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南充浩 オフィシャルブログ

フィラメント糸とスパン糸の違い

2019年8月29日 素材 0

前回はリサイクルコットンについて書いた。

同じリサイクルといっても、リサイクルポリエステルとはちょっと違う。

リサイクルポリエステルは廃棄されるペットボトルを再加工してポリエステル糸にするものだが、リサイクルコットンは綿製品を崩して綿糸にするわけではない。

原綿を綿糸にする際(これを紡績という)に零れ落ちる「落ち綿」を集めて綿糸に紡績したものを指す。

 

また最近ではリサイクルレザーというのもある。

これはレザー製品を作った時にでるレザーの切れ端を集めて、樹脂などと混ぜてシート状にしたもので、これを裁断してまた製品を作るというわけで、リサイクルポリエステルと考え方が近い。

 

リサイクルポリエステルがそれなりに有名だから、リサイクルコットンも同様に綿製品を分解して再度綿糸にすると考えてしまう人がいてもおかしくはない。

前回にも書いたが、ファッション業界と言っても、製造加工分野とファッション分野は知識的に大いに分断されているため、製造加工業者からすればリサイクルコットンの内容については「当たり前の常識」だが、製造加工の知識を持たないファッション分野の人からすればリサイクルポリエステルみたいなものと考えても不思議はない。

 

先日、ある衣料品業者と商談した。

この衣料品業者は二種類のメイン商材を持っている。

1つは、ポリエステルのおばちゃん向けのデイリーユースなズボン

もう1つは、ポリエステルレーヨンストレッチのいわゆるレディースストレッチパンツ

である。

同じポリエステルでもおばちゃん向けはフィラメント糸で織られた生地を使用し、レディースストレッチパンツはスパン糸で織られた生地を使っている。

で、その際、当方の横にはファッションEC関係の方がおられたのだが、ちょっと横眼でその表情を伺うと

「フィラメント?スパン?なにそれ?美味しいの?」

という怪訝な色が浮かんでいた。

 

あ、もしかしたらスパンとフィラメントの違いがわからないのかもしれない

 

とその時感じた。

 

製造加工関係者にとっては基本中の基本であるフィラメントとスパンの違いだが、実はファッション分野に住んでいる人は分かっていない場合が少なくない。

知識のある人は読み飛ばしてもらいたい。

 

糸を構成する繊維には繊維長(繊維の長さ)が長い長繊維と、短い短繊維がある。

長繊維のことをフィラメント、短繊維のことをスパンと呼ぶ。

綿、麻、ウールはどんなに長くても繊維長は1メートルも2メートルもなくて何センチ程度なので必然的に短繊維(スパン)になる。スパンはステープルとも呼ばれる。

スフ糸という呼び方もあるが、これはステープルファイバーの略語で要するに短繊維ということである。

 

一方、シルク、それからポリエステルやナイロンなどの石油系の合繊は、何メートルもの長さの繊維を作ることができる。シルクは天然繊維だが、繭の糸なので、これまた驚くほど繊維長の長い糸ができる。

これらは長繊維(フィラメント)である。

しかし、ポリエステルやナイロンは技術的には何メートルもの長さの長繊維を作ることは容易だが、同時にそれを短く切ることで短繊維にもできる。

1メートルくらいの金太郎あめを5センチずつに切るようなイメージを思い浮かべてもらえばわかりやすい。

 

じゃあ、どうしてわざわざポリエステルやナイロンでスパンを作る必要があるのか、である。

これも製造加工分野の人なら説明する必要もないだろうが今回はそういう趣旨ではないので、一例を示して説明してみる。

 

合繊長繊維で生地を織るといわゆるピカピカ・ツルツルの滑らかな生地になりやすい。

すべての衣服がピカピカ・ピカピカを求めているわけでない。例えばビンテージジーンズやらミリタリーパンツやらみたいにざっくりとした表面感の生地が求められる衣服もある。

8オンスクラスの厚手のTシャツだってそうだろう。

 

そういう衣服は綿生地で作ればいいじゃないかといわれそうだが、綿だと吸水速乾性がない。分厚いけど吸水速乾とか本格的なミリタリーパンツなのに吸水速乾みたいな機能性を付加しようとすると、綿100%では不可能になる。そういう際には合繊スパン糸を使うと、合繊でありながら綿みたいな風合いの生地にすることができてしまう。

だから合繊でわざわざスパン糸を作るのである。

ご理解いただけただろうか。

 

え?これがポリエステル生地?ゴワゴワで綿100%生地みたい

 

というような合繊パンツは基本的に合繊スパン糸が使われている場合が多い。

以上が基本的なフィラメントとスパンの違いであり、それぞれに応じた用途があるということである。

 

ちょっと面白かったのがこの衣料品業者は、フィラメントを使った自社製品を「合繊物」と呼び、スパンの自社製品を「合繊物」とは呼ばなかった点だった。

ということは、この業者の社内ルールとしてはスパン製品は天然素材に近い、もしくは類した、ととらえているのではないかということになる。

これがこの業者特有の区分なのか、それともこの業者の同業他社も含めた区分なのか、それは次回にぜひ尋ねてみたいと思った。

 

今回何が言いたかったのかというと、同席したファッションECの方も決して製造に関しては無知ではない。むしろそのあたりのチャラっとしたファッソニスタよりはよほど詳しいが、それでもフィラメントとスパンについてはわからないのである。一口に「ファッション業界」とか「衣料品業界」「繊維・ファッション業界」と言っても、製造加工分野とファッション分野、流通分野との知識の断絶というのは同じ業界とまとめられにくいほどだといえる。

 

製造加工分野はフィラメントとスパンの違いみたいな基本中の基本でも、「当たり前の常識やん」と思わずに随時発信し続ける必要がある。

 

フィラメント糸をどうぞ~

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