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南充浩 オフィシャルブログ

低価格パターンオーダーが増えてもメンズスーツ市場規模は再拡大しない

2019年9月19日 トレンド 0

メンズスーツ市場はピーク時には8000億円あったのだが、今は2000億円くらいにまで縮小している。

縮小した理由は主に3つある

1、圧倒的人口の団塊世代がリタイアした

2、商品の単価が下がった

3、オフィスのカジュアル化(スーツを着なくてもよくなった)

である。

 

で、近年注目されているのが低価格パターンオーダースーツで、この市場は伸びているといわれる。しかし、本当にそうだろうか。

統計などは出ていないから正確なことはなんとも言えないが、スーツの市場規模は変わらず、その中身が既製品から低価格パターンオーダーに代わっているだけではないかと感じる。

そして、いつの時代でもそうだが、少し伸びていると見える市場があるなら各社が突っ込んできて瞬く間にレッドオーシャン化する。低価格パターンオーダーも同様である。

 

メディアは「目新しい」と持ち上げるが当方からすると低価格パターンオーダーはさほど目新しいとは感じない。なぜならすでに15年くらい前からあるからだ。

それ以前からあるだろう。走りは麻布テーラーあたりだろうか。

 

2万円台とか3万円台でパターンオーダーが入手できるなら、同じ価格の既製服よりもそちらを選ぶのは当然である。

だから、既製服が低価格パターンオーダーに置き換わっているだけだということになる。

 

青山商事が新オーダースーツブランド「シタテ」を立ち上げ、1着税別3万円未満で購入可能

https://www.fashionsnap.com/article/2019-09-18/aoyama-shitate/

 

当方はこのブランド名についつい「ル」を付けてしまいたくなる。(笑)

 

新ブランドでは「もっと多くの人に、もっと気軽に」をテーマに掲げ、ユニバーサルランゲージ・メジャーズでカバーしきれなかったフレッシャーズといったスーツ入門者を中心に低価格のオーダースーツを提供。ユニバーサルランゲージ・メジャーズではジャケットとパンツのセットを1着3万9,000円から購入できるが、新ブランドでは1万円引き下げ、1着2万9,000円(いずれも税別)から購入できるようにした。

 

とあるが、当方にはピンと来ない。

なぜわざわざブランド名を分ける必要があったのだろうか。それがすでに既存でそこそこに知名度のあるブランド名ならまだしも「シタテル シタテ」なんて無名なブランドをわざわざ設立する必要があったのだろうかと思う。それよりもユニバーサルランゲージ・メジャーズを拡大した方が良かったのではないかと思う。

 

あと、

2018年度(2018年4月〜2019年3月末)のオーダー事業の売上高が前年比で50%増加したという。

とあるが、これは気休め程度にしかならないだろう。

 

なぜなら、低価格パターンオーダーの売上高はそれほど多くないから大幅に伸ばすことが可能である。とくに増減率は。

極端な例え方をすると、売上高8500億円のユニクロの売上高を10%伸ばすのは至難の業だが、1億円程度のブランドの売上高を50%伸ばすのはまだ容易である。そして50%伸ばしたとて1億5000万円に過ぎない。

青山商事のパターンオーダー事業の大幅増収も同じである。

 

さて、この低価格パターンオーダー市場だが、先ごろ5万円くらいの価格で三陽商会も参入してきた。5万円は果たして低価格なのだろうかと疑問に感じる部分もあるが、まあ、一応は仲間ということにしておくと、この市場はすぐに飽和状態に達すると感じる。

すでに飽和状態ではないかとも思う。

 

成長市場というが、総額2000億円という市場規模は変わらず、下手をするとさらに縮小する可能性もある。

そのなかで構成比が変わるだけの話でしかない。

 

低価格パターンオーダーではデジタルによる一発計測がブームだが、すごく便利で正確だというわけではない。かつてのZOZOSUITがその例だといえる。

オンワード樫山のカシヤマ・ザ・スマートテイラーは人間が計測する。他のパターンオーダーでも人間が計測する。そしてこちらの方は計測に不備が少ない。

これは何故かということを河合拓さんがときどき言及しておられる。

 

その理由は簡単で、パターンオーダーというのは、ゲージ服と言われる「基準服」を最初に着用する。そこで基準服を基として、サイズを縮めたり出したりする。

河合さんの言葉を借りると「差異を無くする」という作業を繰り返す。

一方のデジタル計測の場合、デジタルでサイズを計測し、それを基に一発勝負で製品を作る。当然、誤差が生じる場合がある。

 

この違いである。

 

そしてフルオーダーになると、通常だともっと「差異を無くする」工程が増える。

フルオーダーは計測してパターン(型紙)から起こすわけだが、仮縫いの時点で試着することになる。その上で、差異を無くする。

一発勝負よりも何度も差異を小刻みに無くす方が出来上がった製品が正確なのは当たり前だといえる。

 

メディアやデジタル業者は「デジタルディスラプション(デジタルによる創造的破壊)」を華麗に演出したいのかもしれないが、現在の技術ではそこまでの正確性がないというのが実情だろう。だから誤差騒動が起きたといえる。

いずれ何年か後、何十年か後にはできるかもしれないが、一足飛びの実現は難しいだろう。

 

 

そのうえで、縮小傾向にあるスーツ市場で、飽和状態を迎えつつある低価格パターンオーダー市場だが、小規模業者ならそこでも生きていけるのではないかと思う。どの市場でも小規模業者は資本力がない分苦戦するが、大手ほどの売上高や利益額が無くても存続できるという側面がある。

 

極端な言い方をすれば、5人でやってるから売上高3億円でも十分という状況だってある。

そういう意味では、低価格パターンオーダー市場に大手の参入が続いているが、小規模業者も知恵を絞れば細々と生き残ることは可能ではないかと思う。

 

 

そんなわけで個人的には低価格パターンオーダー市場は大手が求めるほどの莫大な売上高は見込めない市場ではないかと思って眺めている。

 

 

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