補修・メンテナンスの重要性
2019年9月5日 産地 1
衣料品や生地の国産を守るのは知れば知るほど難しいと感じる。
断っておくと、当方は「国産滅びろ」と思っているわけではない。
国産でやりたいと考えている人がいるなら、それはそれでやれる状況が残ればいいと思っている。ただ、漫然と「国産品です」というだけでは売れないから、工夫する必要があると考えている。
漫然と工夫なく「国産品です。だから高いです」という姿勢で売れなくてもそれは自業自得だと思っている。
先日、合繊関係者からこんな話を聞いた。
「旭化成はベンベルグ(キュプラ)の主に工場社屋が老朽化しているが、それをリニューアルする意思がない。今後、ベンベルグの生産量が減ることはあっても増えることはない」
とのことだった。
大手紡績の国内生産工場の9割が無くなったり稼働したりしていないと言われる状況に加えて、合繊メーカーも国内生産設備を無くしたり、増強せずにいたりする。
以前にも書いたが、現在、多数の有名ブランドとコラボをしている某大手合繊メーカーの某素材も糸自体は台湾からの輸入だという。
そういう状況であることに加えて、ベンベルグとキュプラで知られる旭化成もそのようであるなら、綿糸に限らず合成繊維分野でも国産が減ることはあっても増えることはないといえる。
糸の国産が減れば、生地の国産が減ることも当たり前だといえる。
なぜなら、縫製はすでにアジアへ移転して久しいから、糸を輸入して国内で生地化して、また縫製のために海外へ輸出するというのではコストも時間もかかりすぎる。
海外糸を海外で生地化して海外で縫製した方がコストも時間も省ける。
これに加えて、国内工場で話を聞いていて深刻だと感じるのは、機械の問題である。
先ほどの関係者の話のように機械設備に再投資しないということもあるが、そもそも製造に必要な機械が生産されていない、機械部品が生産されていない、ということもある。
いくら、「国内であと何十年間も物を作り続ける」と意気込んだところで、製造する機械や機械部品が入手できなくてはどうしようもない。
機械は故障するものだし、使い続けていればいつかは壊れる。
機械そのものが壊れなくても部品はすり減って使えなくなる。
そうなった場合、修理や部品交換ができないことにはどうしようもない。
今時、手織りや手染め、手動織機を使っている工場なんてほとんどないし、そんな製品もほとんどない。
あるとしても民芸品や工芸品、クラフトの世界で、量産品の世界ではない。
手縫いだってほとんどないし、当方は手縫いの製品が好きではない。
手縫いで微妙に歪んだ縫い目よりも整って正確なミシンの縫い目の方が好きである。
手縫いの歪みに味は別段覚えない。
当方の好き嫌いは別として、機械設備の補修や修理ができない・できにくいというのは大変な状況である。
もっとも、この状況は今に始まったことではなく、すでに20年くらい前から業界では言われていた。2019年現在、それがますます顕在化したというだけのことに過ぎない。
何事につけても、補修・メンテナンス・修理が重要なことは言うまでもないが、我々はついついその重要性を忘れがちである。
塩野七生さんの「ローマ人の物語」には、ローマ人が水道や道路などの公共設備のメンテナンスをことのほか重視したことが書かれていて勉強になった。
ローマ帝国の隆盛時には定期的にメンテナンスが繰り返されていて利便性が保たれていたが、衰退期に入るとメンテナンスがされなくなり荒れ始める。
帝国滅亡後は逆に文明は衰退してしまうので、メンテナンスのメの字もなく放置されて現代に至る。
我が国でも何年か前にトンネルの崩落事故があり、それはメンテナンス不足が原因だということが指摘された。普段はどの分野においても、メンテナンスなんて重要だと考えている人はほとんどいないが、そういう状態になって初めてメンテナンスの重要性が認識される。
製造に必要な機械類も同様で、国産について論じている人も、よほど製造加工関係に精通した人以外は、機械のメンテナンスや補修、修理については念頭にない。当方も含めて。
しかし、いくらやる気と熱意と情熱があったって、機械が動かなければ糸も生地も製造することはできない。
竹槍で最新鋭機と戦うことはできない。
先日、訪問した撚糸工場、織布工場、整理加工場でも機械の生産終了や機械部品の生産終了が話題に上っており、現在のところは、廃業した工場から譲り受けた機械を分解してその部品を使っているが、そのストックがなくなればどうすれば良いのかということに頭を痛めていた。
国内の繊維製造加工業を育成するとか、保護するとか言っても、国産糸の減少や機械類の製造終了という根本的な問題を解決しないことには、単なる努力目標の提示だったり、精神論を公言するだけになってしまう。
なかなか難しい問題で、当方には解決の糸口さえ見つけられないのだが、「物作りに対する情熱」だけではどうにもできない問題が横たわっていることを認識する必要があるのではないかと思う。
ローマ人の物語全巻セットをどうぞ~
メンテナンスという見えない投資に限っては、真っ当な雇用環境や人件費も同様に感じました。