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南充浩 オフィシャルブログ

「パンツのソムリエ」って知ってる?実はこれがブランド名という驚き

2019年9月20日 企業研究 0

ブログも含めたSNSというものをやったことによって疎遠になった人がけっこういる。(笑)
それはそれで全然かまわないが、逆に知り合いになった人も多くいる。メリットとデメリットを比較すると、個人的にはメリットの方が大きかったような気がする。

そんな中に、大盛センイという会社がある。これは「たいせいせんい」と読むのだが、字を見ずに音だけ聞くと、「センイ」は「繊維」だろうから、「たいせい繊維」と予想し、当初、素材メーカーや織布工場なのかと思った。

話を聞いてみると、素材メーカーではなく、レディースのカジュアルパンツメーカーである。失礼ながら、社名から製品メーカーであるということはちょっと想像できなかった。実際にお会いして名刺を拝見すると社名は「大盛センイ」と書かれてある。「たいせい」が漢字で「せんい」がカタカナとは思わなかった。

「たいせい」は「大盛」だということがここで初めてわかったが、この「大盛」をいまだにどうしても「牛丼大盛」の「おおもり」と一瞬読んでしまうことは内緒である。(笑)

 

本社は広島県府中市にある。府中市は福山市とも近く、惜しくも倒産してしまったジーンズメーカーのブルーウェイの本社があった場所として当方は馴染みがあった。ジーンズ以外だとワーキングユニフォームメーカーも多い地域である。しかし、当方が不勉強だったのだが、この地域にはカジュアルレディースパンツメーカーも20社前後は集積しているのだそうだ。知ったつもりでいても知らないこともまだまだ多い。

これまではポリエステル・レーヨン混の生地を使った「モンスラ」を小売店や問屋に卸売りする昔ながらのメーカーだったとのこと。「モンスラ」とは何ぞやというと、「モンペスラックス」の略で、およそファッショナブルではない中高年女性向けのカジュアルパンツである。価格もそれほど高くはない。

そんな昔ながらの卸売り型メーカーが自社オリジナルブランドの開発に乗り出したのが3年くらい前の話だ。昔ながらの卸売り型メーカーだから当然世襲経営である。3代目就任予定の今の専務が主導して自社ブランド開発に取り組み始めた。そのオリジナルブランドの名前は「パンツのソムリエ」という。

 

パンツのソムリエ

 

 

 

 

これも社名と同じで、最初に耳で聞いたときには何かのスローガンかキャッチコピーで、ブランド名とは思えなかった。「変わったブランド名やなあ」というのが正直な感想である。
しかし、おかしなもので聞きなれてくるとそんなに悪いブランド名ではないかもしれないと思い始めてくる。(笑)

ただし、表記がちょっとめんどくさいので以下「パンソム」と略する。

 

大盛センイの得意とするのは、ポリエステル・レーヨン混の素材で、地域的にジーンズのイメージが強かった当方は意外だった。どうしても綿素材主体のメーカーだと思ってしまっていたが、実はこの辺りに集積している同業他社も合繊主体のレディースパンツを得意としているという。よく考えてみれば近隣のワーキングユニフォームメーカーは、合繊素材を得意とするから、そういう共通項というか地域特性もあるのかもしれない。

 

価格はだいたい6900~7900円で、30代~40代女性をターゲットとしている。ベーシックで履きやすく脚を綺麗に見せ、前からだけでなく、後ろ姿まで美しく見せるパンツづくりがコンセプトで、ストレッチ性のあるポリエステル・レーヨン・ポリウレタン混生地を使って動きやすさをも重視している。専務の奥様の身長が高い(多分170センチを越えている)ので、なかなか合うパンツがなく、開発に乗り出したとのこと。

 

奥様のような子育て世代には機能性が求められる上に、体型変化があるのでそこに対応していながらおしゃれなデザインという物が中々市場には見当たらないのだそうだ。奥様世代の課題解決を目的として開発された。

 

