低価格ジーンズは昔からあった
2019年8月22日 お買い得品 0
ちょっとジーンズ関連が続いて申し訳ないが、低価格ジーンズについて振り返ってみたいと思う。
この記事に以下のような一節がある。
マックハウスの担当者は「従来のようなナショナルブランドのジーンズより、低価格帯を好む層も増えた。他社も低価格のプライベートブランドのジーンズに力を入れている」。
とのことで、その昔、30年前とか25年前には低価格ジーンズは存在せずに6900円以上のジーンズばかりが売られていたのかというと、実はそうではない。
その頃にもすでに低価格ジーンズはあった。
当方と同年配やそれよりも年上の方からすると「今更何を」と思われるかもしれないが、そういう事実を知らないという若い方もおられるので、そちらに向けてまとめてみたい。
ユニクロの登場でジーンズも低価格化といわれるが、実はそうではなく、ユニクロの登場以前から低価格ジーンズはあった。
現存している企業でいうと、カイタックファミリーである。
ちょっとややこしいのだが、カイタックファミリーはもともと量販店向けのパジャマや肌着をメインとする会社で、地味ながらカイタックグループでは稼ぎ頭だった。
カイタックグループの中でジーンズといえば、カイタックインターナショナルを思い浮かべる方も多いが、もともとは量販店向けジーンズも長らく手掛けていた。というよりインポート高額ジーンズが話題になるまではカイタックインターナショナルは量販店向けレディースジーンズが主力事業だった。
それが6年ほど前に、量販店向けジーンズ部門が同じ量販店向けということでカイタックファミリーへ異動した。
2900~5900円くらいの量販店向けジーンズを今も手掛けている。
無くなったブランドでいえば、ビッグジョンの「GLハート」と「ジョージア ラブ」だろう。
GLハートがメンズ、ジョージアがレディースの量販店向けジーンズだった。当時の中心価格帯は3900円で、ユニクロが大ブームになったころは、こちらの評価も高く、某繊維業界新聞のジーンズ担当記者は「低価格ゾーンでもっとも評価できるのはGLハート」と話していたほどである。
また、旧ボブソンも同じボブソンブランドで2900~3900円の量販店向けジーンズを手掛けていた。
旧ボブソンはソフトジーンズ「04ジーンズ」を開発したことでもわかるように、割合に機能性商品やアイデア商品を得意としていた。すでに2000年前後に、2010年代にユニクロやしまむらなどで大ヒットとなった保温ジーンズを量販店向けに開発しており、時代よりも早すぎたと感じられなんとも惜しい。
旧ボブソンは不思議な考え方をする会社で、2900円の量販店向けジーンズから1万数千円のジーンズまですべて「ボブソン」の統一ブランドで展開しようとしていた。
このあたりは、安い商品から高額なビンテージレプリカまですべて「リーバイス」ブランドで統一していたリーバイスと似たような考え方なのではないかと思う。
しかし、日本人にとっては、高い商品も安い商品も同じブランド名というのは受け入れられにくかったのだろう。
ビッグジョンのように価格帯で明確にブランド名を分けた方が良かったのではないか。
ビッグジョン、旧ボブソンともに低価格ゾーンでの商品の品質やアイデアはそれなりの水準にあったが、大きな売上高につながらずブランド自体が無くなってしまったのは、物作りだけではダメだということを証明しているといえる。
営業、販促、広報、宣伝などに不備があったといえ、このあたりは「モノヅクリ系ブランド」は他山の石とすべきだろう。
業界的に知る人ぞ知るという存在は小泉アパレルのデニム事業部(現社名:コイズミクロージング)だろう。
ここもレディースの量販店向けジーンズを得意としていた。80年代・90年代のここの勝利の方程式は、トレンドのジーンズを一早く察知して、それを商品化するというやり方で、2900~3900円という値段の割にはなかなかの見え方のレディースジーンズを企画製造していた。
それはそれで評価が高かったのだが、それよりも名を馳せたのは、ここが長い間、ユニクロのレディースジーンズの一部をOEM生産しており、最後に契約がなくなったのは2010年代に入ってからだと聞いている。もっとも最後の方はレディースジーンズではなくレギンスパンツみたいなのを請け負っていたといわれている。
今でこそ、自社オリジナル商品のSPAであるユニクロだが、当初は仕入れ品が多かった。以前にも書いたことがあるが、94年頃から関西地区に積極的に出店が始まり、その頃、店頭を見に行ったが、コンバースの2900円のトレーナーやリーバイスの5900円のジーンズが多かったという記憶がある。
自社オリジナル品を企画するにも、生産するにもそれなりのノウハウが必要だから、小売店出身のユニクロは当初は他社ブランドの仕入れやOEM生産を多用していた。
2900円のコンバースのトレーナーということは、この商品は岐阜の大手、美濃屋から仕入れいている。
ユニクロが徐々にオリジナル比率を高めていく中で、最後までOEM生産で残ったのがメンズトップス類では美濃屋、レディースボトムスではコイズミクロージングだった。
また話は横道にそれるが、欧州にはバルマン(BALMAIN)という高額ブランドがあり、それなりの知名度を日本でも誇るが、なかなか日本には本格上陸しない。
なぜかというと、バルマン(VALMAN)という商標は国内ではコイズミクロージングが所有しており、オリジナル商品を今でも企画製造しているからである。
ちなみに久しぶりにウェブで検索してみると、コイズミクロージングのサイトにいつの間にかオンライン通販もリンクされている。まあ、これだけオンライン通販が普及すれば当然だろうとは思う。その中にVALMANショップもある。
普段のウェブ検索やSNSではほとんど流れてこないから、それほど大した売上高ではないと推測するが、これほど大々的にウェブ通販サイトまで開設しているとなると、BALMAINが本格上陸するのはますます難しくなったのではないかと思う。
知る範囲で低価格ジーンズを思い返してみたが、低価格衣料品というのは、何も最近突然に表れたものではなく、以前から存在していたということである。ただ、低価格品の母数が大きくなったのはユニクロブーム以降のことかもしれないが、例えば量販店向け衣料品を手掛けている美濃屋は今でも400億円内外の売上高(ピーク時は600億円)があるし、カイタックファミリーだって300億円内外の売上高がある。
チャラついたファッショニスタやファッションメディアがこれまで注目してこなかっただけでそれなりの売り上げ規模をずっと以前から稼いでいたということになる。
そこの認識を誤ると、付け焼刃での低価格品強化という悪手を打ってしまうことになる。その結果が今のアパレル業界の惨状につながっている側面がある。
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