをどうぞ~
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