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南充浩 オフィシャルブログ

「素人の気持ちがわかる」ということと「素人であること」は全くの別物

2019年10月16日 企業研究 0

様々な業種はそれなりに難しい。

小売店というのもそれに漏れず本当に難しい。

店舗に立っていると、昨日と今日でまるで売れ行きが変わることもある。昨日はさっぱり売れなかったのに、今日はすごく売れるなんてことは珍しくない。

 

一般的に、値段を下げた方が物は売りやすいが、安くしたからと言って売れるわけでもない。声出しをした方が客が寄ってきやすいが、それとて必ず寄ってくるわけではないし、その声がむなしく響く場合もある。

店舗の方が売れている理由、売れない理由がわからないという場合が多い。

これに比べるとネット通販の方が、どういう施策を行ったから集客が増えたとか、集客が増えたけれど売れていない理由はどうしてか?と類推しやすいのではないかと思う。

 

先日、ツイッターでつぶやいたのだが、某大手肌着メーカーの商品本部長が

 

「大手スーパーさんが〇〇%引きというキャンペーンを行っても、売れ行きはほとんど変わらないが、ドン・キホーテさんが弊社商品のキャンペーンを行うと、キャンペーン期間中は如実に売上高が伸びる。ドン・キホーテさんのキャンペーンは売り場の配置を変えて、POPなどを新しくするだけで値引きはしない」

 

と感心していた。

 

当方も大手スーパーの衣料品売り場を覗くことがあるが、肌着売り場に限らずレディースカジュアル売り場も子供服コーナーも常に「〇〇%引き」とか「3枚で〇〇円」という値下げキャンペーンをやっている。客はそれに慣れすぎていて値引きがピンと来ないのではないかと思う。

また、最近はそれなりに商品の良さをアピールするためのPOPが設置されたり、動画が流されたりしているが、それもあまり客の目には映っていないのではないかと感じる。これはディスプレイとかVMDとかの問題ではないかと思う。

 

大手スーパーとドン・キホーテに並ぶくらいの肌着なのでだいたい990~2000円くらいの肌着である。

本来は誰でも買おうと思えば買える値段である。しかし、大手スーパー各社はこれを2割引きしても売れない。逆にドンキは値引きせずに見せ方を変えるだけで売ることができる。

小売業の理想とする形はドンキであり、ドンキの方が大手スーパーよりも小売店としてはプロフェッショナルだといえる。

 

ドンキの特徴は、圧縮陳列で、絶妙なごちゃごちゃ感が支持されている。しかし、何のノウハウもない人間がごちゃごちゃな売り場を作れば、それは単に「汚らしい売り場」となるに過ぎない。

ごちゃごちゃでありながら、客の興味を惹く売り場を作るというのは、言葉では説明できない「コツ」のような物があると想像できる。

コツを体得できなければ、単なる汚らしい売り場が出来上がるだけだが、この「コツ」というのは言葉では説明できない部分があるため、本来は多数の人に体得させることはなかなか難しい。

 

以前にドンキの創業者の著書「安売り王一代」を読んだところ、やはり「コツ」を多数の部下に伝授するのに苦労して失敗した話が書かれていたが、それはそうだろうと逆に納得してしまった。

ではどうやって体得させたかというと、著書によれば、失敗を承知で売り場を部下に任せて何度も失敗させながら「コツ」と体得させたとある。

 

多数の部下にその「コツ」を体得させたこと、それから自社の顧客層の嗜好をキチンと把握しており、それに向けての適切なキャンペーンを実行できる力がドンキの優れた点だろう。

安いだけで売れるなら今頃、大手スーパーの衣料品はもっと売れている。

 

大手スーパーはドンキから学ぶ点は多いのではないかと思う。

大手スーパーは自社の顧客層の嗜好を把握できていないし、売り方もバブル前後のころの「値下げすれば何でも捌ける」というものからいまだに脱却できていない。

 

とはいえ、そんな大手スーパーのおかげで、当方は期末になると福助やグンゼの靴下を二束三文の値段で買うことができるのだから、大手スーパー様様である。(笑)

 

そんなドンキがユニーという大手スーパーを再建できるかどうかは正直なところ不透明だと見ている。ドンキの顧客層とユニーの顧客層は異なる。当然嗜好も異なる。ドンキで学んだ「コツ」がそのまま生かせるとは思えない。当然、ユニーの顧客に適合させる必要が出てくる。これが上手くできるかどうかはわからない。上手くできるかもしれないし、失敗するかもしれない。

 

それにしても大手スーパーの不振はいまだに底が見えない。

食品なんて不可欠な商品であり、それを販売している大手スーパーが不振を極めているのはなんとも不思議なものである。

 

ヨーカ堂、衣料品を半減へ SC化前提で103店は存続

https://senken.co.jp/posts/itoyokado-191016

 

衣料品の自主MDは肌着を除いて原則テナント化、存続決定は158店中103店とするなど構造改革を追加する。

 

とある。その昔「衣料のヨーカドー」と異名をとったことが幻ではなかったかと思わせる有様だ。

個人的には、ヨーカドーに限らず、大手スーパーは衣料品に関しては本部も合わせて結構な素人が集まっていると感じる。

ファッションが好きすぎる人間を集めるのも危険極まりないが、素人を集めても危険である。

 

かつては業界をリードする商品力と効率を誇ったが、消費者心理を優先するとして〝素人〟であることが重視された時期が長く、人材育成が不十分というものだ。そうした状況のもとで大幅圧縮は回避できなかった。

 

とあるが、当時はどういう考えでこういう人事を行っていたのだろうか。当時の首脳はアホだったのだろうか。

素人の気持ちがわかるということと、素人であるということは全くの別物でしかない。

素人であることが尊いなら、そこら辺を歩いているオッサンを捕まえてきて部門を管轄させてみればいいという話になる。

 

その一方で、ファッションが好きすぎる人間を取り込みすぎることもマス層をターゲットとする企業にとっては危険な行為である。

ファッションが好きすぎる人間は、自分の趣味とターゲットへの提案を切り離して考えることができにくい者が多い。

 

「俺は本物のゴワゴワバリバリしたツイードが好きだから、それを客にも売りたい」

 

という手の発想である。

 

しかし、マス層はそんなものは望んでおらず、ツイード調の柔らかくて着やすい生地の方がありがたい。

 

結局のところ、売り場作りには不立文字でしか伝わらない「コツ」があるし、自分の趣味とは切り離して、顧客の嗜好を見極めてそれに沿った提案をするしかない。

時間はかかるがそれしか方法がない。

 

 

ドンキの創業者の著書をどうぞ~

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