短期間で姿を消した990円ジーンズ
2019年8月23日 ジーンズ 0
前回、低価格ジーンズについて久しぶりにまとめてみた。
2900~3900円のジーンズというのは少なくとも90年代にはすでに存在していた。
当方はまだ学生だったので記憶が朧げだが、おそらく80年代にも存在していたと考えられる。
となると少なくとも30年前にはすでに量販店の店頭には存在していたということになる。
2019年現在、低価格ブランドに並べられているジーンズはだいたい1900円~3900円くらいが中心価格帯なので、その当時と大きく変わっていないというのが当方の主観である。
しかし、人間の主観によって認知される事実は異なることが往々にしてある。
ジーユーの990円ジーンズをいまだに強く印象に残されている方も多くおられるようで、そのようなコメントもいただいた。
ジーユーの990円ジーンズが発売されて今年で実は10年が経過した。どうだろうか、当方と同じオッサン・オバハン連中は昨日のことのように記憶していると思うのだが、月日が流れるのは早い物でもうあれから10年が経過した。
ジーユーが990円ジーンズを発売したのは2009年春のことである。
世間に強い印象を与えた990円ジーンズだが、2019年の店頭にはすでに無い。
2019年どころか、990円ジーンズ(他の量販店も追随した1000円未満ジーンズも含める)という商品は意外に世間には受け入れられにくく、3年ぐらいで店頭から姿を消した。
ジーユーは990円ジーンズを仕掛けて起死回生に成功したが、他の量販店はほとんど売れずに終わった。
今から思うと隔世の感があるが、劣化版ユニクロとしてスタートしてから鳴かず飛ばずの低迷を続けていたジーユーは2009年春に990円ジーンズを仕掛けることで勝負に出た。あの当時の状況を考えると失敗すれば終わりという背水の陣だった。
ジーユーが仕掛けた理由は2008年に起きたリーマンショックによる不況があった。
ジーユーはこの賭けに勝ち、翌年から劣化版ユニクロを脱してトレンド型ブランドへと変貌を遂げて2000億円ブランドに成長した。
しかし、そのジーユーとても3年後くらいには990円ジーンズを廃止している。
遅くとも2013年頃にはジーユーも含めた1000円未満ジーンズは店頭からほぼ姿を消していた。一部の量販店にはあったが、それも追加生産された物ではなく、ジーユーに追随したときに作られた売れ残り品だったというのが真相である。
結局のところ、「まともな」ジーンズを店頭販売価格1000円未満の設定で企画生産することは無理だということが証明されたといえる。
もっとも、売れ残り品を1000円未満に値下げして処分する場合はある。現にジーユーの店頭では590~990円に値下げされた各種カジュアルパンツが数多くある。
しかし、定価1000円未満で「まともな」ジーンズを企画生産することはできない。
今秋のジーユーもジーンズを打ち出しているが、そのどれもが定価2490円である。
10年前に打ち出した990円ジーンズから比べると実に1500円の値上げである。
H&Mの店頭を見てもジーンズの定価は安くても1799円が最低ラインであり、定価1000円未満のジーンズはここにも存在しない。
ユニクロのジーンズは定価が3990円である。これも98年頃に比べると1000円値上がりしている。
10年前に量販店の店頭で1000円未満ジーンズを見たが、どれもがそれ相応の粗悪品だった。もちろんジーユーの990円ジーンズも買う理由が見当たらないレベルの値段相応の商品だった。
だから、いくら安物好きの当方でも買わなかった。
多少、これはマシかなと思うジーンズもあったがそれは定価1000円を越えていた。安くても1490円、高ければ1900円前後というのが平均水準だった。
となると、「まともな」ジーンズを作ろうと思えば、定価は最低でも1900円になるということだと、2009年当時思ったし、1000円未満ジーンズが店頭から消えた2019年にはなおさらそう思う。990円ジーンズを売りにしたジーユーが2490円ジーンズで統一しているのが何よりもそれを証明している。
大手総合スーパー各社の1000円未満ジーンズはさっぱり売れなかったにもかかわらず、数の論理を追求してドカンと追加生産したものだから、某社だけで30万枚くらいの不良在庫があったと、その当時にベテラン業界人から聞いた。その後の1000円未満ジーンズの消え去り具合を見ると、この情報の確度は高かったのではないかと考えられる。
ジーユーも含めた1000円未満ジーンズの何が悪かったかというと、やはりデニム生地の風合いだろう。当方は「このデニム生地はチープ感満載だな」と思った。言語化することは難しいのだが、パッと見た感じ、触った感じともにチープ感しかなかった。これを買うくらいなら1990円に値下がりしたユニクロの売れ残りジーンズを買った方がはるかにマシだった。
だから大手総合スーパーの商品は売れなかったのではないかと思う。かつてのユニクロのフリースのように、1万円の物を1900円で実現したという状態なら、飛ぶように売れただろう。
しかし、2009年当時はすでにユニクロがビッグブランドに育ち、無印良品のデザインレベルも向上していた。この両ブランドのジーンズは定価3990円で、値下がりすれば1990~2990円になる。
そして全国に店が溢れており、バブル期のように「安いジーンズを扱っている店を見つけにくい」という状況でもなかった。
となると、昔のように高いジーンズしか見たことがないという人が多いわけではなく、1900円に値下がりしたユニクロや無印良品のジーンズを見慣れている人がほとんどだったということになる。
そんな人に「990円ジーンズ」と言ったところでさして割安感を感じるはずもないし、商品のクオリティは圧倒的にチープだからわざわざ買う必要もないということになる。
売れなかったから継続するはずもない。
また生産地であったアジア各地の経済成長によって人件費が高騰したということもあり、物理的に1000円未満ジーンズを作ることはできなくなったという理由もあるだろう。
つらつらと書いてきたが、990円ジーンズが姿を消してすでに7年くらいが経過した今となっては、低価格ジーンズというのは1900~3900円くらいを指すと当方は認識しているということを説明したかったわけである。
そして、それらは80年代・90年代にもすでに存在した商品だから、ジーンズ業界人がことさらに「低価格ジーンズが増えた」と嘆いたところで、「25年くらい前と同じ状況ですやん」という感想にしかならない。
逆に姿を消して相当の時間が経過しているにもかかわらず、990円ジーンズがいまだに強く印象に残っている人が多数いて、それを基に市場を分析しているとわかって驚いている次第だが、世間というのはこれに限らずそんなものかもしれないとも思った。
前回に書いたように、今の低価格帯ジーンズは、カイタックファミリーやコイズミクロージング、GLハートあたりが活況だった30年前と同じ価格になっているというのが事実といえる。
もちろん、2490~3990円ジーンズを扱うブランド数は増えている。消費者の認知もバブル期よりは高まった。その部分は異なるが、業界人やメディアが嘆くような「990円ジーンズ」はかなり前から存在が消滅している。そこに強くこだわるのは幻影に怯えるようなものではないかと思う。
1000円未満ジーンズというのは一過性に終わった時代のあだ花だったといえる。
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