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南充浩 オフィシャルブログ

リサイクルコットンに対する誤解あれこれ

2019年8月28日 素材 0

現代社会は何の分野にしても高度に専門化しているため、分野外の人からするとわかりにくい部分が多い。

衣料品や繊維業界も同様である。

衣料品だと製造加工分野といわゆるファッション分野には大きな断絶があり、ファッション分野の人が製造加工の分野を熟知している例はあまりにも少ない。

だから、製造加工分野の人からすれば「当たり前のこと」がファッション分野の人にとっては目新しかったりしてしまう。

 

それを改めて感じたのがこの記事である。

「リサイクルコットンの誤解」

https://note.mu/halyang/n/n23b6e5ce2598

 

20年前から存在し、ようやく最近技術的にも商業ベースに乗りつつあるのがリサイクルポリエステルである。

これはペットボトルを回収し、ポリエステル糸に作り替えたもので、非常にエコな取り組みだといえるが、長い間鳴かず飛ばずの状態にあった。

理由は物性が悪いからである。

当時のリサイクルポリエステルは風合いが硬くなってしまい、特定の用途にしか使えなかった。

また、完全に脱色することができずに染色も自由ではなかった。

おまけに製造コストが高かった。

高い割に品質が悪いから長いことリサイクルポリエステルは普及しなかった。

そりゃ当然である。どこの消費者が高くて悪い物を買いたいというのか。

 

それも徐々に改良され現在では用途が広がってきたと感じる。

 

しかし、リサイクルコットンというのは同じ「リサイクル」でも何かの不要製品をバラして再構成したものではない。

原綿を紡績して綿糸にする際、こぼれ落ちた原綿を回収して綿糸にしたものである。

言っては悪いが、こんなことは製造加工分野では常識中の常識である。

 

しかし、製造加工とファッションでは大きな断絶があるから、それを知らないというファッション分野の人もいても不思議ではない。

 

で、メディアも同様だし、その上に見出しを煽情的なものにした方が読まれやすいから

【ペットボトルと廃棄された衣服からできたTシャツ】
ペットボトルなどからできた「リサイクルポリエステル」と、衣服からもう一度繊維に再生させた「リサイクルコットン」からできたTシャツ。

なんて表現を使ってしまう。

 

ただし、この記事は、本文中では「落ち綿を糸にしたリサイクルコットン」と正解を明記しているから、見出しだけが問題であるということがわかる。

しかし、ライト層にそのような煽情的な見出しだけが広まるのは物事の本質が見えなくなるという点において、百害あって一利なしだといえる。

 

もちろん、落ち綿を使って商売のネタにするというのは基本的には良いことだと思っている。

引用した山本晴邦さんのNOTEでも書いておられるように、本来はゴミとして捨てるほど原価が低い物を製品化して現金化するというのはビジネス的にも正しいといえる。

ビジネスの基本はいかに安く仕入れた商品をいかに高く売るかにある。

 

とはいえ、この「落ち綿ビジネス」にはなかなかグレーなところがあるのも事実である。

例えば、オーガニックコットンの落ち綿である。

現に某社がそれを使った生地を安値で売り出している。

それは一つのビジネスとしては正解なのだが、オーガニックコットンと銘打つのはどうかという問題がある。

 

無農薬・無価格肥料で栽培された綿花をオーガニックコットンと呼ぶことは統一された定義である。ちなみに無農薬・無化学肥料の土壌で3年が経過しないとオーガニックコットンではないというのも統一されている。

 

しかし、オーガニックコットンには定義の解釈の違いがいくつかあって、ある業者は「完全に国別・畑別にまで追跡調査が可能な物がオーガニックコットンだ」という高い基準を定義としている。

そういう業者から見ると、落ち綿オーガニックコットンというのは果たして「オーガニックコットン」と言い切って良いのか?という疑問が出てくるのも当然だといえる。

 

落ち綿を集めるということは、さまざまな国で栽培された原綿がまじりあうことにもなるし、何より、床の上に落ちている微細な塵やホコリも同時に混ざってしまうことにもなる。

そういう異物が入った物を「オーガニックコットン」と断言して商標を付けることはどうなのかという疑問が出ることもまた当然の流れだといえる。

あまり知られていないが実はそんな論争があることもまた事実である。

 

例えば、生地を織る・編む際に残った「残糸」、生地を裁断した際に出る「残布」などを他の製品に活用するというエコビジネスがにわかに注目されているが、実はそんなことは何十年も前からやっていることである。とくに「残糸」については、それを他の生地として再利用するのは当たり前中の当たり前である。

同様に「落ち綿」だってとっくの昔から再利用されている。

山本さんの記事にもあるように

 

昔からこの辺の規格外繊維は別途使用されています。布団のわたとか、産業資材用不織布とか。衣料用原糸として再利用されているからリサイクルコットンと言われているだけで、今まで別に環境負荷をかけていたわけではありませんし、コットンだけ捨てたとしてもちゃんと土に還りますから。

実は紡績各社自体も、このリサイクルコットンに関して特段『eco』を価値訴求していません。グレーな表現ではありますが、ただ落ち綿をリサイクルしているからリサイクルコットンとして糸を売っているので、僕にしてみると、使用者側が『一方的に付加した過大イメージ』という認識です。

 

というのが実態であり、昔から紡績各社だって使っていたがことさら「エコ」なんて打ち出しはしてこなかった。消費者の自宅にはとっくの昔に落ち綿製品が並んでいる。

売らんがための販促ツール、製造加工分野についての知識がないため新しいと思ってしまった、だいたいそんなところが実情でしかない。

コロンブスは「新大陸」を発見したといわれるが、別に大陸が新しくできたわけではなく、昔から大陸はあって多くの原住民が住んでいてそれなりの文明を築いていたというのとちょっと似ている。

 

だからやっぱり製造加工側ももっと情報を発信すべきで、それにより一人でも多くの人に正しい知識が伝わることを目指さなくてはならないと思う。

 

 

そんなリサイクルコットンのTシャツをどうぞ~

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