そして、それ以上にやはり、従来通りの「モンスラ」の卸売りだけでは企業として生き残れないという危機感もあったという。そのあたりの事情は、他の旧来型メーカーが新ブランドや独自ブランド開発に乗り出すのと同じである。

ポリエステル混の生地なので、当然、福山や近隣の岡山に多い綿織布工場からは供給されておらず、主体となるポリエステルスパン(短繊維)は、愛知県一宮市からの供給だという。愛知県一宮市というと、繊維業界では「ウール生地産地」として名高いが、ポリエステルスパンとレーヨン混のウール調生地も得意とする産地だというから、やっぱり繊維業界には知らないことがまだまだあることを痛感させられる。

 

パンソムの主力商品の生地は撚糸を東洋産業、織布を恒川織物、整理加工を艶清興業が担当する。ポリエステルのストレッチ糸だけでは織物には使えないし、何よりもウール調にはならない。製造に詳しい方はご存知のことだが、ストレッチ糸と通常の糸を撚り合わる必要がある。この撚り合わせる工程を「撚糸」といい、岐阜県安八郡にある東洋産業は撚糸専門の工場である。ここで撚糸された糸を愛知県一宮市の恒川織物で織る。通常の織布工場は郊外や住宅地から離れた場所にあるが、恒川織物は住宅地のど真ん中という珍しい立地にある。

東洋産業の機械設備

 

織布工場を見学したことがある方はご存知だろうが、自動織機はすさまじい音が出る。住宅地に隣接していると騒音公害にもなりかねない。しかし、恒川織物は防音が完璧なので、工場外に音が漏れることは一切ない。

今回、実際に恒川織物を訪れたのだが、本当に工場外にはまったく織布音が聞こえてこなかった。すごい防音設備である。

恒川織物の工場風景

そして織り上がった生地を同じく一宮市の艶清興業で整理加工を行う。整理加工というのは地味な工程で、製造加工業に詳しい方以外に知名度は低いが、重要な工程であり、ここで生地の風合いやストレッチ性などをコントロールする。

例えばポリウレタン混のストレッチ生地だが、どれくらいの温度で加熱するかによってストレッチ性の強弱を調節する。高熱を加えすぎるとストレッチ性を全く殺すこともできるが、熱を加えないとポリウレタン糸はゴムみたいな状態なのでちゃんとした生地にはならない。当然、縫製もしにくいということになる。一宮市というとウール生地の整理加工が有名だが、この艶清興業は以前からポリエステル・レーヨン混の生地の整理加工の技術の高さに定評がある。

しっかりとした物作りチームを形成しているところはさすがに老舗メーカーだといえる。

 

さて、このパンソムだが、自社ウェブメディアも立ち上げている。

 

Pants.jp

 

ここでは自社ブランドについてはほぼ触れず、パンツ全般にかかわる知識やコーディネイト、他社商品のレビューなども掲載しており、なかなか利他精神にあふれていると言わねばならない。

最近は自社メディアを立ち上げるブランドも少なくないが、どうしても自社製品のみの掲載になる。

この辺りは「大盛」ならぬ「太っ腹」精神といえる。

 

特に面白いのは、ブランドのパンツを購入して詳細にレビューする「穿いてみた」というコンテンツだ。ユーザー目線で商品の良さについて書かれているので、勉強にもなる。ソムリエとはワインを選定してくれる人の事を指すが、「パンソム」がパンツ全般のキュレーター的役割になっていくという目標の表れだろう。

テレビ通販のショップチャンネルにも定期的に出演していて、発案者の専務自らが新規販路を開拓している。スマホの普及が進み、テレビの影響力は落ちたと言われているが、中高年層には、テレビはまだまだ絶大な影響力を持っているので、現実的に売り上げが稼げているという。

ブランド名もちょっと変わっていて、商品自体は地味といえば地味だが、コツコツと取り組んでいる。旧来型の卸売りメーカーの新規ブランド開発としてはありふれているが、成功事例の一つになってほしいと思っている。

 

 

コムサイズムとコラボをしている「パンソム」商品をどうぞ~

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